泡沫の言葉



『君がいればそれでいい』

 あの人の言葉は泡のようだと思う。
 すぐに消えてしまうもの。

『君が私の妃だ』

 私の心にだけ降り積もって、深い傷を作っていく。

 全ては演技、本気にしてはいけないのに。
 けれど勝手に心に刻まれていく。


 いっそ泡のように消してしまえたら。
 この気持ちごと、耳に残る貴方の声も一緒に。



「無理だって分かってるけど…」

 目の前で泡がぱちんと弾けた。
 泡は次々に水の中で弾けて消える。

 泉から湧き出るそれを座り込んで見つめながら、そんな不毛なことをつらつらと考え続け
 ていた。
 馬鹿だなって心のどこかで思っているけれど、想いは誰にも言えないからこんなことでし
 か紛らわせない。
 




「ああ、こんなところにいた。」
「!?」
 ふわりと身体が浮いて、気がつけば彼の腕の中。
「陛下!?」
「君は本当にすぐにいなくなる。その度に探さねばならない私の気持ちも分かって欲しい
 ものだ。」
「す、すみません…」
 じっとしていない自覚はあるので素直に謝る。
 今だって、侍女も付けずに1人であんなところにいたのだから。


「君がいないと私は夜も日も明けない。」
 甘い言葉と微笑みは、私の心臓を壊しそうになる。

「君と一時も離れて私は生きていけない。」
 だけど、冷めた心の声もある。


(―――貴方はすぐに忘れてしまうでしょう?)



 今日も浮かんでは消えていく泡の言葉達。

 貴方の中には残らないそれは、私の中でだけ、静かに静かに降り積もる――――





2011.9.30. UP



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あんまり短かったので陛下登場。
意外に最近はそこまでの甘々セリフないんだなーと雑誌読み返して思いました。
いや、こう短めでガツンというのが。長々とは言ってますが(笑)



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