※ 320000Hitリクエストです。キリ番ゲッターJUMP様に捧げます。
      ※ ちなみに、『会いたい』の続きです。




「―――の予算をこちらへ回せ。」
 戻ってきた陛下は、ここを出る前と明らかに違っていた。
 誰が見るにも明らかなほどに。

「…採掘量の詳しい資料は、」
「こちらです。」
 陛下が尋ねればすぐに李順が目的のものを手渡し、それを目を通すといくつか指摘する。
 分かりましたと答えた李順は、それを官吏の1人に渡して言付けた。


 先程から、瞬く間に案件が処理されていくのだ。
 厳しい表情は変わらないものの、周囲が凍り付くような雰囲気は幾分和らいで、みんな内
 心でホッとしていた。





「…お妃様にお会いできられたのかな?」
 陛下の様子を遠巻きに眺めながら水月がこっそり笑う。
 隣の方淵は渋い顔ながらも、同じ意見だったのか反論はなく無言を通した。


 ―――お妃様効果は絶大だなと。
 そう思ったのはきっと水月だけではないだろう。












    ご褒美
「…珍しいですね。」 黎翔は今日も、宰相から渡された山のような書簡に目を通していた 今のは、そんな黎翔を見て李順から漏れた言葉だ。 「何がだ?」 顔を上げてそちらを見ると、李順は少し驚いているというか、感心しているようにも見え る。 「いえ。普段ならそろそろ機嫌が悪くなられてもおかしくない時期だなと思いまして。」 最悪にまで気分が落ちていたあの日からすでに3日。 夕鈴の行動により完全に持ち直したものの、またあれから彼女には会えていない。 けれど、3日経っても黎翔は精力的に政務をこなしていた。 それはとてもとても珍しいこと。李順が不思議がるのも当然だ。 「何かあるんですか?」 「んー?」 聞かれた黎翔は途端にころっと態度を変える。 「実はさぁ 頑張ったら夕鈴がご褒美をくれるんだー♪」 にこにこと、それはもう嬉しそうに。 ちょっと他の官吏達には見せられないほどの上機嫌さだ。 「…そんなにやる気を出してくださるなら、そのご褒美とやらを毎回続けてもらいたいで すね。」 仕事効率最優先の李順らしい考えに黎翔も少し考える。 それはものすごく魅力的だと思うのだが。 「僕は嬉しいけど… 夕鈴が保たないかな?」 「は?」 李順は手料理くらいの感覚で言ったのだろう。 でもこれは、さすがに彼女には難易度が高すぎる。 ちょっと残念だけど。 時々のご褒美にはして欲しいなと、ちょっと思った。 「ねーお妃ちゃん。ここんとこ陛下がすごい張り切ってるんだけど、どんなご褒美なの?」 突然窓に現れたかと思うと、浩大は唐突に遠慮なく聞いてくる。 それであの日のことを思い出してしまって、夕鈴はボンッと顔から湯気を出した。 「え、ナニナニ?」 それで余計に興味を持たせてしまったらしく、相手は身を乗り出してくる。 (うう、恥ずかしくて居たたまれない…) でも、言うまで浩大はここから離れてくれないだろう。 本当は、言いたくない。けど。 「が…頑張ったのぎゅうをして欲しいって……」 言うだけでも恥ずかしく、後半は消え入るように小さくなった。 実際、穴があったら入りたい。 「……え、それだけ?」 しばしの間を置いて答えた浩大は口を開けぽかんとして、意外なものでも見るような顔を していた。 「それだけに決まってるでしょう!?」 他に何があるというのかと、真っ赤なままで怒鳴り返す。 こんな恥ずかしいこと、勢いでもなければできない。 (って、この前それやっちゃったのは私よっっ) 勢い余って陛下に抱きつくなんて、なんてことをしてしまったのか。 それが陛下は何故だかお気に召したらしく、今回のご褒美にという話になったのだ。 まだまだ忙しそうだったから、つい了承してしまったのだけど。 (それにしたって何てことを…!) 今度会うとき、陛下をまともに見れるのか。 …かなり不安なことだった。 「お妃ちゃんマジすげぇ…」 1人で何やら悶絶している彼女に聞こえない程度で浩大は呟く。 本気で感心してしまった。 (抱擁だけであれなら、それ以上だったらどうなるんだろうなぁ) * 「お妃様、陛下がお越しです。」 「はいっ」 女官から告げられ、思わずぴしっと背筋が伸びる。 昼間、浩大が「今夜会えるよ」と教えてくれて、それからずっとドキドキしていたのだ。 (久しぶりだし緊張するわ…) ちゃんと演技ができるのか、ちゃんと笑えるのか。 …そして、あの約束は本気なのか。ドキドキの1番の理由はそれだ。 確かに、先に抱きついたのは夕鈴だったけど。 それを今度は"ご褒美"に欲しいだなんて、ほんと陛下は変わった人だと思う。 (あ、愛情に飢えてるとか…?) すごい寂しがり屋だし、それもなくはないのかな、とも思って。 (…それとも、やっぱりあれは冗談で?) それも有り得なくもない。 だったら、今までのこのドキドキを返せになるけれど。 どれにしたって、陛下がどう考えているか分からないから何とも言えない。 「―――夕鈴」 ぐるぐると考えているうちに陛下がやって来てしまった。 部屋に入り込む涼やかな声が、最初に噤むのは自分の名前。 それに心臓が跳ねるのは仕方がない。 「お、おかえりなさいませ。」 はっと笑顔を思い出して返すけれど、少しだけ声が上擦ってしまった。 やばい。もしここに李順さんがいたら減点対象だ。 鬼上司の顔を思い出してぶるっと身を震わせる。 「ああ。」 対して陛下はそれを気にした風もなく、そっと頬に触れて俯き加減だった夕鈴の顔を上げ させた。 「……会えぬ間にまた愛らしさが増したようだな。」 目の前で、狼陛下が甘く微笑む。 久しぶりだからなのか、余計に甘く感じてしまう。 「…っ」 「―――その初々しさは相変わらずか。」 真っ赤になるのを隠せなかった夕鈴に、彼は喉で小さく笑った。 彼が下がれと合図を送れば、侍女や女官達は微笑みながら去っていく。 そうしてあっという間にその部屋には2人きりになった。 人がいなくなると、陛下は夕鈴から手を離す。 それをただ何となく目で追って、いつものようにホッと肩の力を抜いた。 いつもなら、ここでお茶の準備を始めるところ。 でも、今夜はいつもと少し違っていた。 「ゆーりん」 身一つ分離れた陛下がにこにこ顔で両腕を広げる。 どう見ても、上機嫌の小犬が尻尾をパタパタ振っているようにしか見えなかった。 「…?」 一体何の合図だろうと夕鈴が理解できずにいると、陛下はますます笑みを深める。 「―――約束。僕、頑張ったよ。」 「っっ」 どうやら陛下は本気だったらしい。 それを理解した途端、夕鈴の顔は真っ赤になった。 陛下が頑張っていたのは知っている。 それが本当にこのご褒美のためだったのかは分からないけれど、とりあえず今はそのご褒 美が欲しいらしい。 …約束だから、約束は守らなくちゃいけないんだけど。 でも。夕鈴にとってみれば、そう簡単にできるものでもなかった。 (あ、あの時は勢いでいけたけどっっ) 改めて考えるとなんて恥ずかしいことをしたのかと思う。 誰かに見られるかもしれない場所で、あんな抱きつくとか、普段の夕鈴なら絶対考えられ なかった。 (抱き寄せてくれた方がまだマシかも…) いつもなら過剰演技で自分からしてくるくせに、今日は夕鈴からしてくれるのを待ってい る。 …そういえばこの前、それが嬉しいとか言っていた。 (ううっ 恥ずかしいけど…ッ でも約束だし、ご褒美だし…!) 「…少し屈んでください。」 「ん、いーよ。」 小犬陛下は言われた通りに軽く腰を曲げて顔を近づける。 羞恥で逃げ出したい衝動を抑え込み、意を決して彼の首に腕を回すと ぎゅうと抱きしめ た。 「お、お疲れさまでしたっ」 その気持ちは本当だったから、腕にありったけの力を込める。 広げた腕が腰と背に回って、彼からも強い力で抱きしめ返された。 「―――頑張って良かった。」 ふふと耳元で笑う陛下は本当に嬉しそう。 その様子に、寂しがり屋さんの方を採用することにした。 …こんなので満足するなんて、本当に欲のない人だと思う。 「ね、ゆーりん。またご褒美が欲しいな。そうしたら、僕 頑張れるから。」 「え!?」 思わずぱっと手を離してしまう。 けれど陛下の方が夕鈴を離してくれなかったから、すぐ近くで陛下の顔を見ることになっ てしまった。 「…だめ……?」 「ううっ」 ああ、見ちゃった。そう後悔してももう遅い。 しょんぼり顔の小犬を、よりによってこんな間近で。 ―――こんなのそう何度もやったら、私の心臓が壊れてしまう。 でも、小犬のお願いを、断れるはずもなくて。 「こ、今回みたいにほんとに忙しい時だけ…なら……」 「ほんと!?」 彼はぱあっと笑顔になって、予想通りの反応に夕鈴は内心で溜息をつくしかなかった。 いっつも同じパターンだ。 本当はダメだと分かっているし、甘い自覚だってある。 …でも仕方ないじゃない。 陛下のこれに、私はとっても弱いんだから。 (というか、早く離してくれないかしら…) いつになったら解放されるのだろう。夕鈴の手は離れたのに、陛下には抱きしめられたま ま。 これ以上こうしていたら、気づかれそうな気がして困るのだけど。 だから今はただ、煩いほどの心臓の音が聞こえなければ良いと、それだけを願っていた。 2012.4.27. UP
--------------------------------------------------------------------- お題:会いたいの続き。 「会いたい」の続き…… つまり頑張ったのぎゅうですね!?というわけで☆ 続きをと聞いたときにどれだろうと思ったのですが、まさかこことはv 前回出てた皆様の一部もモブで登場。 陛下&李順と夕鈴&浩大は同日同時間のつもりです。 今回は小犬陛下が出突っ張り。よっぽど嬉しかったんですねぇ(笑) こういう初々しい夕鈴、らしくて良いですよねー 最近夫婦とか遊郭モノをたくさん書いてたので逆に新鮮でした(笑) JUMP様、遅くなって申し訳ありませんでした!(土下座) ぎゅうって良いですよねーvv そんな抱擁フェチが暴走して、こんなんになりましたけど良かったですか?(^_^;)


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