※ 110000Hitリクエストです。キリ番ゲッターニコニコ様に捧げます。
      ※ ちなみに2人は結婚してる前提の未来話です。子どももおっきくなりました。




「ねえ、お母様を知らない?」
 ひょっこりと顔を出した公主に、女官達は皆一様に笑顔で同じ方向を示す。
「お后様なら、先程自室の方にお戻りになられましたわ。」
「ありがとう。」
 容姿は父親似ながら作る表情は母親と同じ。
 優しげな微笑みで礼を言って、彼女はさほど急いではいない足取りで言われた方へと消え
 ていった。




「―――本当に仲の良いご家族ね。」
「兄妹仲もとてもよろしいし。」
 そう語る女官達の表情もまた柔らかい。
「理想のお姿だわ。」

 この国の現国王陛下にはご正妃様が1人、側妃はいない。
 2人の御子もその正妃様との間にできた子だ。
 兄の凛翔太子は文武両道、性格も利発的ですでに世継ぎとして政務を手伝っており、妹の
 鈴花公主は穏やかな人柄で琴と書を得意とする、どこへ嫁いでも恥ずかしくない姫君だ。


「陛下のお后様への愛もお変わりなくて。」
「お后様が後宮に上がられた頃から、陛下の御心はお后様ただお一人ですものね。」
 今だ国王夫妻の仲良しぶりは健在で、その噂は国内に留まらないほど。
 薄れるどころか深くなる寵愛に、女官達はそんな風に愛されてみたいと夢を抱く。

「本当に、素敵なご家族ですわ。」




 彼女達の認識と実態は少しばかりのズレがあるが、それは一部の者しか知らないこと。

 女官の一人が零した言葉に皆で頷き、彼女達は自分達の仕事を再開させた。














    仲良し家族の日常茶飯事
「鈴花。」 「あ、兄様。」 後ろから兄の凛翔に声をかけられ、彼女は立ち止まってふり返る。 彼が追いついて並んでから鈴花はまた歩きだした。 「どこに行くんだ?」 「お母様のお部屋に行くの。」 そう答える鈴花の手には細かい意匠が施された横笛が握られている。 数ある教養の中から"楽"に興味を示した彼女は、琴や琵琶に続いて今は笛を学んでいる最 中だ。 ついさっきまで練習していてなかなか上手く吹けるようになったから、いつものように母 に1番に披露しようと思ったのだ。 「ならば私も共に行く。母上に聞きたいことがあるんだ。」 「何かあったの?」 政務を手伝っているはずの兄がこの時間に会いに行くなんて、ひょっとして何事かあった のかと。 眉を顰める鈴花に、彼は額に手を置いて深い溜め息をついた。 「…父上がまた行方をくらませた。」 「……あら。」 それは一大事ねと、警戒を解いた鈴花は棒読みで答える。 真面目に聞いた自分が馬鹿だった。 「李順に捜してくれと頼まれたんだが、こういう時は母上に聞くのが1番早い。」 自分達の父親が母をどれだけ深く愛しているかは2人とも承知している。 そして父を最も理解しているのも母だ。 彼の人選は正しいと言えた。 たぶん、どこかで昼寝でもしているのだろうと。 子ども達の予想は同じだった。 「陛下…」 啄むようなキスにくすぐったいと夕鈴は笑う。 長椅子に座り彼女を膝に乗せた黎翔も嬉しげに笑んで、頬に額に目元に、そして最後に唇 へとキスを落とした。 深くはなく、ただ戯れるだけ。 軽いキスを何度も繰り返し、柔らかな感触を楽しむ。 2人だけの甘い時間は、誰にも邪魔されることはない。 「―――陛下、」 合間に再度呼ばれて少しだけ離れる。 「何?」 目の前の榛色を見つめて聞き返すと、彼女は意外に真面目な顔をして言った。 「お仕事はどうなさったんですか?」 …今聞くことなんだ、それ。 相変わらず真面目な妻に黎翔は苦笑う。 「凛翔に任せてきた。あれくらいならできるだろう。」 その答えとして、しれっと嘘を言った。 ただし、全てが嘘というわけではない。 少し前から政務の一部を息子に任せるようになったのは事実だ。 まだ王位を譲る気はないが、覚えさせるなら早い方が良い。 「…貴方の子ですから、確かにあの子は優秀ですけど。」 彼女は信じたらしい。ちょっと難色を示したが疑いはしなかった。 「それに君に似て真面目だ。」 クスリと笑うと彼女は少し呆れた顔をする。 「あの子も苦労するわね…」 「―――だから、私は君に会いに来れる。」 今度は深く奪って、そのまま彼女ごと長椅子に倒れ込む。 華奢な身体を自分の腕の中に閉じ込めてしまえば彼女は逃げられない。 それを内心で笑んで、唇から離れて首筋に顔を埋めると彼女は小さく反応を示した。 「ッ ちょ、…今は昼間で……!」 今から何をしようとしているかに気づいた彼女から慌てた様子で肩を押される。 ―――もちろん、その程度ではびくともしないが。 「人払いは済んでいる。」 「え…」 黎翔からすれば当然のことだ。 2人きりの時間を誰にも邪魔されたくはない。 「夕鈴―――」 こんな時、彼女を呼ぶ声はことさらに甘くなる。 力が抜けた愛する妻の、白く柔らかな肌に触れて、 「お母様ー?」 彼女によく似た声が部屋の外から聞こえた。 「母上、父上を知」 自分と同じ声が途中で途切れる。 顔を上げれば、入り口に立つ自分の分身のような子ども達。 『……………』 何とも言えない気まずい沈黙がその場に落ちた。 「り、凛翔っ 鈴花…!」 沈黙を破ったのは夕鈴で、1人表情を変えて黎翔を突き放す。 そして囲いの下から抜け出してしまうと、真っ赤な顔で乱れた襟をかき寄せて整えた。 「あらら。私達お邪魔しちゃったみたい。」 軽い調子でごめんなさいと謝って、鈴花は笑いながらひらひらと手を振る。 「私の用はたいしたことないから、続きはごゆっくりどうぞ。」 「で、できるわけないでしょう!?」 極度の恥ずかしがり屋は正妃になろうとも相変わらず。 黎翔の意図に反してばっさり切り捨てられる。 「じゃあ遠慮なく。―――父上、李順が捜してますよ。」 淡々と伝える息子は憎らしい。 「って陛下ッ 任せて来たんじゃなかったんですか!?」 嘘もばれたし。 「―――――…」 夕鈴の怒りの声を端に聞きながらもそれは耳にあまり入ってこない。 意識はすでにふつふつと沸き上がってくるものに捕らわれていた。 とても貴重な、至福の時を、今奪われた。 せっかく夕鈴が、珍しく、素直に受け入れてくれたところだったのに。 しかもこういうことは1度や2度ではなく、、 「……凛翔、鈴花。」 地を這うような低い声に隣の夕鈴はビクリとして言葉を引っ込め、娘はさっと兄の後ろに 隠れる。 「何ですか?」 平気そうなのは同じ顔をした息子くらいだ。 「…お前達は、本当に懲りないな。」 何度邪魔をすれば気が済むのかと。 「わ、わざとじゃないのよ?」 兄の後ろから少しだけ顔を出して鈴花が言う。 …ああ、分かっているさ。 だが、いつもいつも。 どうしてこうも毎回絶妙のタイミングで。 「―――李順に一刻待てと言っておけ。」 「…分かりました。」 その一言であっさり引いて凛翔は踵を返す。 「待って! 李順のところなら私も行きたいわ。」 李順の名前を聞いた途端に目を輝かせた鈴花も兄を追いかけ、あっという間に2人はいな くなった。 「あの、一刻って…」 凛翔にはすぐに伝わったのだが、肝心の彼女には伝わっていなかったらしい。 戸惑って尋ねる彼女の腰を引き寄せて自由を奪う。 少し動けば唇が触れる距離で、狼は赤い瞳を鋭く光らせた。 「私を不機嫌なまま政務室に戻す気か?」 「……」 それが何を意味するかを理解して、彼女は押し黙る。 黎翔が不機嫌なことで被害を被るのは―――若い官吏達だと気づいて。 「私の機嫌を直せるのは君だけだ。…君なら一刻もあれば十分だろう?」 そう言いながら長椅子に再び押し倒した。 …ただし先程と違って、今度はすでに帯に手をかけて。 「続きだ。」 1度は閉じられた襟元を再び乱して、顔を埋めて先程し損ねた花を咲かせる。 今度は肩を押されることもなく、彼女の腕は首へと回った。 「お、お手柔らかにお願いします…」 抵抗する気はない代わりに小さな声でそんなお願いをされる。 普段ならここでにこりと笑って安心させたりするのだが。 今の気分では全くそんな気にはならなくて、頭を上げ―――薄く嗤った。 「…さて、どうするか。何しろ時間がないからな。」 「!!?」 その台詞に十分見合ったそれに、彼女は顔色を赤から青に変える。 「だが安心して良い。すぐに何も考えられなくなる。」 「〜〜〜ッ!!!?」 残念ながら、夕鈴の願いは叶えられそうになかった。 「いつまで経っても仲良しよねー」 ふふっと鈴花が楽しげに笑う。 その仲良しぶりのせいで迷惑を被る身としては彼女ほど楽しめないが、そこには凛翔も異 論はなかった。 「戻る頃には上機嫌だな。準備だけしておくか。」 本人が一刻と言ったのだから、確実に一刻後には戻ってくるだろう。 李順からはいい顔をされないだろうが、このまま戻ってこないよりはだいぶ良い。 「李順の機嫌は私に任せて。」 そう言って可愛くウインクなんてする妹に胡乱な視線を返す。 確かに我が妹は可愛いのだが、残念ながら効果があるとは思えなかったのだ。 「…溜め息の数が増えるだけじゃないのか。」 「失礼よ、兄様。」 「……本気なのか?」 彼女の態度から、予てからの疑問を改めて聞く。 今は保留になっているあの言葉。 その気持ちは今妹の中でどうなっているのか。 「約束まであと1年ね。…もちろん本気よ。」 さっきまでの軽い笑顔を消して、鈴花は至極真面目に答えを返した。 その態度こそが彼女の本気度を示している。 「どこが良いんだ? 李順は父上より年上だ。しかもバツイチ。」 離縁ではなく死に別れなのだから李順に悪いところは何もないのだが。 鈴花が生まれる前に、病気で亡くなった李順の奥方のことは凛翔もよくは知らない。 ただ分かるのは、あれ以来李順が独りを貫いているということ。 そして、それが指す意味はそんなに多くない。 ―――鈴花はそれに気づいているのか。 「兄様には分からなくて良いの。あの人の良いところは私だけが知ってれば良いもの。」 強い光をたたえた瞳が、真っ直ぐに射貫いてくる。 あと1年。今更この決意が変わるとも思えない。 だが、鈴花が答えを出しても、良い応えは期待できないのも凛翔は気づいていた。 (…鈴花、それでもお前は苦しい方を選ぶのか?) 今は何も言わない。待つように言った母が何も言わないから。 ただ妹が傷つかなければ良いと、兄心に凛翔は思った。 2011.12.26. UP
--------------------------------------------------------------------- お題:未来話で、陛下と夕鈴がイチャイチャしているときに子供たちに邪魔されて不機嫌になる陛下 リクそのまんまの話(笑) 仲良し親子です☆ いちゃいちゃが下手するとエロに走りそうになるのは、内緒の恋人であんなんばっか書いてたせいか… 最近の話読み返してると、「誰のもの」とかもう表で良いんじゃね?って思います(苦笑) あと1年ってことで鈴花が14らしいので、凛翔は16ですか。 李順はバツイチにしてみました。いや、あの年まで独身は李順でもさすがにないのかなって… この辺りは妄想が止まらない3年後の李鈴の話で書ければなーと思います。 意味が分からない方は「未来夫婦」カテゴリへ。 「公主様の告白」のおまけのつもりで書きました。今の拍手にはその3年後の序章だけ書いてます。 えー、ウインクとかバツイチとか現代用語がよく出てますが、バイトって言葉もあるから良いかなと。 いつもそんなノリで書いてます。きっと現代語訳してるからなんだよ!← ニコニコ様、妄想し甲斐のあるリクエストをありがとうございました〜vv ちっちゃい子達に邪魔されるのも可愛くて良いな〜と思ったんですけど、てか普通そっちかなって 思うんですけど… ネタ的に考えてたらおっきくなりました。 ちっちゃいバージョンは下におまけで書いたので許して下さい。 いつも通りに例のアレは年中無休で受付中です〜(>_<) ・オマケ・ 子ども達は昔からよく邪魔してたみたいですねー(笑) たぶんこんな感じで。↓ 「夕鈴…」 花の香りを纏う彼女を抱きしめ、よく熟れた果実色の唇に口付けようとして… 黎翔は横でじっと見ている2対の瞳に気づく。 自分と同じ色彩の幼子達が仲良く並んで見上げていた。 (いつの間に入ったんだ…?) 夕鈴も黎翔の視線を追って子ども達に気がつくと真っ赤になる。 意味など分からない幼子達だが、彼女からすれば恥ずかしいものらしい。 「わたしもぎゅーしてー」 鈴花が手を伸ばすと、 「ぼくもー」 凛翔は自分で長椅子に上ろうとしてくる。 黎翔の腕の中から抜け出た夕鈴は、鈴花を抱き上げ凛翔を手招いて呼んだ。 「――――…」 それを眺めながら、自分の機嫌が急降下していることに気づいてはいた。 しかし相手は意味も分からない子ども。 凛翔が産まれてすぐの頃のように、あんな風に夕鈴に怒られたくはない。 そう思えば何も言えなくなって、黎翔は口を噤むしかなかった。 さすがに小さい頃は怒るに怒れず、陛下は我慢するしかなかったとか(笑)


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