女の子の内緒話
      ※ 380000Hitリクエスト。キリ番ゲッターゆうMAMA様に捧げます。
      ※ 今回は下町編A(7巻)時間軸です。




 その日も夕鈴は帰りに明玉の店に寄った。


「明玉ー お茶飲ませてー」

「あはは、おつかれー」
 疲れきった夕鈴を笑って出迎えた明玉と一緒に、その近くに座っていた5、6人の一団の
 目もこちらに向く。
 全員見知った顔―――つまり下町の女友達の集団だった。

「おっ 夕鈴じゃん。ひさしぶりー!」
「帰ってきてたんだー」

 来たのが夕鈴だと分かるとみんな口々に声をかける。
 その中の1人がこっちに来いと手招きするので、夕鈴もその輪に加わって空いた席の一つ
 に座った。






「あー 落ち着くー…」
 温かいお茶をもらってようやく一息つく。
 朝から全く気が休まる時間がなくて、今やっと肩の力が抜けた。

 ほんと、おばばさまは容赦がない。
 こんな時は丈夫な体に育った自分を褒めてやりたいほどだ。


「ねーねー」
 1人で和んでいると1人が夕鈴の肩をつついてくる。
 ん?と思って振り返れば、何やらすごく興味津々な様子で顔を覗きこまれた。
 何だか嫌な予感がする。でももう逃げられない。
「今日は彼氏連れてきてないの?」
「っ!?」
 思い切り、口に含みかけていたお茶を吹き出した。
 そのままゲホゲホと咳込むが、薄情な友人達は誰も慰めてくれない。

「あーダメダメ。ここには絶対連れてきてくんないのよ。」
 横に立っていた明玉が手をパタパタと振る。
 途端に周囲からはえーと不満そうな声があがった。

「だっ 誰が! 彼氏なんていないわよ!!」
「えー? すっごい美形と一緒だったって聞いたわよ。」
 誰のことを言っているのか…って、他にいないけれども。
 …まだ誤解されたままらしい。というか、この無責任な噂は一体どこまで広まっているの
 か。

「だから! あの人は上司!! 彼氏じゃないッッ」
 顔を真っ赤にしつつ全力で否定する。

 すぐに恋愛事に引っ張って人を噂のネタにするんだから。
 気安い分、下町の遠慮の無さはこういう時困るのだ。

「どーしてただの上司が部下の休暇にくっついてくるのよ。」
 全員からジト目で見られる。はっきり言って信じてませんって顔だ。…心外だ。
「し、下町が珍しかったのよ!!」
「苦しいな。」
「うぐっ」
 やっぱり突っ込まれた。
 完全なる誤解なのだけど、真実を言えるわけもなく押し黙る。
 一体どうやったらこの誤解は解けるのか。


「ねねっ、その人そんなにカッコイイの?」
 最初に聞いた友達が、さらに身を乗り出して聞いてくる。
 それに多少身を引きつつ、思い浮かぶのはあの人の顔。
「き… きれいな人だとは思う……」

 あの端整な顔立ちに至近距離で見つめられると心臓が飛び跳ねる。
 さらにあの甘い演技が加わるともう死にそうになってしまう。

「……ッ」
 ついでに数々の恥ずかしいセリフを思い出して1人で悶える。
 周りが不審そうに見ているのは分かっていたけれど、自分でもどうしようもなかった。

(陛下の馬鹿ぁ! うわーんっ 頭から離れてくれないー!!)


「じゃあどんな人?」
「ぅわっ へ??」
 1人、その子だけは相変わらず全てを意に介さずに突っ込んでくる。
 彼女は元からそういう話が好きなタイプだけれど、今までは自分がその対象にされたこと
 はなかったから戸惑った。
 でも、こうなったら彼女は絶対逃がしてくれないのも分かっていて。そして、それを上手
 く隠せるような自分じゃないのも知っていた。

「ど、どんな って…… えーと…小犬?」
「「「「は?」」」」
 思った通りに答えたら、全員から変な顔をされる。
 でも他に言いようがなかった。



『ゆーりん!』
 嬉しい時は尻尾をパタパタ振って、悲しい時はシュンと耳を垂れさせる…幻が見える。
 本人の前では言ったことがないけれど、夕鈴の中でのあの人は"小犬"だ。

『ダメ、かな…』
 あの顔をされると胸がきゅんとなって、どんなことでも「良いです」と言いたくなる。

 …前回もそうだった、そういえば。
 せっかくの休暇が疲れるだけのものになってしまったあれを思い出す。


 ―――何だか今更だけど腹が立ってきた。



「だって、あの人ずるいのよ!」
 突然立ち上がって叫んだ夕鈴に、みんな驚いて目を丸くする。
 でも、感情が勢い付いて止まらない。

「絶対私があれに弱いの絶対知っててやってるのよ!! あんな捨てられた小犬のような顔
 されたら放っておけないじゃない!! ねえ!?」
「う、うん…?」
 同意を求められた友人は思わず頷くが、きっと本人はよく分かっていない。
 でもそれで良かった。とりあえず今は言いたいことを全部言いたい。

「かと思えば、よく分からないこと言ってからかうしっ 私、そーゆーの慣れてないんだか
 ら! あんなの心臓がいくつあっても足りないわよ!!」
 今まで溜まったものをその場に全部吐き出す。
 終いには肩でゼーゼーと息をしていた。


「わ、分かったから 落ち着け…」
 反対隣の友人に肩を押されて座らせられる。
 でも今のでちょっとはスッキリしたから、大人しくそれに従った。




「まぁ、でもこれじゃあ几鍔さんも気が気じゃないわねぇ。」
 そう言ったのはまた別の友人。
「だから最近機嫌が悪いのね。」
 すると恋人が几鍔の子分の1人という友人が納得と頷く。
「羨ましいな。どっちか寄越せー」
 夕鈴を座らせた隣の彼女が笑って言った。

「? どうしてそこであいつの名前が出てくるのよ??」
 その中で 1人納得がいかないのが夕鈴だ。
 今は李翔さんの話じゃなかったか。

「…ちょっと、自覚なしって有り得なくない?」
 すると夕鈴の目の前でひそひそ話が始まる。
 もちろん全部聞こえているけれど。
「鈍いから仕方ないわ。」
 うーんと唸った後で、全員がじとっと夕鈴の方を見た。

「な、何なのよ!?」
 その異様な様子にさすがの夕鈴も怯む。
 意味が分からないのはこっちの方なのに、どうしてこんな責められた気分にさせられるの
 か。



「…どっちも苦労するわねぇ。」
 明玉の呆れたような呟きに、夕鈴以外の全員が頷きながら深く溜息をつく。


 結局、意味が分からないのは夕鈴だけだった。






















「……で、何でついてくるの?」
 夕食の買い物の時間だから友人達と別れて店を出たはずなのに、何故か2人ほど付いてき
 た。

「ん? 例のイケメンに会えるかと思って。」
 またそれかと夕鈴は呆れる。
「別に会う予定ないし…」
「「えーっ?」」
 今回は一緒の休暇ではない。向こうが勝手に現れるだけだ。
 だから、そんな不満そうな顔をされても困るんだけど。

「仕方ないわね。じゃあさっきの話、もう少し詳しく聞かせてもらうわよ。」
 キランと彼女達の瞳が輝いたのが見えた。
「!!」
「おっと、誰が逃がすか。」
 夕鈴の反応よりも早く動いた友人に襟首を捕まれる。
 じたばたしても、夕鈴より背が高い彼女は力も強いので力では敵わない。

「はーなーしーてーー!」




「ゆーりん 何してるの??」
 声は真正面から聞こえた。げ、と内心で呟く。
 そしておそるおそる顔を上げると、想像通りにメガネと外套の青年が立っていた。
「ッ 李翔さん!」
 最悪なタイミングだと思った。

(よりによってどうして今なのよ!?)

「おお、これが例のイケメンさんか。確かにきれいな顔立ちだわ。」
 メガネだろうと外套だろうと、どんなに隠しても隠しきれない。
 しみじみと言った友人の言葉に、言われた方の彼はきょとんとして首を傾げた。
「何の話かな?」
「いえ、今貴方の話を聞いてたんです。もうノロケでしかないって感じの」
「ッ誰がいつノロケたのよ!?」
 勝手なことを言う友人に対してそこはきっちり訂正する。
 そうしないとまた変な風に解釈されて、そして誤解が深まっていくのだ。
 そんなの冗談じゃない。


「…うーん、それちょっと傷つくかも。」
「ほら、アンタが素直にならないからショック受けてるじゃない。」
 彼が困った顔になって、友人達からは責められる。

(…ちょっと、だからどうして私がそんな扱いを受けなきゃならないの!?)
 ものすごく理不尽だ。

「李翔さんも変なこと言わないでください! 誤解されますから!!」
「えー」

 だから、どうしてそこで残念そうな顔をされなきゃならないの。
 今は"赤の他人"なんでしょう? そう言ったのは陛下なのに。



「ま、いいか。夕鈴、お夕飯の買い物の時間だよね。手伝おうと思って来たんだ。」
 あっさり切り替えた彼はさも当たり前のようにそんなことを言う。
 友人達が夕鈴の方を見てニヤニヤしているのが見えた。

(ちくしょう 絶対誤解してる!)


「ッ 1人で行きます!!」
 勢い付けて友人の手を振り払うと、今度はあっさり離される。
 大股で彼の隣を通り抜けて置いてけぼりにした。


「あっ 待って夕鈴!」
 慌てた声が後ろから追いかけてくるけれど無視をする。


 …振り返ったら、友人達の表情が目に入ってしまうから。
 だから、絶対振り向かなかった。










「ねー ゆーりん」
 どんなに早足で歩いても歩幅のせいですぐに追いつかれてしまう。
 隣に並んだ彼もまた、興味津々で夕鈴の顔を覗き込んできた。

「どんな話をしてたの?」
 メガネの奥の紅い瞳は興味深そうにキラキラしている。

 ……あれを言えと?
 さっき明玉の店でぶちまけたあれを?

 ―――できるわけがない。


「ぜっったいに言いません!」
 誰が言うものかと思う。

「えーっ!?」

 そんな不満そうに言われても絶対嫌だ。




 貴方の話を貴方に話すなんて冗談じゃないわ。



 だから絶対に言わない。

 ―――あれは、女の子だけの内緒話。






2012.6.18. UP



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お題: 夕鈴が友達とガールズトーク(惚気話)

すみません、時期をぼかそうと思ったけどぼかせませんでした(汗)
というわけでコミックス派の方はすみませんな感じで今回は本誌時間軸の話です。
前回下町編と今回下町編じゃ、夕鈴の自覚の有無があるので曖昧にできないことに気づきました…orz

陛下が聞いちゃうと20万企画のと被るなぁと思ったので、今回は内緒にしちゃいました。
今回の仮タイトルは「がぁるずとーく」です。まんまだネ!

明玉と陛下は面識ないっぽいので外して、別の女の子達に李翔さんと会ってもらってます。
1人男口調な子がいますが、普通に女の子です。
最初に質問したのが女の子!って感じの可愛らしい子、付いてきたのが姉御肌のと男勝りの子。
そんなイメージです。
夕鈴って友達も多そうだなぁと。一番仲良しなのが明玉って感じ。
そして基本的に下町の人達にはもれなく誤解されてそうな夕鈴と几鍔(笑)
そういう関係も楽しいですよね。本人達の意志は置いてけぼりww

で、オチはいつも通りです。


ゆうMAMA様、遅くなってしまって申し訳ありませんでしたー(>_<)
ぼかすと言いつつぼかせませんでした…orz
えーと、こんな感じでよろしかったでしょうか??
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