お妃様のお茶が飲みたい大作戦☆
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 官吏達の休憩所―――

 ここでは、密かに結成されたとある会が、今日もひっそりと行われていた。



「あの花飾りは初めて見たな。」
「そうそう、淡い桃色でさ、」

 数人の官吏が卓を挟んで集まって、お茶を片手に談笑している。

「陛下のお言葉に赤くなられるお姿が可愛かったな〜」
「扇で隠されても耳まで真っ赤でバレバレってゆーのがまた。」

 話題の中心は、今日も政務室に咲く花―――陛下唯一のご寵妃について。
 それが彼らの"会"の主な活動内容だ。


「お、いつの間に始めてたんだ?」
「遅いぞ。」
 最初は2,3人だったそれは、次第に増えて賑やかさを増していく。
 数分も経たないうちに10人ばかりの男達が集まった。


「―――俺なんか、今日お話ししたもんね。」
 そこに最後に遅れてきた男が得意顔で言いながら輪に加わって座る。
「あっ ずるっ!」
「抜け駆けしてんなよッ」
 途端に起こるブーイングにも、彼は堪えないと言わんばかりの満面の顔だ。


 彼らは、お妃様を遠くから眺め、その愛らしさを愛でる会。(名前は特にない)
 陛下に見つかることなくひっそりこっそりがモットーで、その存在はお妃様当人にも気づ
 かれていない。
 ほぼ毎日集まって、こうしてお妃様を話題に盛り上がるのが1番の集団だ。



「はー 今日もお妃様は素敵だったなぁ。」
 今日のお妃様の活躍に1人がほぅと感嘆の息を漏らすと周りも同意する。

 彼が言っているのは午前中の、柳方淵と氾水月の口論のことだった。
 それ自体はよくあることで、そこでお妃様が出てくるのも最近は当たり前の流れになりつ
 つある。

「ああ、あの2人に意見できるのはあの方だけだよ。」
 誰もが恐れる柳と氾の名も恐れずに、2人の喧嘩の仲裁に入れるのはあの方だけだ。
 その物怖じしない態度は可愛らしい外見からは考えられない。
 しかしそこがまた良いというのが彼らの見解だ。


「以前の柳方淵との睨み合いもカッコ良かった。」
 あの男と対等に!?と、最初は驚かされたものだ。
 しかし今では彼女でなくてはという気になっている。

「離宮の宴で陛下に意見する姿も見惚れたなー」
「あれは美しさを讃えるんじゃないのか。」
「いや、それは当然だけどさ。」

 ある男は天女だと言っていた。
 それに異論などあるはずもない、あれは本当に言葉を失うほど美しかった。
 また見れないかなーなんて、ちょっぴり期待もしている。

「ただ愛されてるだけじゃないんだなって思ってさ。」
「あの狼陛下の寵愛を独り占めできるくらいなんだ。ただの姫君じゃないだろう。」

 陛下のお妃様への愛は薄れることなく、日毎に増している印象さえ受ける。
 それを微笑ましく見守るのも我々の活動だ。

 ―――陛下はお妃様がいないところでもその愛を語られる。
 彼女だけだとか他はもう見えないだとか。
 ご本人があれを聞かれたら、また真っ赤になられて隠れてしまわれるだろうくらいの甘い
 言葉だ。


「そういや、この前陛下が「妃が淹れてくれる茶が1番だ」って言ってたんだ。」
「あー俺も聞いた。「もう他は飲めない」とか何とか。」
「そうそう。「疲れも飛ぶ」って。」
「うわ、いいなー」

 普通誰かにさせるものを、妃自らに淹れさせるくらいなのだ。
 きっとものすごく美味しいのだろうとみんなが思う。


「飲みたいな…」
 その時ぼそっと呟いた官吏に、一斉に視線が集まった。

「頼んだらダメかな?」
「陛下が許すか?」
「だから、ばれないようにさ。」

 そこで全員の時が止まる。

「…って、どうすんだよ。」
「それは今から考えるんだよ。」
「ダメじゃん。」

 狼陛下相手に、ばれずにお妃様に近づくどころかお茶?
 …不可能だろう。絶対にばれる。
 目を付けられればどうなるのかは、ここにいないある男を見ればよく分かった。

「何だよ、お前は飲みたくないの?」
「そんなの、飲みたいに決まってるじゃないか。」

 だってお妃様のお茶だ。
 絶対美味しいと分かっているものだ。
 飲めるなら飲んでみたい。

「だったら一緒に考えろよ。」
「これだけ人数がいれば良い案の1つや2つくらいは浮かぶだろ。」


 そうして残り少ない休憩時間、男達は知恵を絞り出し合った。












 *













作戦1:世間話からさり気なく?

「お妃様。」
 陛下が席を外されたのを見計らってお妃様の傍に寄る。
「はい?」
 話しかけられることにすでに慣れているお妃様がそれに抵抗を示されることはない。
 応えと共に笑顔を向けられると頬が赤くなってしまう。
 しかし今は他の官吏達の期待を背負っていると気を引き締めた。

「お妃様はお茶がお好きと聞いたのですが… 毎日陛下にお淹れになられているとか。」
「…毎日ではないのですが。いらっしゃる時は、そうですね。」

 よし、掴んだ!

「実は私も最近茶に興味を持ちまして。」
「まあ、そうですか。」
 まずはアピールからだ。
 話に耳を傾けて下さったお妃様に、ハイと言って笑みを見せた。

「特に南から仕入れた茶葉が美味しいんですよ。」
「その茶は名は何というんですか?」
「武夷岩茶というのですが」
「ああ、青茶の中でも最高級のものですね。」
 それは美味しいでしょうと彼女は微笑む。
「大紅袍は手が出ませんが、白鶏冠は渋みも少なくて好きですね。」
「青茶なら、桂花香単叢は良い香りがしてお勧めですわ。」
 この時のために勉強してきたつもりだが、お妃様の口から次々茶葉の名前が出てきて驚い
 てしまう。
 だけど、それが分かるということは面白い。自然と2人の会話は弾んだ。



 ―――そうして四半刻ほど後。

「世間話で終わった…」
 がくりと項垂れる官吏を、まだ最初だからと周りは慰める。
 策はいくつか考えた。その中の1つでも当たれば良い。

「よし、次!」






作戦2:お手本を見せてもらうという名目で。

「お茶の美味しい淹れ方ですか?」
「はい…」
 棚の整理を手伝いながら、相談と称して話を切り出す。
 お妃様は頼られるのが好きな方らしく、そう言うと親身になって聞いてくれるのだ。

「なかなか上手に淹れられないのです。」
 恋人に振る舞いたいのにと溜め息をつく。
 その心に感銘を受けたらしいお妃様は手を休めて向き合ってくれた。

「どういう風になってしまわれるのですか?」
 しまった、具体的には考えてなかったと内心焦る。
「え、えっと… し、渋くなるんです!」
 それから苦くもなるとかとにかく思いつく限り言い連ねた。
 参考にしたのは先日妹が淹れた不味い茶だ。
 …あれはすごく不味かった。

「……温度と時間が合わないのかもしれませんね。」
 しばし考えて、彼女は思いついたように顔を上げる。

(ここでお手本をと言えば…ッ)

「茶葉の種類で変わるんですけど、まずは石古坪から挑戦してみてはどうでしょう?」
 渋みもなくてすっきりした味ですよと説明された。
「それで、まず温度ですけど―――」
「え…?」



 …その結果。

「口頭でコツを教わってしまった…」
 しかも分かりやすかった。
 帰ったら妹に教えてあげなくてはと思うほどに。

「…意味がねぇ!」
 尤もなツッコミだ。
「次は誰だ?」






作戦3:だったら茶葉をプレゼント

 最高級の茶葉"君山銀針"を用意した。

 これで一緒に飲みましょうという話に持っていければ…


「君山銀針…ですか?」
「はい。親戚からもらったので、お茶がお好きなお妃様にもと…」
 まじまじとそれを見つめるお妃様に差し上げますと話を添えた。

 君山銀針は、六大茶類の中で最も希少価値が高い黄茶の中でも最高級品だ。
 それを聞いたお妃様の顔が喜色に綻ぶ。

「では、陛下といただきますね。」
「…へ?」
 予想していなかった返しに、咄嗟に反応しきれなかった。

(いや、今一緒にいただきませんかと言おうと思ったんですけど!?)

「いえ、あの」
「きっと喜んでくださいます。ありがとうございます。」
 けれど、そんな満面の笑顔で言われてしまってはそれ以上何か言えるはずがない。

「……どういたしまして。」
 ―――それ以外に何を言えというのだ。



「ごめん、持ってかれた…」
「そう来たか!」

「あと残ってる作戦って何だー!?」






作戦?:……
 何日もかけていろいろな作戦を実行してみたが、その後も全て失敗してしまった。
 仕方なく休憩所に戻って集まって作戦会議を始めるも、さすがにみんな疲れた顔をしてい
 る。

「誰か他に浮かぶ奴ー…」
 仕切る彼も半ば投げやりだ。
 まさか1つも当らないとは彼も他の皆も思っていなかった。


「…脱水症状で倒れるとか?」
「そりゃ1人しか飲めねーだろうが。」
「じゃあみんなで倒れるか?」
「大騒ぎだろ、それじゃ。」

 全員で唸って考え込む。
 今まで失敗したやつだって絞りに絞り出して出た策だったのだ。


「もう浮かばない…」
 絶望が浮かぶ。

「でも飲みたいんだ!」
 ここまで来るともう意地も入っている気もしないでもないけれど。




 とにもかくにもどうしても、お妃様のお茶が飲みたかった。














 *















「最近、お茶が流行ってるんですか?」
 今日も無駄に大人数で書庫の手伝いをしてみたり。
 そんな中、1番近くにいた官吏にお妃様が不意に声をかけた。

「えっ!? そ、そうですか?」
 どきっとしながらも、声をかけられた彼は努めて冷静に返してみる。

「違うのかしら? その話題をふられる方が多い気がして…」
 不思議そうに首を傾げてお妃様は変ね…と呟く。
 彼の答えに腑に落ちないといった表情をしつつ、彼女はまた作業を再開させた。

(これはチャンスなのでは!?)
 思い直して彼はちらりと周りを窺う。
 視線が合った連中は行けと視線で合図した。


「あのッ」
「?」


「―――お前達は何が目的なんだ?」

 低く冷たい声が書庫に入り込み、逞しい腕がお妃様を浚う。
 言葉を飲み込んで固まる官吏の前に現れた狼が じろりと鋭い瞳で射抜いた。

「最近、妃に集る虫が多いようだが…?」
 ゆっくりと書庫内を一瞥されて、睨まれた全員が震え上がる。

(ばれた!!)

 しかし逃げることもできず、その場で硬直しているしかない。

 改めて、自分達はなんて無謀な望みを抱いたのかと思った。
 もう終わりだと、全員が悟る。


「―――お待ち下さい。」
 その時、腕の中のお妃様が陛下を止めた。


「あの、私に何か言いたいことがあったのでしょう?」
「夕鈴。」
 止める陛下の言葉は聞かず、彼女は腕を解いて前に出る。
「…聞くかどうかは、聞いてみないと分かりませんけれど。」
 1度陛下の方をふり返って窺う様に見てから、お妃様は視線をこちらへと戻した。

「私に、何を伝えようとされたんですか?」


『――――…』
 優しく促されて、意を決したように顔を見合わせて頷く。
 彼女の前に集まって、全員が彼女の方を見た。


「……お妃様、」
「はい?」
 その中の代表の1人が言うのに彼女は首を傾げつつ応える。
 後ろの陛下はすこぶる怖いが、待ってくれている優しいお妃様に勇気をもらった。


「我々は―――…」
 ざっと全員で頭を下まで下げる。


『お妃様のお茶が飲みたいんですッ!』


 全員の声が、綺麗に一致した。


























 準備する卓の椅子に腰かけて不機嫌な顔をしている陛下を見て、夕鈴は茶壷を手に苦笑い
 する。
 茶葉は何にしようか少し迷って結局青茶にした。

「お茶を振る舞うくらい良いじゃないですか。」

 それを茶海に注いで均等にしてから茶杯に注ぎ分ける。
 普段陛下に淹れる時は使わないけれど、今日は人が多いからこちらの方が良い。

「皆さんお疲れですもの、私にもそれくらいの手助けはさせて下さい。」
 話をしながらも手際良く準備をして、夕鈴は茶杯を乗せた盆を持って官吏達が待つ卓の方
 へ足を向けた。
「君がそう言うならば仕方ないが…」
 それを見送る視線はまだ不満そうで、言葉にも渋々といった態度がはっきり出ている。
 それでも夕鈴としては数少ない活躍の機会だ、止める気はない。
 陛下もそれは分かっているのか、言葉で言うだけで手は出してこなかった。


「はー 染み渡る〜」
「メチャクチャおいし〜」
「ありがとうございます!」
 じっくり味わって飲みながら、官吏達は口々にお礼を言う。
 苦労の後の一杯は格別だとか、今一つ分からない言葉もあったのだけど。

「お役に立てて光栄ですわ。」
 まあとにかく皆喜んでくれたらしいから良いかと、夕鈴はにっこり笑って答えておいた。





「陛下もどうぞ。」
 陛下の分は茶葉を入れ替えて、1度目を捨てた2杯目のものを。
 茶杯を差し出すと、それを受け取らずに彼は夕鈴の手首を掴んだ。

「もちろん君が飲ませてくれるのだろうな。」
「…えっ!?」
 抵抗の隙も与えず、茶が零れないように器用に彼女を膝の上に導く。
 そうして彼女の手の中にある茶杯の淵に口づけて、膝の上に座った妃を上目遣いで見つめ
 た。

「―――それくらいの特別は許されるだろう?」
「〜〜〜ッッ!?」








「真っ赤になって可愛らしいなぁ。」
 それを微笑ましい心地で、温かい目で彼らは見守る。
「陛下が羨ましいね。」

 彼らにとってはお妃様が可愛ければそれで良い。
 どこかの誰かのように横恋慕だなんて大それたことも思わない。

 ただ眺めていれば良い。憧れの対象だ。




 そして今日もひっそりこっそり(?)、彼らはお妃様を見守っているのだった。






2011.11.22. UP



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お題: 「夕鈴ファンクラブ(若い官吏達)のお妃さまのお茶を飲んでみたい大作戦!」

タイトルから完全ギャグのわいわいがやがや系です☆ 前回に続いて軽いノリで。
侍女さんの時もでしたけど、こういう脇キャラメインの話も面白いなと思いますv
陛下の周りの官吏って若いのが多いから、こういう軽いノリもありそうで。
てか、あったら良いなーこんな会(笑)
お茶に関しては…詳しい方はツッコミ入れたくなるかもしれませんが。
中国茶の中で気に入った名前を使ってみました。(調べ物は大抵ネットな人)

今回は人数が多いので、会話文を多めにして地の文を減らしてみました。
会話のテンポが大事かなって思ったので。

陛下の出番はあまりないですが… 何だかんだで最後は良い思いしてます(笑)

ムーミンママ様に捧げまーす。
官吏達がイキイキと動いてくれて楽しかったです☆ ありがとうございましたvv
キリリクはあと1つですね。お好きな時にお知らせくださいv
またゲットされたら増えますけど☆ お待ちしておりますv
ちなみにいつものあれはいつも通りに受付中です。


・オマケの今回の絽望さん・
官吏達の言うところの、目を付けられたある男です(笑)

「あれ、君は参加しなかったのかい?」
「んー?」
 皆とは少し離れたところに座っていると氾水月に話しかけられた。
 彼の手にも茶杯が1つ、もちろん絽望の手にも同じものがある。
 2人は今回の騒動には参加していなかったが、たまたま居合わせたので運良く受け取れたのだ。

「お妃様の会なら君はいるものだと思っていたよ。」
「"俺達はひっそり愛でたいの! お前が入ったら俺達まで陛下に目をつけられるじゃないか!"だって。」
「…ああ、拒否されてしまったんだ。」
 肩を竦めて言うと、彼から苦笑いを返される。
 それに否定はしなかった。正解でもないけれど。

「まあ良いけど。私にひっそり愛でるなんて芸当できるわけないしね。」
 ちゃっかり美味しいお茶は頂いたし。
 そう言って笑うと、水月も「そうだね」と穏やかに笑った。


水月さんと仲は悪くないようですね。



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