父の背中 -小ネタ集-




※ 元刺客現護衛の彼と凛翔との主従関係に萌えに萌えてできたネタ集です。





1.ご挨拶


 ある日、狼陛下に降りてくるように命じられた。

「凛翔、これはお前の護衛だ。」
 王からの簡素な説明付きで新しい主の前にその身を晒す。
 彼の目の前に片膝をつき、頭を下げて礼とした。

「ッ」
「陛下っ その男は…!」
 我が主が息を飲む気配と同時、傍にいた母親―――もとい、后が驚いた声を上げる。
 目の前にいるのが誰か気づいたらしい。

「この男は私にではなく凛翔に忠誠を誓う。お前の好きに使えば良い。」
 まるで2人の反応に気づかないように続ける王に、后は「陛下」と非難めいた声で名を呼
 ぶ。

 まあ、命を狙った男がいきなり護衛になるというのだから、その反応は当然だろう。
 どんな罵倒も受け入れる覚悟だ。それでも仕える気持ちは変わらない。


「こんな男を側に置くわけにはいきませんっ」
 少年特有の高い声で、けれど凛々しい声で。
 思いっきり拒絶されてしまって少しだけ寂しくなる。

「ほぉ。何故だ?」
 尋ねる王は楽しげだ。
「だって、この男は母上を邪な目で見てました!」

 …あ、そっちなんだ。

 予想外だった答えにちょっと脱力する。
 その代わり、といっては何だろうが… 狼陛下の雰囲気が一変した。
「ほぉ… その件については詳しく聞かせてもらおうか。」

 うわ、これマジ殺られるわ…

 息ができないほどの殺気を向けられて、顔が上げられない。
 だが、このままではせっかく繋がった首が今すぐ離れかねない。


「誤解です!」
 意を決して顔を上げると狼と目が合った。
 今にもかみ殺されそうな紅い色に全身が総毛立つ。

「何が誤解なんだ?」
 一応弁解は聞いてくれる気らしい。
 …言葉を間違ったらその場で首が飛びそうだが。

「いえ、確かに気が強い女は好みですがッ あれはただの挑発ですから!!」
 誤解を必死で解こうととにかく言い募る。
 敬語がおかしい気がするが、そこは仕方なかった。敬語なんて普段使わないのだ。

「その言葉に偽りはないな?」
「有りません! 誰が狼陛下相手にそんなことできますか!」
 狼陛下を敵に回して横恋慕など恐ろしいことを誰がするかと思う。

「―――ならば良い。」
 王はようやく殺気を収めてくれた。
 ほっと肩の力を抜くと、変な汗が額と頬を伝う。
 予想以上に緊張していたらしかった。
 …それなりの死線を潜ってきたつもりだったのだが、まだまだ自分は甘かったようだ。


「―――だそうだ。凛翔はどうする?」
「父上が許すなら良いです。」
 公子は意外にもあっさりと引いた。
「私専用の護衛か。…まあ、また狙われるかもしれないし、お前は強いから良いかもな。」
 さらにすでに順応している。
 さすがにそれは予想外で拍子抜けしてしまった。

「…他には何も?」
「他に何かあったか?」
 本気できょとんとされて いやいやと思う。
 あるでしょう、もっと。
「命を狙ったこととか。」
「あれはお前の意志ではないのだろう? ならば構わない。」
 けろっとした顔で答えられてしまった。
 これまた予想外だ。
「うーん。やっぱ俺の見る目は確かだわ。」


 この方になら仕えても良い。
 きっと、俺の期待を裏切らない。



「…お前、名前は?」
「さて、何でしたか。もう忘れたので好きに呼んでください。」
 問いにおどけて言って肩を竦める。

 今まで使っていたのは育てた男が不便だと言って適当に付けた名前だ。
 捨てたところで何の未練もない。

 それに自分は一度は死んだ身、もうあの名を名乗る気はなかった。


「じゃあ黒。」
「…俺は犬か猫ですか。」
 ただの思いつきにしか感じないそれに思わずツッコミを入れる。
「まあ、貴方がくださる名なら何でも良いですけどね。」
 犬猫と同じ扱いでも心から仕えたいと思えた主がくれた名だ。
 今までのよりは愛着が持てるだろう。


「冗談だ。」
 公子がくすりと笑う。

「―――闇朱、これからはそう呼ぶ。」

 "闇朱"、それが俺の新しい名か。
 ああ、きっと、この名は何があっても捨てないだろう。


「御意に。我が主。」


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夕鈴、一言しか出番がない…(^_^;)
そして陛下にばれました。生きてて良かったね、闇朱!(笑)




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2.5年後

「…こういう時は助けを呼ぶもんですよ。」
 主の行動に呆れた溜め息が出る。
 意地を張る主を見かねて、闇朱は命令に背いて手を出した。


 2人の足下には死屍累々と男達が転がっている。
 すべて、太子を狙ってきた刺客だ。

 それを1人で片付けようとし、あまつさえ闇朱に「来るな」とまで言い放った。
 だからあえて、命令に反して彼の背を守るために降りてきた。

 2人だと敵はあっという間に片付いて、後は主の行動を軽く諫めるだけだ。


「自分だけで大丈夫だと思ったんだ。」
 背を向けたままで主は拗ねたような口調で言う。
 助けなど不要だったと。不満そうに。

 ―――けれど、闇朱には分かっていた。
 側に仕えてもう5年、主の性格も考えも知り尽くしている。

「嘘ばっかり。巻き込みたくなかっただけでしょう?」
 直球で図星をついてやる。
 それに主は意地で無言を通した。

「…全く、頑固な人ですね。俺は護衛なんですよ、貴方を守るのが仕事なんです。」
 護衛に守るなって、そんな命令を下すのはこの方ぐらいだ。
「煩い。」
 主は頑なだ。…何にそんなに意地を張っているのか。

「貴方に俺より先に死なれても困るんですよ。俺は貴方のためだけに生きてるんです。」
「お前の事情なんか知らない。」
 冷たく言い放ちながら、こちらを見ようとしないのは拒絶のためではないと分かる。
 全く、と 主の背中に苦笑いした。


 ―――護衛を守ろうとするなんて、馬鹿じゃないですか。


「…分かりました。だったら今度からは勝手に守ります。その時は貴方の命令は聞きませ
 んから。」
「なっ お前…!」
 主がやっとこっちを向いた。
 ニヤリと笑って聞かないと返す。軽い意趣返しだ。
「貴方を守るためだけに生きながらえた命です。失ってしまったら生きる意味はないんで
 す。いつになったらそれを分かってくれるんですかねぇ。」


 この方になら、自ら膝を折り仕えても良いと思った。
 その気持ちは変わらない。
 今の自分は、この方のためだけに生きている。それ以外に生きる理由はない。




「……勝手にしろ。」
 苛立ちを隠さないままに、主は再び背を向けた。
 闇朱も刺客達は捨て置いてその背中を追いかける。

「ええ、勝手にします。」


 ―――ただ1人の主。俺の命は貴方のもの。



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微シリアスのつもりですが、闇朱の言動が軽いのでそこまでない感じですね。
5年後ということは、凛翔は15歳ですか。




2012.5.11. UP



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そんなわけで、主従萌えの結果。小ネタ集といっても2つしかないですネ。
闇朱が凛翔好きすぎて、敬語を崩してくれません。なんて予想外(笑)

あーすっきりしましたー(笑)
 


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