雷鳴の珍事 -小ネタ集-





※ 感想の中からネタをいただいて、小ネタ集にしてみました☆
※ ほぼ一発書きなので、軽く読んでくださいませー




1.夕鈴と方淵の仲良し夫婦演技(笑)

「――――」
 先程から饒舌に、勝手に喋り続ける男に方淵(姿は陛下)はあからさまに不機嫌顔をしてい
 る。
 膝を付いて礼を取りつつ、出てくる言葉は世辞と媚びにまみれたものばかり。
 陛下ならある程度は適当に聞き流すのだろうが、この堅物には難しいようだった。
 その隣に並び立った夕鈴が見上げて苦笑いする。
「…陛下、そんなに睨んでは怖がられてしまいますわ。」
「不快なものを不快と思って何が悪い。」
 彼がそう言い放つと、見下ろされた男の肩がびくりと震えた。

(うっわーバッサリ。陛下より容赦ないわね…)
 陛下もたまに脅すようなことを言うけれど、この程度なら軽くあしらって終わりだ。
 今回はわざわざ足を止めたりせず、無視して通り過ぎた方が良かったかもしれないな…と
 そっと思った。


「陛下、そろそろお時間が…」
 後ろの李順がわざとらしく声をかける。
 そういえば、そろそろ陛下(姿は方淵だけど)も政務室に戻ってくる時間だ。
「…ああ。」
 彼もそう思ったのか、用はないとばかりに男に背を向け―――

「―――陛下。」
 …る前に、夕鈴が彼を手招きした。

(このまま抱き上げてください。)
(は?)
 怪訝な顔をして耳を傾けた彼に小声で囁く。
 周りには仲良し夫婦の内緒話に見えるように。
(こういうときは見せつけた方が手っとり早いんです。)

 どうせ彼らの最終目的は「娘を妃に」だ。
 今は夕鈴がいるから言わないだけで、ちらりと窺われる視線がそれを物語っている。

「……」
 沈黙は肯定と見なして首に手を回すと、彼は渋々といった様子で夕鈴を抱き上げる。

 その手つきが多少慣れてなさそうなのは仕方がない。
 …陛下が手慣れすぎてるだけだ。


(―――あれ…?)
 くるりと彼が男に背を向けたとき、庭園に佇む誰かと目が合った。

(方淵……じゃなくて 陛下ッ!)
 真っ直ぐにこちらを見据える鋭い視線。
 姿は方淵でもやっぱり陛下は陛下だ。

(今の、見られた…わよね。ってか、今も腕の中なんだけど。)
 陛下といちゃいちゃしてるのを陛下に見られるという、なんか変な光景だ。
 さすがに気まずく感じて、俯いて彼から目を逸らす。


「どうかしたのか?」
 それを怪訝に思った方淵(しつこいが姿は陛下)から覗き込まれた。
「…何でもないです。」

 庭園の方を、2度はもう見れなかった。


+++++
本編2のラストを夕鈴視点で。
時系列的にわりと初期の頃のイメージなので、夕鈴は当然恋心無自覚です。
…と思ったら、絽望さんがいるので4巻後くらいかな?
どちらにしても無自覚ですが(笑)




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2.後宮での2人

「気品がない!」
 夕鈴の手元を見て、方淵(姿は以下略)が眉間に皺を寄せて怒鳴る。

 カチン

「そんな所作で陛下の前でも淹れているのか!?」
「普段はもっと丁寧ですっ これでも十分美味しいでしょう!?」
 余計なお世話のこの男に、夕鈴も負けじと食ってかかる。
 淹れてやってんのに文句を言うなと乱暴に卓に茶杯を置いた。

「フンッ」
 彼は出されたものは黙って飲む主義らしい。
 ただ、それに礼もなければ美味いも不味いも言わない。文字通り"黙って"飲む。
 どこまでも失礼な男だ。


「陛下は威厳のある御方だ。それを損なわぬように振る舞ってもらいたいものだ。」
「―――陛下はどんな私でも愛しいと言ってくださいます。」

 ピシリ

 空気が割れる。
 政務室再びといわんばかりの火花が、ばちりと2人の間に散った。


「後宮に上がって日も浅い貴女がどれほど陛下を知っているというのか!」
 ガタンと音を立てて方淵が席を立つ。

「相手を知ることに月日の長さは関係ないわ!!」
 茶壷を割らん勢いで置いた夕鈴も身を乗り出して睨み返した。


 バチバチッとさらに激しい火花が散る。
 お互い陛下のことになると特に一歩も引かない。


「あの方の政治的手腕の素晴らしさなど貴女には分からないだろう!」
「それが何!? その程度で知ったつもりになって欲しくないわ!」



「陛下? お妃様?」
「「!!」」
 大きな声を聞きつけた女官達が、心配したのかパタパタと駆けてくる。
 しまった、声が大きくなりすぎた。




「―――何でもありません。大丈夫です。」
 彼女達が来たときには陛下は椅子に腰掛けてお茶を飲んでいて、手前に立つ夕鈴が笑顔で
 彼女達に応対する。
 さっきの声は聞き間違いだったのかと思わせるような、それはいつもの光景。

「下がれ。」
 首を傾げつつも、陛下にそう言われては従うしかないので、彼女達は静かに戻っていった。


+++++
陛下大好き同盟ですから(笑)
夕鈴も張り合って結構すごいこと言ってるなー きっと無意識。




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3.散策中の陛下

 誰も気に留めないというのも面白いものだと思う。

 誰も気遣わない、視線も感じない。
 王ではない自分(姿は方淵だが)の目線はこんな風なのかと。



「何をしている!」
 不意に怒鳴る声が聞こえて、好奇心から黎翔はそちらに目を向ける。
「この程度の仕事もできないのか!?」
 仕事で失敗でもしたのか、上司が部下を叱責しているようだった。

(…へぇ。)
 その顔を見て黎翔はつい笑ってしまう。

 いつも"狼陛下"の前では萎縮して小さくなっている男だった。
 軽く睨んだだけで震えるような男に、人を怒鳴りつけるような元気があるとは。

(今度からかってやろうかな…)
 そんな悪戯心が芽生える。
 まあ、それには元に戻ることが前提だが。


 "狼陛下"には見せない姿。
 自分の前では嘘の顔を張り付けて取り繕う者達の自然な姿。


(―――煩い蠅を黙らせる材料が見つかるかも。)

 こんな機会はおそらくもうないだろう(そう何度もあったら困るが)。
 まだ怒鳴り散らしている声を背に、もっと遠くまで足を伸ばしてみることにした。









「この前さー」
「あーそれ分かるー」

 緊張感のない楽しげな声が休憩室から漏れている。
 若い官吏達が各々グループに分かれて雑談をしているようだった。

「オンナ見るとき、まずどこ見る?」
「やっぱ最初は胸だろ。」
「俺は腰かな。」

「お前、この前言ってた麗姫はどうなったんだ?」
「あーダメ、フられた。今は遼家の二姫狙い。」
「切り替え早ぇな、おい。」


(…方淵は加わりそうにない内容だな。)
 確かにこれも普段なら聞けない会話ではある。
 ―――そもそも王はこんなところまで来たりしないが。

 とりあえず、あまり害はなさそうだ。

 姿を見せると会話が止まってしまう気がしたから、そのままくるりと元来た道を戻ること
 にした。




「…最初に、か。」
 どうでも良かったことだが、変に耳に残ってしまって。
 ふと彼女を思い浮かべてみる。

「……笑顔、かなぁ。」
 最初に見るなら、心をあたたかくしてくれるあの笑顔が良い。

(―――ああ、早く君に会いたいな。)

 思い出して小さく笑む。
 まだたった1日なのにもう君が恋しい。



 そんな彼の願いはその後すぐに叶えられるのだが…
 予想と全く違ったものだということを、彼はまだ知らない。


+++++
で、本編2のラスト部分に繋がるわけですね。




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4.方淵(in陛下)と絽望さん

「よ、方淵。相変わらず忙しそうだな。」
「……何か用か?」
 前から歩いてきて気さくに声をかけてきた相手を、黎翔(今の姿は方淵だが)は冷たい瞳で
 睨む。


 景絽望―――― この男は個人的に気に入らない。

 夕鈴を狙う男。脅しをかけても懲りないしぶとい男だ。
 同期だからか 方淵との仲は悪くないらしいが。


「機嫌悪いなー」
 それを笑って受け流して、演技のために持っていた資料の束を勝手に覗き込む。
「って、うわ。お前そんなところまでやってんの?」
 最初の数枚をぱらっと捲った途端に、絽望は驚いた声を上げた。

 この資料は実際に普段方淵が持っているものだ。
 元々彼と方淵の仕事の内容は根本から違うが、それでも驚くほどのものだったらしい。

 彼はそれらをひとしきり眺めて、何か気づいたような表情をした。
「?」
「―――またやっかみでも言われたのか?」
 そうして顔を上げた絽望は意外に真顔で、少し面食らう。
 返事をし損ねたのを肯定と受け取った彼は、気にするなと いつも見せるのとは違う顔で
 言った。

 いつも飄々としている男の、珍しいほど真面目な顔。
 見慣れなさに、ついまじまじと見てしまう。

「そういう奴らには言わせておけば良い。お前の実力を羨ましく思いながら、何もできな
 い連中だ。」
「…お前は?」
「何だ。私に興味を持つなんて珍しい。」
 からかう口調で言いながら嬉しそうにしている。
 余程普段の方淵がつれないのか。

「―――私は君の実力が努力に見合ったものだと知っているからね。君を重用する陛下は
 見る目があると思うよ。」


 軽いだけの男ではないと知っていた。
 力があるから王の傍でその力を発揮しているのだから。

 これは"私"の前では絶対見せない顔だ。
 王の前だけで繕う者ばかりの中で、こんな正反対の人間もいるのだと思った。


「…変わった奴だ。」
「お互い様さ。」
 黎翔(見た目方淵)がふと笑うと彼も笑む。
 そうしてひらひらと手を振って、彼は横を通り過ぎていった。


+++++
いつもとちょっと違う感じの絽望さんでした。
これはリクをもらったわけじゃないですが、個人的趣味で。
方淵よりは年上ですが、陛下よりは年下なですよね、この人…(たまに忘れがち)
※景絽望は「花の笑顔」から登場するオリキャラです。過去ログにカテゴリ有りますv




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5.後日談的な1

「夕鈴殿、いつもより演技が自然でしたね。」
「そうですか?」
 後宮の陛下の部屋で、陛下のためにお茶を淹れていた夕鈴は、李順の言葉にその手を止め
 る。
「余裕があったというか、挙動不審な行動が少なかったというか。」

 …一体いつもはどんな風に見えているのか。
 しかし余計なことを言えば藪蛇だと思ったので聞くのは止めた。

「私が動かないとあの人動かないですし… まあ、リードできるので演りやすかったという
 のもありますけど。」
 陛下相手だと恥ずかしくて頷くとか返事を返すとかくらいしかできない。
 でも方淵相手だとドキドキする必要もないからいつもより余裕があったのも確かだ。


「ゆーりんは僕より方淵の方が良いんだ…」
 その隣で、しょぼーんと肩を落として小犬陛下が落ち込む。

(しまった、ここには陛下がいたんだったッ)

「へ、陛下… そういう意味では……」
 慌てて宥めにかかるが、小犬な耳と尻尾を項垂れさせた陛下はなかなか浮上してこない。
「ええと、だから、私がしなくちゃと思って…」
「僕との時は違うんだ―…」
「いや、あの、だからですね……」
 何故だか言えば言うほど陛下の頭が下がっていく気がする。
 どうしたら良いのか分からない。


「……方淵切ってきていい?」
「何無邪気に意味不明なこと言ってんですか!?」
 口調は小犬でも言ってることは物騒だ。
 今にも立ち上がりそうな陛下を引っ張って必死で止める。


 それから陛下の機嫌を直すのに、小一時間かかった。
 その間仕事が全く進まなくて、李順さんの機嫌も悪くなったけれど。

 それは私のせいじゃない。…と言いたい。


+++++
全く意識してない分、演技に余裕はあったと思うんですよ。
で、それに妬く陛下とか(笑)




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6.後日談的な2

 元に戻って数日後、ちょうど2人になった頃合いで方淵はその疑問を口にした。
 本当は戻ってすぐに気付いていたのだが、内容が内容だったので人がいる場所では聞けな
 かったのだ。

「陛下、口の端を怪我していたのですが… 何かありましたか?」
 最初何のことだと怪訝な顔をされたが、気づかれるとすっと陛下の視線が鋭くなった
「―――いや。少々苛立つことがあってな。」
 自分に向けられた声と瞳にゾクリと背筋が冷える。
 …その感情が向かう先はどうやら自分らしいと、瞬時に悟った。

「…方淵。」
「はい」
「我が妃は抱き心地が良いだろう?」
 口元は笑っているのに、目は射殺さんばかり。
 陛下の怒りの度合いが知れる。
「……誤解を招きそうなお言葉ですが。」
 しかし方淵としては心外以外の何でもない。

 妃を抱き上げたのは1回きり。…つまりあれを見られていたということらしい。
 そして、彼女があの時俯いた理由も悟った。


 ―――陛下は本気で愛されているのだ。
 この私相手でもそう仰るくらいに。

 …あの女のどこがよろしいのかは、さっぱり分からないが。


「お妃との夜の会話を聞けば、陛下もご安心なさるでしょう。」
「…?」

 入れ替わり中は見事に毎日口喧嘩だった。
 普段は大人しく妃らしく振る舞おうとしているが、本性は負けず嫌いで気性が激しい。

 ……本当に、陛下があの妃に執心される理由が全くもって分からないのだが。


「ではこの傷は、陛下にご心労をかけてしまった己への罰と致します。」
 疚しいことも何もなかったのだが、陛下の御心を思えばこれくらいはと受け入れることに
 する。


 ―――後は、お妃が全部言ってくれるだろうと思った。


+++++
まあつまり、↑の2みたいな会話を毎晩してた、と(笑)




2011.12.4. UP



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……計6個とか。まさかこんなにネタがあるとは。
楽しかったですけど(笑)



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