※ 200000Hitリクエストです。キリ番ゲッターほのか様に捧げます。




「良かったですわ。」
 1人がそう言えば、

「私達、心配しておりましたの。」
 隣の女性がそれを継ぐ。

「お妃様がいらっしゃって本当に良かった。」
 さらにもう1人がそう言ってにこやかに笑った。


 口々に女官達が言うので、夕鈴は意味が分からず首を傾げる。
 何でそんな笑顔で、しかも安堵したような顔をされるんだろう。

「どういうことですか?」
「―――今となっては笑い話ですけれど。」
 クスクスと女官達が笑う。


「お妃様がいらっしゃる前、陛下にはある噂がありましたの―――」


 最初は「そんなまさか」と内心で笑い飛ばしながら聞いていた。

 けれど、話し上手な彼女達の話を聞いているうちに、夕鈴の顔色はだんだん青へと変わっ
 ていったのだった。















    疑惑
「――――くらいかな。」 黎翔が傍にいない間は浩大が夕鈴を影から守っている。 1日中一緒にいられるならそれが良いのだが、そうはいかないから仕方がない。 そして1日が終わってから浩大に報告させるのも、すでに当たり前になりつつあった。 「分かった。何事もなかったなら良い。」 その報告はいつも通りだったでほぼ済んで、仕事は終わりだと浩大はどこからか酒の瓶を 取り出す。 自分のところで飲めと視線を送るが軽く無視され、一口飲んだところで彼は「あ」と思い だしたように声を上げた。 「ねー へーかぁ。」 「何だ。」 まだ何かあるのかさっさと帰れのオーラも無視。 まるで純真な子どもがそうするように、ことりと首を傾げてみせる。 …酒瓶持ってそれをされても全く可愛く見えないが。 だが本人はそんなことも気にしていない。 「陛下ってホモなの?」 「……は?」 いきなり何だと怪訝に眉を寄せれば、浩大は突然ハッとした表情をする。 「ひょっとして、オレもてーそーの危機?」 明らかに冗談混じりで、キャーだなんて馬鹿みたいな声を出して。 (…馬鹿にされているのは私か。) 「―――殺されたいのか?」 黎翔の声が一段低くなると、浩大はさっと間合いの外に逃げた。 このすばしっこさは有能だがこういう時は腹が立つ。 「だってさー 今日お妃ちゃん達がそんな話をしてたから。」 「夕鈴が?」 その存在を表す名を聞いた途端に力が抜ける。 内容が何であれ、彼女という存在は黎翔には特別だ。 「話してたのは噂好きの女官達で、お妃ちゃんは聞いてただけなんだけど。」 誤解しないでくれよと言いおいて、浩大は昼間の話をして聞かせた。 「ほら、陛下にとってはお妃ちゃんが初めての妃じゃん? それまでは縁談とか全部断って たし、だからって後宮の誰かに手を出したとかゆーのもなかったし。」 それは確かに事実だ。 後々面倒になることなんてしようとも思わなかった。 「で、一時期そんな噂が流れたってサ。」 それは知らなかった。 後宮なんて必要ないと思っていたから、放っておいたし気にもしていなかった。 「あんまり信憑性があったから、お妃ちゃんも最後は否定しなくなってさー」 …そこは聞き捨てならないな。 他の誰に何をどう思われても気にしないが、彼女にだけは誤解されたくない。 ただでさえ、今彼女には狼陛下が怖がられていて(自分で言ってて凹むけどこれ)、その距 離は縮まらないのに。 これ以上変な誤解を受けて、彼女が遠ざかるのは本気で嫌だと思う。 「…夕鈴はそれを信じたのか?」 「さあ? でもお妃ちゃんは自分が臨時バイトだって分かってるし、陛下に手も出されてな いしね。信じるだけの材料はあるよね。」 軽い答えは聞き終わる前に、立ち上がった時の椅子の音でかき消した。 「あれ、どこ行くの?」 他にどこがあるというのか。 わざと聞いてくる浩大をじとりと睨む。 「誤解は解く必要があるだろう。」 しかもそんな噂だなんて冗談じゃない。 「もうお妃ちゃん寝てるって。」 「……」 正論なだけに何も返せず足が止まった。 「…浩大、報告にこの時間を選んだのはわざとか?」 「偶然偶然」 にやにやと笑うその顔では忘れていたのかさえ今は疑わしい。 しかし、浩大を問いつめたところで正直に言う可能性は低いし、第一そのことに対して口 を割らせても何の意味もない。 今一番重要なのは、夕鈴の誤解を解くことだ。 「…明日朝一で解く。が、その前に―――」 そろりと背を向けようとした浩大の真横に懐刀を突き当てる。 ―――このまま逃げられると思うな。 「その噂話について、もう少し話を聞こうか。」 「は、はーい。」 黎翔の本気の怒りに、浩大は冷や汗をかきながらそれを了承したのだった。 * タイミングというものは、掴むのが結構難しい。 そして、こういう時に限って上手くいかないのだ。 朝一で彼女の部屋に行こうとしたら、その前に緊急の用件が入ってしまいできなかった。 そしてそのまま執務の流れになり、彼女は掃除のバイトへ行ってしまって… 誤解は解けないまま、彼女は午後から政務室に姿を現した。 ―――夕鈴の視線が…オカシイ。 先程から感じる視線に黎翔は内心で息を吐く。 熱い視線なら大歓迎なのだけど、そんな口を三角にして凝視されるのはちょっと怖い。 (一体何を吹き込まれたんだか…) あの後も、浩大は詳しく話そうとはしなかった。 笑って躱してそれとなく匂わせただけ。 …人の反応を見て楽しむ気満々なのが憎らしい。 そんな風に上手に逃げながらちゃっかり1本分を飲み干して、浩大はいつものごとく窓か ら帰って行った。 「…陛下。」 書類を手渡しながら、声を落として李順が耳元で囁いてくる。 自分が何かを言う時以外は政務室はそれほど静かではないので、それが誰かに聞こえると いうことはあまりない。 「お妃と何かありましたか?」 夕鈴の常と違う視線に李順も気づいたらしかった。 ちらりと見た李順の眉間には皺が寄っている。 「………、誤解は後で解く。」 今回は、悪いのは自分ではない、と言いたいところだが。 だが誤解をされているのは自分で。どうにかしなければならないのも自分だ。 「分かりました。」 小声のやりとりはそれで終わり、李順はすぐに姿勢を正して次の案件を示してきた。 「―――――…」 夕鈴の視線がまた痛くなった気がした…のは気のせいではないと思う。 ……さっさと誤解を解いてしまおう。 心から誓った。 「で、昨日女官達から何を聞いたのかな?」 「ッッ!!」 途端に夕鈴はお茶を噴いていたけれど、今はそこに構ってあげる余裕はない。 結局誤解を解くタイミングを掴めないまま夜になってしまった。 夕鈴の視線は痛いままで、それがあの誤解のせいだと思うと苛々は積もりに積もった。 それにあてられて青褪めていた官吏も多かったが、そんなものどうでも良い。 「あの、陛下のご趣味に異を唱える気はありませんから…」 それに答える彼女の視線は明後日の方向を向いていて、さっきから目を合わせようとしな い。 ("ご趣味"って、好みっていうなら確実に君なんだけど。) そう言えたらどんなに良いだろうか。 「一体何を聞いたの。」 「えーと… いえ、私は臨時ですし、陛下が"そう"でも私は……」 だからどうしてそこで無理矢理納得します、みたいな顔になるのか。 …いっそ証明しちゃおうか。 身をもって知れば彼女も何も言えなくなるだろうし。 「ねえ、相手は誰?」 それでもまだ待とうと、努めて笑顔で優しい"素"を装う。…ただし有無は言わせないよう に。 「―――李順、さん…です……」 息を飲んだ夕鈴は、少し躊躇ってから小さい声でそれだけ言って、そのまま口を閉ざして しまった。 「本気にしてないよね?」 「……」 「だからどうして黙るの。」 その反応は間違ってると思う 絶対。 お茶の器を手の中でもじもじと遊ばせながら、夕鈴の視線は宙を彷徨う。 「だって、陛下は李順さんといつも一緒にいらっしゃるし、有り得なくもないのかなぁ、 とか……」 「いや、有り得ないから。」 即答で、すっぱり言い切る。 「え、でも」 それでも彼女は何やら渋った様子。 何がどうしてそんな誤解を信じ込むのか。…信じたいのか? (……へぇ?) 頭の奥でプチッと、何かが切れた音がした。 「―――証明して見せても良いんだが?」 「!」 席を立つと彼女の肩がビクリと震えた。 雰囲気が狼に変わったことを敏感に感じ取って反応したらしい。 …それで引っ込む気はさらさらないが。もう我慢も限界だ。 「ど、どうやって…?」 おそるおそる、震えながら、彼女は自ら墓穴を掘る。 答えの代わりに薄く嗤うと彼女の顔がさっと青くなった。 「へ、へいか…?」 近づく黎翔に背を向けないように、彼女は椅子に座ったまま こちらの動きに合わせて身 を反転させる。 それがどれだけこちらに都合が良いか、彼女は気づかない。 「…え、や、あの……」 戸惑う彼女に被さるように卓に両手をついて、腕の囲いの中に閉じ込めた。 榛色の大きな瞳に自分の姿が映っている。 それだけ近い距離に彼女がいる。 近すぎるその距離のせいで、彼女は身動きがとれずにいて。 「女性を抱けると証明すれば良いのだろう?」 「!?」 反射で彼女が身を引くと、背中に当たった茶器が音を立てる。 けれど後ろは卓、彼女は逃げられない。 「君が自分の身をもって証明すれば良い。」 肌を撫でるように視線を下ろしていく。 滑らかな頬から白い喉元。…きちんと合わされた襟元の、その下もきっと同じ。 「…夕鈴、」 耳元に唇を寄せる。低く囁くと彼女の耳が真っ赤に染まった。 (―――誰が、"そういう"趣味だって?) 君の花の香り、甘い香りに、いつだって惑わされている。 君にしか興味を示さない。そんな自分がどうやったらそうなるんだ。 「っ!?」 茶器の類を脇に除けて、彼女の背中を卓へと押しつける。 …この場合、押し倒したと言った方が正しいだろうか。 「2度と、そんなことは思い浮かばない。」 さっき視線で辿った場所を今度は指でゆっくりなぞる。 吸い付くような、柔らかな、眩しいほどに白い肌。 丁寧に辿った指先が布地を押し上げ襟の下へと滑り込んだ。 「わ、わわわ分かりました! 信じます!!」 そこで彼女の方が許容範囲を超えたらしい。 完全にパニックに陥った様子で、目をぐるぐるさせながら叫ばれた。 「疑ってすみませんでしたぁッ!!」 真っ赤な顔で涙目で。 見つめられて、そこで黎翔自身も我に返った。 「…うん、分かったなら良いよ。」 ころっと態度を変えてにこりと笑う。 ―――内心の動揺は決して見せないようにして。 (…まだ、早いよ。) 暴走しかかっていた自分に言い聞かせる。 (無理矢理は…ダメだ。) 獣の自分が 我慢できないと暴れる。 それを力尽くで抑えつけた。 ―――僕が好きなのは、そのままの彼女。 無理矢理奪えば失くしてしまう。 好きな彼女が消えてしまう。 それは、絶対に嫌だから…… ・オマケ・ その後、李順さんからばっさり切られました。 「は? 馬鹿じゃないですか。」 「そうですよねー…」 2012.1.26. UP
--------------------------------------------------------------------- お題:陛下は即位されてから女性関係無かった事で衆道or欠陥があるのではと密かな噂があった・・    と女官とかに笑い話で昔話をされ否定しつつも内心でまさかと疑ってしまう夕鈴を浩大が聞きつけ面白がられて凹む陛下。(原文) とりあえず最初に土下座します。 リクをいただいて1ヶ月と2週間……大変長らくお待たせいたしました。 ほんとにほんとにすみませんでしたm(_ _;)m リクは選択制で2ついただいていたのですが、陛下で遊ぶ方を選びました☆(鬼) それと、もう一つのは6巻出ないと書けないかなと思ったので。 お忍びの時はどうか分からないけど、後宮に限れば陛下は誰にも手を出してないっぽい気がします。 後宮ってくらいだから美人さんばっかりだろうし。 なのに誰も"ない"ってなったらそう思うのも無理ないかとか。 隠しリクは、李順が疑われたら…とのことでした(笑) まあ1番近くにいるしね!女官の皆様の目にも付くしね! この場合どっちがひだ(ry うん、ここはノマCPサイトですから自粛します。 浩大に苛められるだけじゃあまりに可哀想だったので、後半に黎夕っぽいの入れてみました〜 そしてうちの浩大は「陛下de遊ぶ」スキルを取得している模様(笑) 狼陛下で命令しない限りは、基本自由な人です。 ほのか様、ほんっとーにお待たせしました!(>_<) からかう浩大と陛下を書くのがすっごい楽しかったです!ありがとうございました! というか、こんなんで良かったでしょうかー? 返品、苦情、その他諸々は、常に受け付けております〜 ↓実はこんなオマケも考えていた 「いや、お妃ちゃん。世の中には両方オッケーとい」 「―――浩大。(冷)」 「ッ 冗談デース!(逃)」


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