幻の世界



 上等の絹に色鮮やかな糸で織られたきらびやかな衣装、
 豪華な調度品に囲まれた部屋、
 見たこともない食材が使われた料理、
 物語の世界のような美しい世界、、

 そこでの私はたくさんの人に傅かれて敬われる。


 身の丈に合わないほどの贅沢は、いつか消える幻のようなもの。
 勘違いはしていない。





『夕鈴――― 私の愛しい妃。』

 あの人に愛される私も幻。

 甘い言葉も優しい笑顔も。
 本当なら私に向けられるものじゃない。

 向けられるのはいつか彼の隣に立つ人。
 彼に相応しい、身分と教養を持った美しい人だろう。


 本当なら会うはずもなかった人。

 あの人に出会えたこと、恋をしたこと、全て奇跡のような偶然。


 出会わなければ惹かれることもなかったのに。
 手の届かない人を好きになる苦しみも知らずにいられたのに。


 だけど私はあの人に恋をしてしまった。
 絶対に叶わない、幻のような貴方。


 勘違いしてしまいそうになるほど、あの人の演技は上手だから。
 これ以上傷つかないために、分かっているうちに離れた方が良いのかもしれないけれど。


 ―――それでも貴方の傍にいたい。


 いつか全てが、幻のように消えるとしても。






2011.9.30. UP



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妃の煌びやかな生活は勘違いしないけれど、彼の演技には勘違いしそうになる。
…というのを言いたかったんです。



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