天邪鬼って私のこと?
      ※ 浩大が普通に出てます。5巻まだ読んでない方はすみません。



「素直になっちゃえばいーのに。」

 掃除のバイトに付いてきては、浩大はいつも勝手にしゃべっていく。
 時には老師と、たまにはこんな風に夕鈴に話しかけたり。

「私はいつも素直よ。」
 一応律儀に答えながら雑巾を絞る手は休めない。
 この立ち入り禁止区域は掃除のしがいがあって、夕鈴にとっては大変有意義なバイトだ。
「普段はねー でもあっちだと途端に天邪鬼だよね、お妃ちゃん。」
 相変わらずの人の神経を逆撫でしそうな態度でケラケラ笑われる。
 でも、浩大の言葉はいまいち分からなくて怒るタイミングを逃してしまった。
「? あっちってどっちよ?」
「えー 好きなのに嫌いって言ったり、傍にいたいのに逃げたり?」
「!?」
 見る間に体中の熱が上がっていくのが自分で分かった。

「ちょ、それ陛下にバレてるの!?」

 それは困る。とっても困る。
 気づかれないから傍にいられるのに、バレちゃったら傍にいられなくなるのに。

 慌てふためく夕鈴に浩大はニヤニヤと笑った。
「いやー オレしか知らないよ。こんな面白いこと教えるわけないじゃん。」
「ん?」
 今、何か言われたような?
「何でもないヨ。」
 怪訝な顔をする夕鈴に、浩大はいつもの飄々とした態度で返す。
「ま、オレからは言うことはないから安心してよ。」
「そう…」


「―――何の話だ?」

「ッッ!!?」
 ビックリしすぎて心臓が止まったかと思った。
「へ、陛下っ どうしてこちらに…!?」
 ふり返ると入口に陛下が立っていて、ちょっと不機嫌そうに足音を鳴らして中に入ってく
 る。

「今日は早く帰ると言っておいたはずだが、楽しみにしていた妃の出迎えがなくてな。」
「あっ! すみません!!」
 しまった、すっかり忘れていたと慌てる。
 ついいつもの時間配分で掃除してしまっていた。


「仕事絡みだと素直なのにねー」
「ちょ、浩大ッ」
「?」
 陛下がいる前で何を言い出すのか。
 けれど、夕鈴の抗議をひらりとかわして浩大は窓から外に出る。
 本当にムカつくぐらい身が軽い。
 笑い声だけを残して、彼はさっさとそこからいなくなってしまった。



「…何の話をしていたんだ?」
 ただでさえ機嫌があまり良くなさそうなのに、今のでますます損ねてしまったらしい。
「何でもないです!」
 でもこればっかりは教えるわけにもいかなくて必死で隠す。

(浩大の馬鹿ー!)
 内心で叫んでみるけれど、ここにいない相手では意味もない。
 というか、自分だけさっさと逃げるなんてちゃっかりしている。
 おかげで1人でフォローしなくてはいけなくなった。


「―――私を差し置いて、他の男と秘密の共有とはいただけないな。」
 掃除婦の格好をした夕鈴でもお構いなしで、狼陛下は腰を浚って引き寄せる。
「な、なんかその言い方は誤解され」
「誤解? 私が知らずに浩大が知っていることがあるのだろう?」
 いや、確かにそういうことなんですけど。
 でも別に疚しいことは…って、違う意味では疚しいのか。


『素直になっちゃえばいーのに。』

 からかう浩大の声が頭の中で駆け巡る。
 それが思いっきり顔に出そうになって慌てて打ち消した。


「本当に大したことじゃないんです。浩大はからかってるだけなんですよ!」
 ムッとしたままの陛下にどうにかこうにか言い訳を並べて誤魔化す。
 だってこれだけは知られるわけにはいかないんだもの。



『でもあっちだと途端に天邪鬼だよね、お妃ちゃん。』
 浩大のケラケラと笑う声が聞こえた気がして、それも頭を振って追い出した。


 あ、天邪鬼なんかじゃないわ!
 この人の傍にいるために隠してるだけよ!!





2011.10.5. UP



---------------------------------------------------------------------


夕鈴は天邪鬼というより頑固者かな?とも思ったり。
最初は浩大と夕鈴だけだったので他を考えてみたけれど、どうしても浮かばなかった…orz
なので、最後の方に陛下を出してみました。



BACK