※ 210000Hitリクエスト。キリ番ゲッターちょこちょこ様に捧げます。
      ※ ちなみに50000企画「明けない夜、覚めない夢」(=内緒の恋人)設定です。




 とある朝―――正しくは、夜明け前。
 少しだけ寝室も明るくなってきた頃のこと。

「……え、」
 ふと目を覚ましたら、目の前に自分が寝ていた。



「〜〜〜!!?」
 驚きのあまりに夕鈴はがばりと飛び起きる。

(ちょっと待って、どういうことなの!?)

 幽体離脱か。いやそんな馬鹿な。
 確かにいつもより目線が高い気がするけど…って、そうじゃなくて。

 一体自分の身に何が起こっているのか。
 頭は混乱の境地に達していた。


「……というか、」
 呟いて、じとりと見下ろす。
 私はこんなに慌てているのに、すやすやと目の前で寝ている自分というのは何か腹が立っ
 た。

「ちょっと、起きてよ "私"!」
 相手は自分なので、遠慮なく肩を揺さぶり叩き起こす。
 触れたから幽体離脱ではないらしい…というどうでも良いことまで考えつつ、しまいには
 襟を掴んでガクガク揺すった。


「煩いな…」
 不機嫌そうに眉を寄せ、もう1人の自分がその手を振り払う。

(…ん?)
 今何か思い出しかけた。
 けれどまだ完全に形にはならない。


「―――あ、」
 次の一声を放つ前に、"私"がぱちりと目を覚ました。
 目が合って、彼女は数度瞬く。

「…お前は誰だ?」
 そうして、怪訝な目でこちらを見上げてきた。
 男みたいな口調だとちらりと思ったけれど、今はそこは問題じゃない。
「私は私よ! 夕鈴!!」
「…夕、鈴?」
 もう一度、彼女(?)は瞬く。
 そして何か考えるように自分の手を見下ろした。

「―――この姿、何に見える?」
 次に顔を上げた時、もう1人の自分は何だか複雑そうな顔をしていて。
「? 私は私でしょう? 他の何に見えるの??」
 変なことを聞いてくるなと思いながら、首を傾げてそれに答える。
 そしてそれに返ってきたのは、何故か大きな溜め息だった。
「…鏡、見てみて。」
「へ?」

 よく分からないまま、とりあえず寝台から降りて鏡台の前に行く。
 その際ちょっと違和感を感じたのだけれど… その答えはすぐに分かった。


「なななな!? どーゆーこと!!?」


 ―――鏡に映っていたのは、自分ではなく陛下だった。












    朝、目が覚めたら。
「…そもそも、何故妃の部屋に陛下がいらっしゃるんですか?」 陛下に呼び出されて、李順は朝一番で夕鈴の部屋までやってきた。 そして、寝台に並んで腰掛ける2人の前で、頬をひきつらせながらまず持つであろう疑問 をぶつける。 …まさか、昨晩一緒に過ごしましたなんて言えるわけもなく、ちらりと彼(見た目は夕鈴) の方を伺い見た。 「―――昨夜は話の途中で2人でうたた寝をしてしまったんだ。で、ふと目が覚めたらこ うなってた。それが夜中だったから朝まで待とうという話になって。」 ね、と同意を求められて、慌てて夕鈴(見た目陛下)は首を縦に振る。 うん、どこまでも淀みないわ。 さすが陛下。 「この姿で執務をするわけにはいかんだろう。」 男口調の自分というのも不思議なものだと思いながら、2人と相対している李順さんはそ れ以上に複雑なんだろうなとも思う。 苦い顔で深い深い溜め息を付いてから、頭が痛いと彼はこめかみを押さえた。 「…仕方ありません。今日はお二人ともここで大人しくしていただきましょう。」 その言葉に陛下がほんの少しだけ嬉しそうなオーラを出してしまったのを、有能な側近殿 は見逃さなかった。 「―――お昼過ぎに、今日中に必要な書類だけ持って参ります。」 「えー」 「えーではありません。では、後ほど。」 反論を許さず約束を取り付けて、李順さんは寝室を出ていった。 …その際に、陛下が「あ、でも午前中は空きか…」と呟いたのは聞こえていないようだっ たけれど。 どうやら李順さんが手配してくれたらしく、しばらくして女官が2人分の簡単な食事と着 替えを持って来てくれた。 彼女達の話から察するに、李順さんの設定では「昨夜陛下の体調が悪くなってそのまま妃 の部屋に泊まった。弱った姿は見せたくないから呼ぶとき以外は近づくな。」ということ らしい。 その時、女官から受け取ったのはもちろん夕鈴の姿をした陛下だったわけだけれど、その 「ありがとう」の一言が、私よりもよっぽど女性らしくて気品があったというのは、悔し いから言わない。 …こんな時まで演技の上手さを発揮しなくて良いのに。本当に悔しいわ。 「―――狼陛下が体調不良だって。」 おかしいよねと、陛下がクスクスと笑う。 でも実際目の前で笑っているのは自分なわけで… 違和感が半端ない。 「看病してあげようか?」 「けっこうです!!」 からかい半分の提案は速攻で却下する。 その様子に、陛下は何だか複雑そうな顔をした。 「…僕の顔で赤面涙目ってすごい違和感あるなぁ。」 「悪かったですねっ」 確かに陛下は絶対そんな表情しない。 でも、私だって違和感ありまくりなのだからお互い様だ。 「とにかく、まずは朝ご飯を食べましょう。」 何だかんだやってるうちにいつもより遅い時間になっている。 体調不良などとは無縁そうな健康な体は正直に空腹を訴え、早く早くと主張していた。 「……さて、これ どうしましょうか。」 食事は特に問題にならなかった。人目を気にしなくて良い食事はむしろ気楽で良かったく らいだ。 ―――で、次に課題となったのが、着替え。 用意されたのは、王宮用ではなく後宮で過ごすための比較的ラフな服だ。 それほど堅苦しく複雑なものではないので、互いに誰かに手伝ってもらう必要はないとは 思う。 「ああ、着替えくらいなら自分で」 そう言って陛下(姿は以下略)がおもむろに脱ごうとしたのを見て、夕鈴ははたと気が付い た。 大慌てで脱ぎかけたその手首を掴む。 「ダメです!」 「え?」 その時初めて、重大なことに気づいたのだった。 「………夕鈴、これじゃ何にも見えないよ。」 力を抜いて立ったまま、困ったように彼が言う。 今、陛下には細長い紐で目隠しをさせていた。 「それで良いんですっ」 少しばかり強めに縛っているから、本当に陛下は何も見えていないはず。 …むしろ、見えてもらっては困るのだ。 服を着替える。つまり、自分の体を彼に見られてしまう。 そんな恥ずかしいことできるわけもなく、目隠しをさせてから夕鈴が着替えさせていた。 「……今更じゃないかな。」 そういう関係があるし もう全部見てるのにと、それが彼の言い分。 「そういう問題じゃないです!」 それに夕鈴は噛みつく勢いで返す。 …まあ、見えてないからあんまり伝わってないかもしれないけれど。 「ちょっと動かないでくだ―――…!?」 目の前に立っている自分(というとすごく不思議な感覚だけど)の夜着を脱がせてまず絶句 した。 (なななな……!!?) 白い肌には点々と、昨夜の情事の痕が残っている。 見える位置には付けないことが約束だけど、その分とでもいう風に見えない位置にはこれ でもかというほどに花が散っていた。 普段自分じゃ全部を見ることはかなわないから気づかなかったけれど… (ちょ、やり過ぎじゃない!?) しかも朝から見るものでもない。 こんなの絶対他の誰にも見せられない。というか、見せたくない。 侍女や女官に頼まなくて本当に良かったと思った。 「どうかした?」 止まってしまった夕鈴に、陛下が不思議そうに声をかける。 「い、いえ…!」 慌てて応えると、急いで新しい内着に袖を通させ、前を隠して見えなくした。 「ちょ、夕鈴っ 腰絞めすぎ…!」 「何言ってんですか、これが普通ですよ。」 そう言って、さらにぎゅっと力を込める。 いくら部屋着といっても、女性の衣装はこれくらい絞めないと着崩れしてしまうのだ。 「ゆうりーん…」 苦しいと訴える陛下の言葉は聞かない。 男の人も女性の苦労ってものを分かれば良い。 「私の努力、少しは分かってくれました?」 「…うん。女の人って大変だね。」 これは部屋用だからまだマシな方だ。王宮に出向く日などは布の量がこれ以上に増える。 ずるずると引きずる衣装は見た目の華やかさでは分からないくらいに重いし動きにくいこ とこの上ない。 陛下はたまに呻きながらも文句は言わなくなったので、ちゃっちゃと着替えを進めていっ た。 「―――はい、終わりました。」 自分もぱぱっと着替え終えて、最後に目隠ししていた布を解く。 眩しかったのか、陛下は何度も目を瞬かせてから夕鈴の方を見上げた。 「? 夕鈴??」 じっと自分の姿を見下ろす。 陛下が首を傾げて尋ねてくるのに、おもむろにポンと頭に手を置いてみた。 「…いえ、陛下の目線って高いんだなと思って。」 陛下と自分の背丈は頭一つ分違う。 夕鈴が下を向いたら頭しか見えないんだなとこの時知った。 (だから陛下は抱き上げるのかしら?) そっちの方が目を合わせやすいから。 …そうされたら、夕鈴は話すどころではないのだけど。 「そうだね。夕鈴から見たら僕って結構大きいんだ。」 軽く背伸びをしてみる。それでも全然追いつかない。 「ああ、だからこうするんだ。」 「へ…!?」 首に腕が回される。 ぐっと引かれてバランスを崩しかけたところで、唇に柔らかい感触が触れた。 「…自分にキスって変な感じだ。」 少しだけ離れた位置で自分の顔が苦笑っている。 ああ、でもこの表情は陛下だなって思った。 「じゃあしないでください……ッ」 「うん、そのカオは夕鈴だ。」 陛下も同じことを思ったらしくて嬉しそうに笑う。 すると不思議ともう陛下にしか見えなくなって。 互いに見つめ合って笑顔を交わした後で、もう一度キスをした。 「どうやったら戻るのかしら…」 違和感は何となくなくなってきたけれど、根本的な問題が解決したわけではない。 ふってわいた半休を素直に喜べる状況でもなく、何もしない時間は遅々として進まない。 ―――要は、退屈なのだ。 陛下なんかは退屈が過ぎて、さっき夕鈴の姿のままで用事がてら李順さんのところへ行っ てきた。 予想よりだいぶ早く戻ってきたのは、李順さんからお小言を食らったかららしいけれど。 「原因がさっぱり分からないわ。」 これといって特に特別なことをした覚えはない。 陛下も思い当たる節はないようだった。 「昨日寝る前にやったことといったら… あれしかないしねぇ。」 「ッッ」 陛下の呟きでさっきの痕を思い出して赤くなる。 だって、陛下の言う"あれ"が指すものは一つしかないから。…今2人が座っているこの場 での"あの事"だけだから。 「―――夕鈴はいつまで経っても初々しいよねぇ。」 にこにこと小犬な笑顔で私(in陛下)が笑う。 「わ、悪いですか!?」 「うん、可愛い。」 よっと陛下が伸び上がって、またキスをされてしまった。 誰も見ていないからか、今日の陛下はやたらと触れてきてる気がする。 「……届きにくいな。」 そうして、ふと不満げに呟いたかと思うと、 「!!?」 まだるっこしいと寝台に押し倒された。 さらに裾をからげた彼から、腹の上に馬乗りになられてしまう。 「なな なにを…!?」 「うん、この反応 夕鈴らしいよね。」 何事だと狼狽える夕鈴の上で"私"がにっこり笑った。 ……"私"の顔なのに無駄に色気があって怖い。 「ん…ッ」 抵抗する間なんてなかった。 肩を押されてぐっと体重をかけられる。抗議の声は口の中に吸い込まれた。 「んん…ぅ んっ」 すぐに舌が入り込んできて、熱に浮かされ翻弄される。 たとえ入れ替わっても陛下は陛下のままで、夕鈴は彼のされるがままだ。 頭の奥まで痺れたように、何も考えられなくなる。 ゼロ距離からさらに近づくかのように、キスは深くなっていく。 どちらがどちらか分からなくなるような―――まるで心まで混じり合うような。 とっても不思議な感覚に襲われた。 (……そういえば、昨晩も同じようなことを思ったような気が―――) 「……?」 乗っかられていたはずなのに急に体が軽くなる。 次の瞬間、腰をぐっと引かれた。 「んんっ」 キスはまだ継続中で息は苦しい。 さっきまでと違う感じはするけれど、そこまで頭が回らない。 意識が再び遠くなりかけた頃、最後にぺろりと唇を舐めてから彼は離れた。 抑え込まれていた後ろ頭も解放されてようやく体が自由になる。 「あ、あれ??」 そこでようやく違和感の正体に気がついた。 いつの間にか自分が陛下に乗っかっていて、"陛下"が夕鈴を見上げていたのだ。 「戻っちゃったみたい。」 入れ替わったのも突然なら、戻るのもまた突然。 陛下の上―――腕の中に収まって、包み込むようにぎゅっと抱きしめられる。 「ふふ、夕鈴の感触だ。」 柔らかくて気持ち良いと言われてしまって、恥ずかしさに赤面してしまう。 でも、夕鈴も揺らがない逞しい腕の中が気持ち良かったから、そうっと力を抜いて彼の胸 の上に寄り添った。 「…結局何だったのかしら?」 何が起こったのかさっぱりだ。 一つ考えられるのはあの不思議な感覚だけれど、曖昧すぎて説明はできない。 結局 謎は、謎のまま。 「戻ったから良いよ。―――それより、」 また陛下との距離が近くなる。 ―――李順さんの来訪まではもう少し時間がある。 だからそれまではと、2人きりの甘い時間を再会させた。 2012.5.18. UP
--------------------------------------------------------------------- お題:ずばりドタバタギャグ「陛下と夕鈴の入れ替え☆」 リクの通りにドタバタギャグです☆ つか、いちゃいちゃ? 白い花に引きずられて最近不安定陛下だったので、今回はいちゃ甘に軌道修正。 隠しリクは「陛下(中身夕鈴)が夕鈴(中身陛下)のお着替え」でした。 目隠しと聞いて天禁を思い出してしまいました〜 あそこの九雷と刹那の会話がvv って、分かる人はどれくらいいるのかな…( ̄_ ̄;) ……目隠しプレイも楽しそうだなぁ。(マテ) いえ、冗談です。 キスシーンは、見た目は夕鈴が陛下に迫ってる感じですね(笑) そういう夕鈴も見てみたいな〜 恥ずかしがり屋だから駄目かな(^_^;) 入れ替わった理由とかは曖昧ですね。魂が混じりあう感じっての? まあ、そんな感じです。 最後の親ガメの上に子ガメな2人は妄想してて萌え。あ、あれは背中の上か。 夕鈴は陛下の腹の上に乗ってます☆ ちょこちょこ様、お待たせ致しましたッ(>_<) これって最初の時のリクの1つですよねー やっと実現です(笑) 目隠しプレイ(違)は色気があるんだかないんだかですが… あれで良かったでしょうかー? いつものあれはいつでもいつまでも有効ですのでお気軽にどうぞ〜☆


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