※ 400000Hitリクエスト。キリ番ゲッター慎様に捧げます。素敵イラスト付き☆




 陛下は素晴らしい御方だ。

 即位間もなく各地の反乱を鎮め、腐敗した内政をも瞬く間に整えられた。
 狼陛下を恐れる者は多いが、陛下でなくば国を建て直すことは不可能だったであろう。
 歴代の王に劣らぬ…いや、歴代のどの王よりも優れた方だと私は思う。

 そして、私が尊敬して止まない陛下は、畏れ多くも私にも目をかけて下さり、私もそれに
 恥じぬよう努力をしてきた。
 私はこの生涯を陛下とこの国のために尽くし捧げるつもりだ。
 そして、憂いなき国になさるのをこの目で見届けるのだ。


 私は、陛下のなさることに何一つ不満を覚えたことはなかった。
 ……なかった、のだが。


 ―――陛下は、最近 1人の妃を後宮に召された。
 出自は不明、その他も不明。陛下がある日突然どこからか連れてこられた。
 後宮の奥にこもって何もしなければ良い。人目に触れず、大人しくしていれば良かった。
 …ところが、妃は近頃 頻繁に政務室に顔を出すようになった。
 陛下はご自分が妃と片時も離れたくないからだと仰るが、実際はあの妃が何か言ったのだ
 ろう。

 女というものはそういう生き物だ。
 やたら舌が回り 妙なところで小賢しい。
 自分の持ちうる全ての武器で、男を絡めとり翻弄する。

 そしてあの女は、よりによって陛下を誑かそうとしている。
 なんと大胆なことか。…許されることではない。


 ―――だから、私が陛下を、あの女狐からお救いするのだ。












    偶像の王
政務室でも休憩所でも、妃を巡る話は事欠かない。 少し周りに耳を傾ければ勝手に耳に入ってくる。 妃が政務室に侍ることに対して官吏の意見は2つに分かれていた。 快く思う者は気遣ってもらっただとか書庫で助けてもらっただとか、優しい方だと頻りに 言っている。 政務の邪魔をするでもなく政務室の端に大人しく控え、時折微笑まれる姿は温和な人柄を 表わしているとも。 …そんなもの、取り入るための作品に決まっているだろう。 所詮は出自不明の下賤の妃、女狐らしく計算高い。 陛下も何故あのような女を寵愛なさるのか。 休憩所は陛下の目もないせいか、官吏達の本音がよく見える。 「大した美人でもないくせに」 わざと周りに聞こえるように、1人の男が声高に言った。 周りはそれに賛同したような雰囲気を出す。 端の机を囲む連中は、妃をよく思っていないグループのようだ。 少し離れた場所で茶杯を手にしながら、彼らの言葉に意識を向けた。 「あれでどうやって取り入ったのか。」 「別の特技をお持ちなのだろう。」 嘲笑がどこそこから漏れる。 「オンナは怖いねー」 (陛下に仕える官吏ともあろうものが、品位の欠片もないな…) そう思いながら、口を出すことはしない。 あそこまで低脳さをさらけ出している奴らにわざわざ助言してやる気もなく、ましてや妃 を擁護するつもりもない。 不快そうに眉を顰める者もいるが、誰も彼らの会話に口を挟まない。 下手に擁護して己に火の粉がかかるのを恐れているのだろう。 そんな度胸のない輩にも冷めた視線を送りつつ、彼らに混ざって黙っていた。 「―――無駄口を叩いている暇があるなら仕事をしろ。」 調子づいて声がさらに大きくなった頃、突然入り口から厳しい声が飛んだ。 「柳方淵殿ッ」 ガタガタと彼らは慌てたように腰を浮かせる。 聞こえるように言っていたくせに、彼に聞かせるのは予想外だったとでもいうのか。 どこまでも愚かしい連中だ。 「文句があるなら本人に直接言え。陰でコソコソと、見苦しい。」 「っっ」 青ざめたまま 誰も反論できない。 誰も何も言わないのを呆れた様子で一瞥して、彼は再び部屋から出ていった。 「……誰もがお前みたいにできると思うなよッ」 すでに消えた背中に小さく毒づいても、それが相手に聞こえるはずもなく。 どこまでも小者な彼らに心底呆れた。 (―――直接か。確かにな。) その一方で、今の柳方淵殿の言葉を思い出す。 私はあの連中とは違う。それが陛下のためだと思うなら、実行に移そう。 (陛下をお救いするのは、私だ。) それが傲慢な思い上がりだと、彼が気づくことはなかった。 * 「お妃様、」 書庫に向かう途中の妃を呼び止める。 「? どうされました?」 立ち止まり、振り返って答える彼女に警戒の色はない。 「ご相談したいことがあるのですが。」 神妙な顔をしてみせると、相手に僅かばかりの緊張が生まれた。 「ここでは少し… 陛下に関することなのです。」 「……分かりました。」 声を潜めると、彼女もまた小声で頷く。 一緒に来てもらうよう促し、歩き出す私の少し後ろから彼女も付いてきた。 なんて単純な女だろう。 この程度で騙されるとは、狼陛下の妃が呆れる。 やはり、この女は陛下の相応しくない。 一刻も早く、この女を陛下から離さねば。 自分の行動が正しいと知り、男は口端を上げた。 「あの、」 すでに周りに人気はない。 さらに奥に進もうとする自分に、妃が戸惑いながら声をかけてきた。 …今更気づいても遅いというのに。 「……何故 陛下は貴女のような女を寵愛なさるのか。」 足を止めて振り返る。 同時に立ち止まった彼女は、何を言われたのか理解できないといった顔をしていた。 「どんな卑怯な手を使ったんだ?」 「…はい?」 「素性も知れぬ下賤の妃が。どうやってあの方に取り入った?」 自分にもこういう声が出せるのだなというくらい、それは平坦で冷たかった。 容姿に優れているわけでもなく、陛下を支える財力もない。 本当に、どこが良いのか分からない。 「他に特技があるのではと言う奴らもいたが… これで陛下を満足させられるのか?」 「ちょっ 今のはどういう意味よ!?」 聞き捨てならないと彼女は声を荒らげる。 意味は分からずとも悪意であることは理解できたらしい。 「さっきから聞いてれば、勝手なことばかり言ってんじゃないわよ!!」 普段のすました顔とは全く違う。 粗野で乱暴な言葉遣い。怒りに燃える鋭い瞳。 温和で優しい? これのどこが? 「―――本性を現したな、女狐め。」 「はあ?」 眉を寄せ、怪訝な顔をする女に正義をぶつける。 「陛下に貴女は相応しくない。」 本性を隠して陛下に取り入り、国を傾けようとする女。 何の役にも立たない妃が、陛下の隣に立とうなどと烏滸がましい。 「即刻ここから去れ。」 しん と、一瞬だけ、その場の時が止まった。 「それを決めるのは貴方ではなく陛下だわ。」 彼女から、燃え盛る炎のような激しい怒りは消えていた。 泣くのか怒鳴るのかと思っていたのに、返ってきたのは予想外に静かな声。 唯一の炎が残る瞳に正面から睨みつけられ、その強さに一瞬気圧される。 「陛下は私のこの性格もご存知よ。それでも側に置かれているのは陛下だし、それを他の 誰かに文句を言われる筋合いもないわ。」 こんな小娘に私が怯むなど有り得ない。 しかし、言いようのない焦燥感と共に背筋を冷たい汗が伝っていった。 「貴方がどんなに偉いか知らないけれど、独り善がりの正義感を陛下にまで押し付けない で。」 「ッ 黙れ!」 女如きが知った風な口を利くな! カッと頭に血がのぼった。その苛立ちのままに腰の剣を抜く。 「!?」 さすがに顔色を変えて一歩下がる女にその先を突きつけた。 「女とは本当にどうしようもない生き物だ。」 「…口で勝てないからって次は暴力?」 彼女が下がった分だけ自分も前に出る。 あと少しで壁に背が付く。それ以上は逃げられない。 「陛下を誑かす女狐を葬ろうとして何が悪い?」 剣先は彼女に向けたままだ。決して逃がしはしない。 確実に狙いを定めて振り上げた。 「陛下をお救いするのは私だ!!」 「ッ―――!!」 ガキンッ!! 彼女に向けて降り下ろした剣を誰かが受け止めた。 狙いを定めたはずの薄紅色の姿は僅かにずれてそこにある。 その代わりに目の前に立った人物が、彼女をその腕に囲っていた。 「なっ」 「陛下!?」 驚愕する自分の声と彼女の声が重なる。 ―――わざわざ名を呼ばなくても分かっている。 自分の前に立ちはだかったのは、私が敬愛する陛下だった。 慎様よりいただきました☆ 「我が妃に何用だ?」 彼女を腕に囲ったまま、今度は陛下が私に剣先を向けてくる。 怒りの臨界点を超えた声音は 永久に溶けぬ氷よりも冷たかった。 「陛下…」 僅かに震える指先で服をぎゅっと握った彼女は、陛下と見つめあった後でこちらに目を遣 る。 彼女を抱く陛下の手に力がこもったのが見えた。 わざとらしい。なんて小賢しい女だろう! そうして陛下を味方につけ、気に食わぬ者を排除してきたのだろう!? 「妃に刃を向けるのは、それを私に向けるのと同じこと。」 狼がこちらへと牙を剥く。 「仕事ができると目をかけていたが、お前も私利私欲に溺れたか?」 「ッッ違います! 私はッ」 「何が違う?」 私利私欲だなんてとんでもない。その逆だ。 私は陛下をお救いするためにその女を陛下から引き離そうとしたのだ。 「陛下ッ 目をお覚まし下さい! 陛下はその女狐に騙されているのです!! 私は、陛下を お救いしようと思ったのです!」 信じて欲しい、陛下がその剣を向ける先はその女の方だと。そう精一杯訴える。 陛下が聞くべきは私の言葉だ。その女の言葉ではない。 「女狐? これが?」 不意に陛下が嗤った。 「狐如きに狼が騙されるはずがないだろう。」 ぐっと腕に力を込め、陛下は彼女を胸元へと引き寄せる。 そうして顔を彼女の方へと近づけた。 「―――これは兎だ。愛らしい、私だけの…な。」 「っ!」 耳元で囁かれた方は顔を真っ赤に染め上げて、それを隠すように肩口に顔を埋める。 その様子を見つめる瞳は蕩けそうに甘く、陛下がどちらを信じたのかを見せつけられた。 私の言葉よりそちらを信じられるのか。 貴方はその女に騙されているだけなのだ! 「陛下!」 「―――私の側に置くものは私が選ぶ。」 私の言葉を遮って、陛下が静かに告げた。 「お前が私を救う? 思い上がるな。」 「ッ」 氷のような言葉が胸の奥深くに突き刺さる。 全身から力が抜けて、手にしていた剣は乾いた音を立てて地に落ちた。 「彼女ほど私の身を案じ、心を砕く者はいない。妃の本質も見抜けないお前が何を言う。」 本質…? この女のどこに、陛下が見出すような価値があるというのだ? 私よりもこの女の方が価値があるというのか? 「まだ分からんようだな。…見込みがあると思ったのは私の思い違いか。」 失望したと紅い瞳が言っていた。 尊敬し、敬愛する陛下から私は見限られたのだ。 「―――…ああ、」 ガクリと膝が折れてその場に座り込む。 力なく項垂れた私にも、陛下は何の言葉もかけてはくださらなかった。 終わりだ。 この方に見放されてしまっては、私に生きる価値などない。 ふと 視界の端に自分の剣が映る。 …あれを使おうか。 「…陛下ッ」 それへと手を伸ばそうとしたときに、突如焦った声を上げたのはあの女。 のろりと顔を上げると、陛下は彼女を抱えて去るところだった。 「どうした? 早く戻ろう。」 「じゃなくて! あの人、置いたまま行く気ですか!?」 背を向けた陛下はすでに興味をなくしていたが、彼女はそれは駄目だろうと意見する。 「あの人は、陛下が大切なんですよ!?」 「それがどうした? 君を殺そうとした者を私が許すはずがないだろう。」 彼女が必死に言い募るも、陛下の言葉はにべもない。 許さないと言ったものをあの方が覆すことはない。それでこそ狼陛下だ。 だから、あの方が間違った私を許すこともない。 「あの人が私にどうこう言ったのは、私が妃らしくないからですっ」 陛下に抱えられた体勢のまま、彼女はじたばたと暴れる。 最初は無視していた陛下も立ち止まらないわけにはいけなくなり、しっかりと抱え直して から彼女の言葉を聞く姿勢を見せた。 「あの人のやり方は確かにまずかったですけど! でも、陛下が大切なのは私と同じなんで す!!」 何故、貴女が知っている。 何故、貴女がそれを見抜くのだ。 「私ももっと頑張りますから! だから、あの人にもチャンスを与えてください!」 大きな瞳に溜めた涙は誰のためだ。 私に恩を売るつもりか? それで優しい妃でも演出するつもりか? 内心でそう毒づきながら、それは違うと言う自分にも気づいていた。 下手をすれば陛下の怒りを買うような行為を、計算高い女がするわけがない。 ―――これが、彼女の本質か。 「…君の涙には私も弱い。」 態度を軟化させた陛下が、再びこちらへと足を向ける。 呆然としている私の前に立った陛下は、僅かに冷たさを残したまま私を見下ろした。 「へい、か…」 ああ、これが、私が思い上がった故の代償か。 その陛下に抱かれながら、彼女は心配そうに見守っている。 「2度と妃に近づくことは許さん。沙汰があるまで家出大人しくしていろ。―――新しい 地で、今度は正しい目を養え。」 それに、ぱっと表情を明るくしたのは彼女だった。 まるで自分のことのように嬉しそうに礼を言う彼女に、愚かな私は己の間違いをようやく 悟ったのだ。 「…寛大なご処置、ありがとうございます。」 地面に頭を擦りつけるほど、深く深く頭を下げた。 しばらく後に、男は地方へと任じられる。 それを陛下から聞かされた夕鈴は、「早く戻って来れたら良いですね」と言ってふんわり 微笑った。 2012.10.19. UP
--------------------------------------------------------------------- お題:イラストから連想する話(指定無し) 遅くなりましてスミマセン… 一月近く開けるのって久々… 今回は リハビリ的に本編時間軸です。3巻の紅珠登場編と下町編@の間くらい? いきなりオリキャラモノローグ。そのまま彼視点で最後まで突っ走り。 イメージはちょっと間違っちゃった方淵というか、方淵をお馬鹿にした感じというか。 方淵も陛下を崇拝していますが、 彼は夕鈴の素を見て陛下の言葉を聞いて、陛下の味方であることは理解していますから。 気に入らないのは嫉妬だと思ってます☆(BL的な意味じゃないですよ!/笑) ちなみに経兄ちゃんは愛すべきただのお馬鹿さんですから違いますvv 経兄ちゃんはしばらく出番ないのかなー 今回のオリキャラについて。…端キャラ、敵キャラでも良いけど。 他にも夕鈴に惚れちゃう刺客とか悪霊と闘うとかと迷って〜 結果的にこれにしました。 そしたらこの人語る語る。止まらなくて苦笑い。 てかこの人、夕鈴に対してかなり辛辣な態度ですよね。存分に嫌ってやってください。 というより女性に対して余程苦い経験があるんでしょうか…偏見すごいなー 本当はあそこで捕縛されて終わりだったんですけど、突然夕鈴が暴れ出しました(苦笑) ほんっとお人好しなんだから。 そんな夕鈴に陛下は惚れ直すと良い。何度でもキュンって惚れちゃえば良い。 ふふ、今回もイラスト付きですよ! 慎様の陛下、今回もものすごくカッコ良い! それを目指したんですけど、なんか足りない自分の力量が悔しいです! 夕鈴を腕に抱えたままの戦闘シーンとかも書きたかったッ でも無理でした!!(涙) 慎様、たいっへん長らくお待たせ致しましたm(_ _;)m いっつもイラストありがとうございます!てゆーか、我が儘言ってスミマセンでした!! もう一つもいつか書けると良いなぁ…v 意見・返品・苦情その他諸々、年中無休でお待ちしております故…


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