失えない+:黎翔&夕鈴編





※ 後日談。ある程度動けるようになるまでは同じ寝台で寝てれば良いよ!的な小ネタ。
※ でもギャグじゃないです(ここ重要)






 温かさに包まれている気がして、ふと目が覚める。


「ん…」
「―――起きちゃった?」
 薄闇の中、耳慣れた声はすぐ傍から聞こえた。
「へい か…?」

 あれ、どうしてこんなに近くに陛下の顔があるんだろう?

「ごめんね。」
 小さく謝って、彼は夕鈴から少し離れる。
 頭に乗っていた心地よい重さが離れて少し寂しかったけれど声にはできなかった。

 寝台の壁に凭れて座る陛下に寄り掛かるようにして夕鈴は寝ていたらしい。
 支えるためにか逞しい腕に腰を抱かれている。


 支えるため―――… いえ、縋るため?

 ……何に?


 ぼんやりする思考で、自分でも意味がよく分からないまま。
 浮かんだ言葉に感じた何かは、輪郭が明確になる前に消える。



「ちょっと眠れなくて… 痛かったら言って。」
「…いえ、大丈夫です……」
 痛くはない。
 それより、…私よりも陛下の方が痛そうに見えた。


 ―――また、あの不安そうな瞳。

 私はここにいるのに、まだ怖いの?
 だからこうして確かめてたの? ずっと?


「――――…」
 そう思ったら、いてもたってもいられなくなった。




 身を起こして伸び上がる。
 びりっと背中に痛みが走ったけれど気にしない。

 胸に彼の頭を押し当てて、ぎゅっと強く抱きしめた。


「…傷に、響くよ。」
 掠れた声は僅かな緊張を伝える。

「大丈夫です。」
 それに強い口調で返してさらに抱き込んだ。


 傷の痛みくらい、大したことはない。
 …貴方の痛みに比べたら。


「泣いている貴方を抱きしめたくて、私は目を覚ましました。」

 やっとできた、最初にしたかったこと。
 本当は、目覚めて最初に貴方を抱きしめてあげたかった。

「不安にさせてすみません。でも、私はここにいますから。だから安心して、ちゃんと寝
 てください。」


 この人はあまり眠っていないんだろうと思う。

 それに気づかなかった自分が悔やまれる。
 もっと早く、こうするべきだった。


「―――うん…」
 傷に障らないように、そっと背中に腕が回る。




 …ああ、やっぱり縋るためだったのね。

 私は、どれだけこの人を不安にさせてしまったのかしら。


(―――ごめんなさい…)

 言葉にはできなくて、ただ泣きたい気持ちのまま腕に力を込めた。




2011.11.17. UP



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甘さとかはないですが、個人的にこういう雰囲気が好きです。
まだ少し不安定な陛下と、それを知って心を痛める夕鈴。

夕鈴の行為は恋のというより母親的な。不安で泣く子どもをあやすようなイメージです。
夕鈴って恋心よりもそういうのを優先しそうだなぁと。



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