ごめんなさい
      ※ 140000Hitリクエストです。キリ番ゲッターちょこちょこ様に捧げます。
      ※ 「お妃様と黒い犬」のわんちゃんと「甘えた子猫」の子猫ちゃんが出てます。




「いいお天気ね、雪。」
 腕の中の白い子猫に話しかけると「にゃあ」と返事が返ってくる。
 それに夕鈴は小さく笑いながら頭を撫でてやった。

 この"雪"という白い子猫は、以前のちょっとした事件から夕鈴の猫になった。
 お風呂も寝るのも一緒というほど甘えん坊で、でもそれはずっと独りぼっちだったという
 経緯からだから夕鈴は雪が望むようにさせている。
 元々「世話をする」ということ自体が好きなので、今のところ特に問題はない。


「あそこの四阿で休憩しましょうね。」
 そう言えば、雪は嬉しそうに鳴く。
 本当に人の言葉を理解しているわけではないだろうけれど、そんな風にちゃんと返してく
 れると何か嬉しかった。

 雪は1匹でも散歩できるけれど、たまにはこうして一緒に出かける。
 そういう時はたいていこうして夕鈴の腕の中に収まって大人しくしていた。
 甘えん坊の子猫が1番好きなのは膝の上、次がこの腕の中なのだ。




「…ん?」
 ふと、遠くで何か聞き覚えがある声が聞こえて夕鈴は顔を上げる。
 その後ろからは誰かの慌てるような声。
 見渡すと、奥から黒くて大きなものが駆けてくるのが見えた。

「黒藍!」
 ぱっと表情を明るくして夕鈴はその名を呼ぶ。
 すると、黒藍はますます走る速度を上げたようだった。

 ―――"黒藍"は元々陛下に献上されるはずだった黒い犬だ。
 けれどとある経緯から夕鈴にすっかり懐いてしまい、姿が見えればこうしてすぐに走って
 きてしまう。
 夕鈴はそれが可愛くて仕方ないのだけれど。


「にゃ!」
「え」
 夕鈴がその存在を思い出したのは、雪がびっくりして腕から飛び出した時だった。
「雪!?」
 下に降り立った白猫は、黒藍がいるのとは反対方向に駆け出す。
 猫だけれど、脱兎という言葉がぴったりだ。

(―――じゃなくて!)

 しまったと、夕鈴は大いに慌てた。
 雪は黒藍に会うのが初めてだったのだ。
 小さい雪からしてみれば、あんな大きなものが迫ってきたら怖いし驚くに決まっている。


「雪、待って!!」
 一目散に逃げていくのを夕鈴は慌てて追いかける。
 そこへ黒藍が追いついて、夕鈴の横に並んだ。
「ごめんね、黒藍。」
 ぴったりと寄り添ってくるその子に軽く目を遣り、ふさふさの頭を片手で撫でて謝る。
 いつもは会えばすぐ抱きしめてあげるけれど、今日はそれができない。
 雪を見失ってしまうと大変だ。
「――――」
 黒藍は気にしなくても良いとでもいう様子で吠えることもせずとことこ付いてきた。
 この子は頭が良くて、とても大人しくて良い子だ。雪もちゃんと会わせてやればきっと仲
 良くなれる。

「後で雪を紹介してあげるわね。」
 今度は背を撫でてあげて、夕鈴は雪が走って行った後を黒藍と一緒に追いかけた。





















「どこ行っちゃったのかしら… ―――黒藍?」
 見失ったと思った頃に、黒藍が立ち止まって上を見上げた。
 それに倣ってそこに立つ大きな木を見上げると、上の方でカサリと葉が揺れる。
「雪?」
「…にゃあ」
 木の上からか細い声が聞こえて、予想通りの結果に夕鈴はがっくりと肩を落とした。
「やっぱり降りれなくなってる…」
 どうして猫というものは、降りれないのに登ってしまうのか。
 待っていればいずれは降りてくるだろうけど、それがいつになるかは分からない。それに
 雪はまだ小さいし。

(……いける、かな。)
 手近なところにある太い枝の具合いを確かめてから、足をかけ腕に力を入れる。
 衣装はずるずると重いが、わりと簡単に登れた。


「お妃様!?」
「今、人を呼びますから!」
 ようやく追いついた侍女達が、木の上の夕鈴を見つけて慌てた声を上げる。
 それが当然の反応だろうとは思ったが、今は緊急事態だ。他の誰かが来るのは待てない。
「いえ、他の人だとますます上に逃げてしまうわ。」
 そう答えてさらに上まで登った。

 いつもの雪なら誰でも良い。でも今の怯えきった状態では下手に刺激はできない。
 となると、雪が1番懐いていて警戒心が薄い夕鈴が適当だと思ったのだ。



「にゃあ…」
「どうしてそんな端っこに行っちゃってるのよ…」
 枝の先で震えている雪に溜め息を吐く。
 さすがにそんなに細いところまでは迎えに行けない。
 仕方なく雪がいる枝の根元に座って、雪の方へと手を伸ばした。

「雪、おいで。」
 呼びかけに反応した雪が顔を上げて夕鈴を見る。
「私よ。大丈夫だから…」
 ちょっとだけ躊躇ったようだったけれど、夕鈴だと分かったからかゆっくりと近づいてき
 た。
 そうして近づいてきた雪を抱き上げて、どうにか腕の中に収める。
 それでとりあえず最初の問題は解決した。

「…さて、次の問題は…どうやって降りるかよね。」
 そこに座り込んだまましばし考える。
 登る時とは違って雪を抱いているので手が使えないのだ。
 もう少し小さい頃なら懐に入れるという手も使えたけれど、今はさすがに無理だし。



「何の騒ぎだ?」
 すると下で聞き覚えのある声がした。
 まあ、ここは後宮だから他にいないんだけど。
「陛下!? それが、その」
 侍女が説明しようとしていたところでぱっと閃いた。
 1つ下の枝に降りて立つ。

「ちょうど良かった。陛下!」
「…夕鈴……?」
 真下に立った陛下と目が合う。
 当然だけれど、彼は夕鈴がそこにいることに驚いて目を丸くしていた。
「雪を先に降ろしたいので下でこの子を受け止めていただけませんか?」
 雪が1番懐いているのは夕鈴で、その次は陛下だ。陛下相手なら大人しくしていてくれる
 だろう。
 1度座ってもう1段降りて、雪の身体を片手で持ちかえる。
 幹は太過ぎたから近くの枝を支えに使った。

「ほら、陛下なら大丈夫でしょう?」
 腕に爪でしがみつく雪を陛下の方に向ける。
 枝をしっかりと握りなおして、陛下に渡すために重心を前に傾けた。


 バキッ

「え?」
 嫌な音がして、身体が急激に前のめりになる。
 折れたのは、足場ではなく持っていた枝の方だった。

「っっ!?」
 雪ごと夕鈴の身体は前から落ちる。

「夕鈴!」
 雪を受け止めようとしていた陛下が夕鈴ごと抱き止めてくれて。
 夕鈴を腕に収めたまま、陛下は地面に座り込んだ。



 ぱらぱらと青い葉が落ちてくる。
 しばし呆然としていたが、まず最初に思い出したのは腕の中の子猫のこと。
 がばっと身を起こして腕の中を窺い見た。

「雪!? 平気??」
 雪はビックリしすぎたのか腕の中で固まっている。
 けれどそれ以外は何ともなさそうでホッとした。
「良かった、怪我はないわね。」

 そして、次に思い出したのは、受け止めてくれた彼のこと。
 驚かせてしまったに違いない。

「へ、陛下…すみませ」

 ぺちん

 顔を上げて聞こえた乾いた音。
「……?」
 頬に何かが当たった感触がして、思わずそこを押さえてしまった。
 今何が起こったのか、ビックリして目をぱちくりさせていると、目の前の真剣な瞳と目が
 合って。

「……君は、自分が何をしようとしていたか分かっているのか?」
 声に含まれるのは静かな怒り。
 紅い瞳にじっと見られる。

 驚かせたのではなく、これは……

「ごめんなさい…」
 項垂れて謝ると、彼は夕鈴を抱いたまま立ち上がる。
 腕の中の雪はまだ大人しい。
「―――傷薬を。」
「は、はいっ」


 ごめんなさい、と。
 もう一度言ったけれど、彼は何も返してくれなかった。






































 陛下は薬だけを受け取って人払いをしてしまった。
 そして黒藍はもちろん、雪も侍女達と一緒に離されてしまって。

 …正直2人きりはすごく居たたまれない。だけど、誰も陛下の命には逆らえない。

 さっきから陛下は夕鈴に何も言わない。
 だから、夕鈴も黙って彼の動きを見ているしかなくて。
 それがもっと居たたまれなかった。



「手を出して。」
 塗り薬を手に持った陛下が長椅子に座らされた夕鈴の前に膝をつく。
 彼が何をしようとしているか分かって、それにはさすがに夕鈴も慌てた。

「じ、自分でしますから…!」
 手のひらや手首の辺りにはさっきの木登りで付いた擦り傷がたくさんある。
 だからといって陛下にさせるわけにはと、薬を取ろうとしたら腕を捕まれた。
「へいかッ」
 腕を引こうとしたけれど無理だった。
「―――動かない。」
「は、はい…」
 反射的に返事をしてしまい、そうなるともう動けない。


 黙々と傷の一つ一つに薬を塗り込まれる。
 夕鈴の方も何も言えずにされるがまま。
 両手が終わると次は足で、その時に足にもたくさん傷があることに気づいた。



「…心臓が止まるかと思ったんだ。」
 ぱちんと蓋を閉じる音と共に零される。
 顔を上げた陛下は怒ってはいなくて、でもすごく揺れた瞳をしていた。
「元気が良いのが夕鈴らしさだけど、無茶はしないで。」

 …ああ、すごく心配されていたんだなと思う。
 後先考えずに行動するのは悪い癖だ。
 それで陛下にこんな顔をさせてしまった。

「…すみません。」
 頭を下げて謝ると、今度はうんと頷いてくれた。




「―――じゃあ、はい。」
 おもむろに夕鈴の手を取った陛下が、夕鈴の手のひらを自分の頬に押し当てる。
「?」
 意味が分からないと首を傾げると、彼は少しだけ困ったような顔をした。
「次は君の番。お返し、して良いよ。」
 どうやらさっき頬を叩いたことを言っているらしい。
 そんなこともあったなと、夕鈴はすっかり忘れていたのに。


(お返しって…全然痛くなかったんだけど。)

 きっと赤くもなっていない。
 ただビックリしただけだ。

 それでも陛下はお返しをしてくれと、目を瞑ってそれを待つ。
 自分がしたことを、彼自身は結構後悔していたらしい。

(ああもう、ほんっと甘いんだから。)
 くすりと笑って、夕鈴は彼の頬から手をそっと離す。
 そうしてじっと彼の頬を見つめて、それからゆっくり近づいていった。



「――――」
 彼の頬に軽く触れて離れる。

「!?」
 途端にぱちりと陛下が目を見開いた
 今度は陛下が驚いて、何事かと目をぱちくりさせている。

 ―――頬に触れさせたのは、手ではなく唇。
 だって、悪かったのは夕鈴なのに、"お返し"なんてできないから。


「心配かけてごめんなさい。」
 目を見て言うと、今度は深い溜め息と共に頭を抱え込んで座り込まれてしまった。

 そうされると頭しか見えないけれど、黒髪から覗く耳が赤いのは気のせいかしら?


「そんなの、反則だよ…」
「えぇっ!?」

 ダメだったのかと慌てたけれど、陛下はなかなか顔を上げてくれなくて。
 何が反則だったのかは、最後まで分からないままだった。




2012.1.27. UP



---------------------------------------------------------------------


お題:陛下が夕鈴をたたいちゃう(よく少女漫画でおみかけするようなアレなお話)

えーと、子猫ちゃんとわんちゃんを出したかったんです。
感想でまた出してとも言われてましたけども。自分的にもいつか出したかったので。
リクのどこにも犬とか猫とか書いてないですけどね!←
んで、今回勝手に決めた名前は雪ちゃんと黒藍くんです。
黒藍はともかく雪も雄かもしれないけれど(笑)

陛下がぺちんする理由を考えてて、無茶を考えてたらこんなんが浮かんだと。
ちなみに今回の最初の仮題は「ほっぺたぺちん」です(笑)
ほっぺたぺちんなら無茶もこれくらいで良いのかなぁと。
隠しリクは
「仲直りもお約束の陛下が夕鈴に反対にたたいてというのですがほっぺにちゅう☆が希望」
でしたv
たまには陛下も真っ赤になると良いよ! それくらい許されると思うんだ!
というわけで、甘くなりました。私も砂糖吐くくらいだよ(笑)

ちょこちょこ様、毎度遅くてほんとすみません(土下座)
勝手に犬猫も出してます。あれは趣味ですすみません(笑)
いつもの通りのアレは常に受け付けております〜
リク権はあと1つありましたね☆そちらもお待ちしておりますv
 


BACK