失えない+:浩大編





※「失えない」より、作中に出てきた浩大の本気とやらを書いてみました。
※ 痛い表現があるのでご注意ください。
それでも良い方のみ、下へスクロールをどうぞ。




































 逃げる男の頭上を影が通り過ぎ、立ち塞がるように男の前に降り立つ。

「アンタだけは逃がさないよ。―――それが陛下の命令だ。」


 そこにいるのはまだ少年のような、幼い顔立ちの小柄な男。
 ただその瞳は獰猛な獣のようで、睨まれて背筋に悪寒が走った。


「…ま、命じられなくても、オレはアンタを許す気ないけどね。」
 男の手に納まる鞭がまるで生きているかのようにしなる。
 男が狙う獲物は―――自分だ。

 咄嗟に弓を捨て、懐の剣に持ち替えた。
 ここで捕まるわけにはいかない。

「抵抗しても良いけどサ。…手加減はできねーよ。」
 感情を消した声が闇に響く。
 ふわりと風が舞って、相手の姿が消えた。





「―――な…っ」
 矢継ぎ早に繰り出されるそれを避けるのが精一杯。
 次第に追いつめられていることにも気づくが、一分の隙も見つからない。

「……っ!」
「逃げられると思うなよ。」

 飛んだ自分と相手が一気に距離をつめる。
 ヒュッと風を切る音が聞こえた。

(しまっ 足―――!)
 しかし、狙われたと悟った時には巻きつかれ、向かう方向とは逆に引き倒されていた。



「ぐぁ…っっ」
 地面に落とされた瞬間にバキッと嫌な音がした。
 男は悲鳴にも構わず足に絡みついた鞭を無遠慮に引く。

「―――折れたか。まあいっか。こんなもんで済んだだけマシだよな。」
「っがぁ…!」
 折れたそこを思い切り踏みつけられる。
 ごりっと鈍い音がして、男は幼い顔に似合わず薄く笑った。

「そんなに急がなくても、今からもっと痛い目に遭うからさ。」
「…っ」
 冗談ではないと、掴んだ砂を投げつける。
 相手が怯んだ隙に体を反転させて、腕の力で弾くように起き上がった。


 ―――今は逃げることしか考えない。
 後ろは見ない。


「往生際が悪いなー」
 やけにのんびりした声がかかり、ヒュンと波打った鞭が耳元を掠める。
 途端にがくんと膝が折れて足が後ろに引かれた。

「―――ぁぐあッ!!」
 軽そうな身体のどこにこんな力があるのか、決して小さくはない自分の身体を軽々と引き
 倒す。
 折れていなかったもう片方の足首が変な方に曲がった。



「安心しなよ。」
 背後から冷たい声が降ってくる。

「殺しはしない。それはオレの役目じゃないから。」


 そう言って嗤う男の背後に、狼の幻が見えた気がした。




2011.11.17. UP



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感想でとある方に言われたので小ネタで書いてみました。

浩大は普通に強いと思います。
陛下が夕鈴の護衛を任せるくらいなので。

…今回容赦がないのは、彼も夕鈴を怪我させたことを悔やんでるからです。
きっとしばらく夕鈴の前には姿を現さなくて。(陛下がいない間護衛はしてると思う)
動けるようになった頃に夕鈴から声をかけるんですよ。
そんな妄想。



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