会いたい 3




 パタパタと回廊を早足で駆け抜ける。
 すぐ戻るからと言って侍女達は置いてきた。



「…ッわ!?」

 角を曲がろうとして、向こうから来た何かにぶつかってしまった。
 思いっきり顔面から当たってしまって、視界がちらつく。
 …何とか倒れるのは免れたけれど。


「……夕鈴殿、」
「ッ李順さんっ!?」
 どうやらぶつかったのは李順さんだったらしい。
 夕鈴を見下ろして、彼は渋い顔…を通り越してしかめっ面で睨んできた。
「妃ともあろう人が何をバタバタと。もう少し」
「すみませんッ」
 小言が始まる前にさっさと謝る。
 今はとにかく時間が惜しい。

(あ、でも、李順さんがここにいるということは…)

「陛下はどこにいらっしゃいますか?」
 側近の李順さんがここにいるなら陛下も近くいるはず。
「は? 陛下なら、先に戻られたはずですが。」
 けれど返ってきた答えは期待を大幅に外したもので。
「そう、ですか……」

(また、すれ違い… 何これ、何かの呪い?)

「もう一方の道だったのかー…」
 忙しいなら絶対近道の方だと思ったのに。
 分かれ道で一瞬たりとも悩まなかった自分を悔やんだ。
「てゆーか、あの2人のせいよ…」
 もう少し早かったら陛下が反対側の分かれ道にたどり着く前に追いついたかもしれないの
 に。
 凹んだ気持ちのまま項垂れる。
 怪訝な顔をしている李順さんに何かを言う気力もなかった。




「お妃ちゃーん、陛下 庭園の方にいたよー」
 横からかかった声にがばりと顔を上げる。
 いつの間にか柵に降りていた浩大がそちらを指さして笑っていた。

「ほんと!?」
「うん。」

 だったらこんなところでじっとしていられない。
 じゃないとまたすれ違いだ。

「ありがとう!」
 軽く手を挙げて夕鈴は元来た道を走り出した。








「走らない!」
 李順の声はすでに走り去った彼女まで届かない。
 騒がしい足音は次第に遠ざかっていった。

「今日だけは見逃してあげてよ。」
 同じ方を見ていた浩大が、柵に腰掛けて"お願い"だと宥めてくる。
 じろりと睨むと肩を竦められた。
「…貴方の仕業ですか。」
「だってオレ、機嫌が悪い陛下と話したくないもん。」

 官吏達が怯えるほど荒んだ陛下の、機嫌が悪い理由。
 それが何であるか考えて、李順の溜め息はますます重くなる。

「…あの小娘のどこが良いのか。」
「あーゆーところじゃない?」
 もう一度そちらを眺め見て、彼はププッと笑った。












































 ―――今度こそ、絶対会ってやるんだから!



(あ―――…!)
 緑に囲まれた庭園に佇む広い背中、彼を夕鈴が見間違うはずがない。
 ちらりと見えた横顔はどこか疲れて見えて、、

「陛下!」
 階を駆け降りる。


 2人を遮るものは何もない。

 あと少し、手を伸ばせば彼に届く。


「…夕鈴?」
 ふり返った彼と目が合う前に、駆けた勢いのまま抱きついた。




「やっと会えた〜〜…」
 腕を背に回してぎゅっと縋りつく。
 ホッとしたのと嬉しいのと、いろいろ混じってもう半泣きだ。

「どうした?」
 優しくて甘い声も久しぶり。
 彼の胸に顔を押しつけて、降ってくる声に耳を澄ます。
「…何かあったのか?」
「会いたかったんです。」
「――――」
 髪に触れようとした彼の手が止まったことには気づかない。
「このまま会えなかったらもうどうしようかって…」


 待ち長かった4日間より、会おうと思った今日の方が長く感じた。
 次々邪魔は入るし、何故だか陛下にだけ会えないし。
 本気で呪われてるんじゃないかと思った。


「夕鈴?」
 躊躇うような戸惑いに近い声にハッとして顔を上げると、そこには驚いたような…嬉しそ
 うな陛下の顔。
 近過ぎる距離に、自分が今どこにいるかを自覚した。

「!? いいい今 私、何を……」

 はたと自分の体勢に気がつく。
 陛下に思いっきりしがみ付いている、自分の姿に。


「〜〜〜す、すみませんっ!」
「何故離れる?」
 ぱっと手を離す夕鈴を捕まえて、逆にぎゅっと腕の中に抱き込まれてしまう。
「!?」
「君から私の元に来てくれるとは、予想外だったが…嬉しいものだな。」
 会いたかったと囁かれて、抵抗する気は失せてしまった。


 ―――だって、私も会いたかったのよ。



「―――――」
 こそっとまた手を後ろへやって、負けないように抱きしめ返す。
 私の方が会いたかったんだとでも言うように。
「…ゆーりん?」
 いつもと違う夕鈴に、彼は少し戸惑ってるよう。
 自覚してやるのは恥ずかしいなと思いながら、もう少しだけ腕に力を込めた。
「つ、次はまたいつ会えるか分からないのでッ …花嫁からの、お仕事頑張って下さい、の
 ぎゅーです!」
「……」
 一瞬の沈黙の後で、陛下が肩を震わせて笑う。

「それは頑張らなくてはいけなくなるな。」
「はいっ 頑張ってきて下さいっ!」

 ああもう恥ずかしい。
 …でも、陛下がすっごく嬉しそうだから。良いかなって思ったのよ。







「―――今度は頑張ったってご褒美のぎゅーが良いな。」
「ッ!!?」


 次の約束は耳元でこっそりと。

 …2人だけの小さな秘密。




2011.11.29. UP



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お題:陛下に会えなくて数日は我慢できていたのに、我慢できなくなって陛下に会おうとしているのに、
      何故かいろんなキャラに邪魔?されたりしてすれ違いが続き、やっとようやく陛下に会えた時に、
      夕鈴が思わず陛下に抱きついてしまい、会いたかったというような台詞がポロリと本心が出てしまい、
      ハッと気づいて焦る夕鈴と、むっちゃ喜ぶ陛下(ほぼ全文)

詳しいリクをいただいたのでほぼそのまま流してます〜v
隠しリクは、夕鈴の恋心自覚前提と、陛下にいい思いをさせること。
なので、恋する乙女な感じで元気いっぱい行動してもらいました☆
ああもう可愛いよ夕鈴。恋する乙女大好きですよ。
さらに陛下のためにはぎゅー祭り(笑)
5巻の特訓です!のぎゅーが大好きですvv
はい、抱擁フェチですすみません。

何故か阻む人と背中を押す人に分かれました。
几鍔以外の某祭りメンバーは出せたかな? ま、兄貴は次のリクで出番があるのでv
人がいっぱいだと楽しいですねーvv
今回のはわいわいがやがやというよりほのぼのって感じですけど。
浩大は今回いろいろ助けられました。使いやすい子です。

JUMP様、楽しいリクをありがとうございました☆
いつも萌え萌えさせてもらってますv(ひと月以上お待たせしてすみませんでしたー/汗)
あれとかそれとかはいつも通り年中無休で受け付けておりますので〜
遠慮なくどうぞ!
 


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