※ 290000Hitリクエスト。キリ番ゲッター風花様に捧げます。
      ※ ちなみに50000企画「明けない夜、覚めない夢」(=内緒の恋人)設定です。




「夕鈴って、何か僕にお願い事とかないの?」
「何をお願いするんですか?」
 黎翔からの唐突な問いかけに、隣に座る夕鈴がきょとんとして見上げてくる。
 そうして、どうしてそんなことを聞かれたか分からないと ことりと首を傾げた。

(…いや、それすっごく可愛いんだけど、思わず抱きしめたいくらいなんだけど、、)

 しかし、そうしてしまったら聞きたいことが聞けないからどうにか我慢する。
 少し考えるふりをして、思わず出てきそうになった狼も抑え込んだ。
「えっと、何か困ることとか不自由してることとかない?」
「? 特に何も。皆さん申し訳ないくらい良くしてくださいますし、臨時妃なのにほんとす
 みませんって感じで。」
 隠し事をしてる風でもなく、彼女はそう言って首を振る。
「陛下は、何か困ることがあるんですか?」
 さらには逆に聞き返されてしまった。

(僕が、困ること?)
 何だろうと思って、自分を見つめてくる可愛らしい恋人を見下ろす。
 …今 ちょうど一つだけ思いついた。


「―――夕鈴が甘えてくれなくて困る。」
「はい?」
 正直に不満を漏らせば、彼女からは怪訝な顔をされる。
 彼女にとってはきっとそのくらいのこと、だけど黎翔にとっては大いなる問題だった。
「君の願いは何でも叶えてあげたいのに、君が何も言ってくれないから何もできない。」


 ワガママ放題の女には辟易するが、彼女は欲が無さすぎる。
 贈り物もあまり高価だと怒られるし、頼れと言って頼るような娘でもないし。

 それら全部含めて夕鈴で愛しい部分でもあるけれど、恋人としてみれば―――正直物足り
 ない。
 思いっきり甘やかしたいのに、残念ながら彼女がそれを許してくれないから。
 傾国の力すら持っているはずなのに、本人に全くその気がないのだ。


「でも、本当に不満なんて何もないんですよ。」
 どこまでも無欲な恋人は黎翔に何も求めない。
 隠してるなら暴くのに、彼女が心からそう言っているのが分かるからどうしようもなかっ
 た。


「…私はただ、陛下のそばにいられるだけで嬉しいんです。」
 そっと黎翔の手に自分の小さな手を重ねて彼女ははにかむ。
 まるで花が咲くように、ふんわりと。
「それだけで十分なんです。だからそれ以上なんて要りません。」


(なんて可愛いことを言ってくれるんだろう…)

 そんな可愛い顔で、そんな可愛いことを。
 それがどんな破壊力を持っているか、君は知っているのか。


(―――ダメだ、もう抑えきれない…)


「きゃっ!?」
 今度こそ腕の中に引き寄せて、ぎゅうぎゅうと抱きしめる。
 腕の中にすっぽり収まる小さな身体。柔らかくて甘い良い香りがする。

「陛下 苦しいですっ」
 元気な兎がじたばた暴れ出すが、もちろんその程度で離すわけがない。
 逆にもっと深く抱き込んでやった。
「君が可愛すぎるのが悪い。」
「〜〜っっ」
 それに何やら反論しているようだったが、胸に押しつけているせいで聞こえない。
 というか、反論は認めない。


 全ては君が可愛いせいだ。
 甘やかしたいと思うのも君にだけ、君が初めてだ。

 可愛い君のためになら、僕は何だってするよ。


「―――夕鈴、何かあったらすぐに言ってね。待ってるから。」
 諦めの悪いことだと思いながら、最後もう一度念を押した。













    甘えるためのお願い事
「お願い事、かぁ…」 無意識に呟いたのも気づかずに、夕鈴は雑巾をざぶざぶ洗って強く絞る。 どんなに考え事をしていても身体に染み着いた感覚とは不思議なもので、勝手に手だけが 動く。 「…ほんとに何にもないのよね。」 昨夜の言葉を思い出して考えてみるけれどやっぱり何も浮かばない。 今日は朝からずっと折を見て考えてみたりしている。でも何を見ても何度考えても出てこ なかった。 だって、あの人が好きだと言ってくれてそばにいてくれる。 それ以上何を望めというのだろう。 『夕鈴が甘えてくれなくて困る。』 ちょっと不満そうに小犬な陛下が言った。 あの人を困らせているのが自分なのだと知ってどうにかしようと思ったのだけど。 「そんなこと言われても私の方が困るわ…」 ワガママと甘えることとお願い事は何が同じで何が違うのか。 それすらもよく分かっていない。 何を言えばあの人は満足するのかしら。 「だいたい甘え方なんて知らないし…」 そんなの必要なかったし、そんな相手もいなかった。 だからどうすれば良いのか分からない。 演技でもないから練習するわけにもいかないし。 (甘え方が分からなくて困ります? 何それ。) 自分でつっこんで即却下する。 「甘えるためのお願いなんて、何言えば良いのよ…」 「そんなの簡単だよ。」 突然背後の窓から何かがにょきっと飛び出してきた。 「!!? あ、浩大。ビックリさせないでよ。」 思わず雑巾を投げつけるところだったと、振りかぶりかけていた雑巾を下ろして肩の力を 抜く。 まあ、浩大なら簡単に避けてくれそうだけど。 「全然簡単じゃないわよ。」 だったらこんなに悩まない。 難しい顔をする夕鈴とは対照的に、浩大は相変わらずにやにやと笑っていた。 その顔で何を言うのか… 嫌な予感がする。 「寂しいからそばにいて とか、言ってやれば良いんだよ。」 「そ、そんなの恥ずかしくて言えないわよっ!」 やっぱりか!と真っ赤になってしまった顔で叫んだ。 「えー なんで?」 そこできょとんとした顔をするのはどうしてよ。 私がそんなの言えるわけないじゃない。 「陛下は寂しいんだよ。お妃ちゃんに構いたいけど構えなくて。男の甲斐性ってのも見せ たいだろうしさー」 あの人が言えない分まで浩大はあの人心を伝えてくれる。 好意に鈍い自分にそれは有り難いことなんだけど、時々グッサリ胸に刺さるのだ。 …陛下を寂しがらせてしまった。 寂しがらせないってあの時私は言ったのに。 「ま、陛下を喜ばせるためと思ってさ。」 言いたいことだけ言い終わって、浩大はくるりと背を向ける。 そうして後は頑張れと、ひらひらと手を振った。 「浩大」 ―――その彼の首根っこをひっ掴んで留める。 身軽な隠密相手に我ながら素晴らしい運動神経だ。 「だったら教えて!!」 「へ!?」 その時の浩大の表情は見物だったと、後に思い出して夕鈴はそう思った。 昨夜と同じ、すぐ隣に陛下が座っている。 夕鈴は本当にそれだけで幸せなのだ。 仕事が忙しいだろうに、それでも会いに来てくれる。 それだけで十分なのだけど。 でも陛下はそれだけじゃ足りないらしい。 で、浩大曰く、適度な甘えやおねだりは男心をくすぐる…らしい。 (浩大にちゃんと教えてもらったし… よし!) ちらっと陛下を盗み見る。 夕鈴の手作りお菓子を手にとってにこにこと眺めている彼はまだ気づいていない。 「……」 意を決してその彼の腕にそろりと手を伸ばした。 「…夕鈴?」 焼き菓子を一口で飲み込んだ彼が不思議そうに見下ろしてくる。 見られている恥ずかしさに目を瞑って、絡めた腕に力を込めてさらに彼へと身を寄せた。 「―――珍しいな。」 ふと笑んだ彼の手が夕鈴の背中に回って抱き込まれる。 心臓が跳ねて逃げそうになるのを必死で堪え、ゆっくりと視線をあげた。 「…お嫌ですか?」 「いや、嬉しいよ。」 狼とも小犬ともつかぬ表情で彼は笑みを深めて夕鈴を膝の上へと導く。 2人の視線が同じ高さになって、目の前の赤い瞳が柔らかな熱で夕鈴を包み込んだ。 「もっと甘えて。」 自然と目を閉じ、同時にキスが降りてくる。瞼に頬に額に、そして最後は唇に。 優しい甘い溶けそうなキスを繰り返す。 (やっぱり寂しかったんだ…) 浩大の言う通りだ。 だったら、あとひとつ――― キスを受けながらぐっと彼の方へ体重をかける。 そのまま2人の身体は長椅子へと倒れ込んで、夕鈴は彼の上に覆い被さる形になった。 その間もキスは止まない。 腰と後頭部に回された腕に拘束されて身動きがとれないが、今日の夕鈴は逃げなかった。 「―――今日の夕鈴は積極的だな。」 ようやく唇を解放されて少しだけ身を起こすと上機嫌な狼がそう言って笑う。 そして離しても夕鈴がそこから動かないのを知ると今度は肩を抱いて再び自分の上に落と した。 いつもなら、ここで「何するんですか!」と暴れるところ。 「……」 でも今夜は違う。 ちょっとだけ躊躇いながら、猫が甘えるように胸元に頬をすり寄せた。 自分が乗っても全く揺るがない大きな身体。耳を澄ますととくんとくんと心臓の音が聞こ える。 こんな風に抱きしめられるのは好き。…そんなこと、恥ずかしくて言えないけれど。 「……夕鈴 ほんとにどうしたの? 何かあった?」 あまりにいつもと反応が違うからか、さすがに心配したらしい陛下に言われてしまった。 (どうせ似合わないことやってますよ!) とっさに叫んでしまうところだったのをどうにか飲み込む。 ここで怒鳴ったら台無しだ。せっかく浩大に教えてもらったのに。 「さ、寂しいんです…っ」 夕鈴の下で彼が息を飲んだのが分かった。 でも、ここはちゃんと言わないと。そう思って顔を上げて目を合わせる。 「甘えて良いって、陛下おっしゃいましたよね。だから――― っ」 今度は一度だけだった。 塞がれた唇はすぐに離されて、鼻先がつくほどに近い所に満面の笑顔の彼がいて。 「可愛い、夕鈴。」 抱き寄せられたと思ったら、焼けるほどに熱い耳にちゅっとキスされた。 (ああもう恥ずかしい! 絶対顔中真っ赤だわ!!) 「―――では、寂しがらせてしまった分 今夜は存分に甘やかしてやらなくてはな。」 夕鈴を抱えたままで器用に起き上がり、子ども相手かのように片手で抱え直す。 てゆーか、どこに行く気ですか 陛下。 「…えっと、それってどういう……」 嫌な予感におそるおそる尋ねてみると、そこには熱をたたえた狼が。 「ついでに私の欲も満たしてもらおうか。」 にんまりと笑うその獣は確かに見惚れるほどに艶めいて美しいけれども。 「ッ明らかにそっちが優先になりそうな気がするんですけど!?」 夕鈴にその気はなかった。断じて。 "寂しい"って、そういう意味じゃないし! 「心外だな。私は君を甘やかしたいだけだ。」 歩みを止める気はなく、彼は人の悪い笑みを浮かべている。 …見事に表情と言葉が合っていない。 「この狼陛下ー!」 「事実を言われても痛くも何ともないな。」 結局何を言っても無駄で、夕鈴は上機嫌な狼に寝室へ連れ去られてしまった。 浩大の言う通りに寂しかったらしい陛下。 確かに陛下はとっても嬉しそうにしていたけれど。 ―――私の"甘え"は成功したのかしら? 2012.7.5. UP
--------------------------------------------------------------------- お題:珍しく陛下に甘える(甘えようとする?)夕鈴のお話 ワンパタですみませ…ッ 夫婦は「たまには甘えて」で書いちゃったので、今回は恋人設定にしました。 ちなみにこれ、ネタに詰まったので総ボツにして新しく書き換えてます。 自分のネタを入れたら何だか暗くなっちゃってつまんなかったんですよぅ(汗) その反動かこっちは予想以上に甘々いちゃいちゃに(笑) ラストはワンパタですけども。続きは貴女の心の中で☆(アンジェネタかい) つーか甘えるのも陛下の為って… 夕鈴…… 風花様、たいっへんお待たせ致しましたッ(土下座) 夕鈴を頑張って甘えさせてみたんですが、ここまでしか行きませんでしたー(^_^;) こ、これで良いでしょうか…!? お怒り・意見・返品その他諸々、有効期限無しでお待ちしております。


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