公主様の告白
      ※ 未来夫婦設定、娘と李順中心の話です。




「私、李順のお嫁さんになりたい。」
 そう言って、少女は突然李順の腰にぎゅーっと抱きつく。

「は!?」
 それに何より一番驚いたのは、当の李順だった。



 今、彼の腰に纏わりついている愛らしい容姿の少女は鈴花公主。
 御年12になる、この国の王の2番目の御子だ。

 普段は「お淑やかで温和」…という大きな猫を被っている姫君だが、彼女は時々母親顔負
 けの突拍子もない行動をする。
 それが今回は、突然のこの告白だった。


「…いきなり何を言っておられるんですか?」
 何の前置きもなければ脈絡も何もない。
 李順は政務をサボって后のところに逃げ込んだ王を迎えに来ただけだ。
 そこにたまたま公主がいて、にこりと笑われたと思ったら何故かこうなった。

「ダメ?」
 小首を傾げつつ愛らしい瞳で見上げる。
「ダメも何も…」


「鈴花!!」
 声と同時に間に手が伸びてきて、べりっと引き剥がされた。
 そのまま彼女は腕の中に囲われる。
「…凛翔太子。」
 正直ホッとした。
 …その彼からは父親と同じ鋭い瞳で睨まれているが。


「鈴花、何故李順なんだ?」
 可愛い妹に彼は殊更優しい声で尋ねる。
 この太子の妹溺愛ぶりは異常とも言えるが、今はそこは考えない。

 脈絡も前置きもすっ飛ばした彼女の告白の理由。
 それは私が一番知りたい。



「―――私も知りたいわ。」
 ふふ と可笑しそうに笑いながら、夕鈴殿が奥から出てきた。
 彼女の後ろには、本来ここに来た目的であるはずの王の姿。
 その彼からも睨まれた。

「どこを好きになったの?」
「眼鏡が、素敵で…」
 兄の腕の中で、恋する乙女はポッと頬を赤らめる。
「それに頭も良いし――― 何より金銭感覚がまともで堅実な方だし。」
 微妙に現実的な見解が年相応ではないが。

「…見る目はあるわね。さすが私の娘。」
「夕鈴殿ッ 適当なことを言わないでください!」
 感心する彼女にそこは反対してください!と叫ぶ。


「あら、女の子の成長って早いんですよ。」
 それにからっと笑って返した彼女は少しだけ考えてから、鈴花の頭をそっと撫でた。
「でも…そうね。―――鈴花、もし15になってもまだその気持ちを持てたら、もう一度
 告白しなさい。」

 まだ恋に恋するお年頃。本気なのかは分からない。
 それはきっと彼女自身にも。
 だからゆっくり考えなさいと。

「その時には貴女の本気が伝わるはずよ。」
 すっかり母親の顔になった夕鈴殿が優しく笑った。






「…いつ我が娘を誑かした?」
「してません。」
 射殺すほどの鋭い瞳と冷たい声音で言われて即答で返す。
 全く身に覚えがない。
「仕方ないわ。あの子はずっと傍で見ていたんだもの。」
 その横で夕鈴殿が笑う。


「―――李順さん。3年後、覚悟してくださいね?」

 そうして向けられた言葉は、本気だったのか冗談なのか。
 結局分からないままだった。




2012.1.9.再録(2012.11.5.一部修正)



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成長した鈴花が「李順さんと結婚する」と言ったりしたら、と某様が言われてたので。
8月頃の話なのでご本人は覚えてらっしゃないでしょうけど(苦笑)
困ってるのは陛下でなく李順で、李順も青くなっていませんが…
ちょっと今の設定の鈴花とは口調が違っていたので修正しました〜

早く3年後を書きたい〜 ネタは出来上がってるんです!
しかしまだまだ優先すべきネタがたくさん!(汗)
 


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