本当の告白は胸の内に。



 陛下の言葉は、甘い甘い砂糖菓子。
 心が蕩けてしまいそうになる。

 私はその演技を受け止めるだけで精一杯なのよ。





「たまには夕鈴からも言ってもらいたいな〜」
 小犬陛下の無邪気な笑顔に流されそうになって危ないと踏み留まる。
 狼陛下のような怖さはないけれど、小犬の主張は意外に油断ならないのだ。

「な、何をですか?」
 慎重に言葉を選ぶ。
 間違えてうんとか言ってしまわないように。
「だっていつも僕からばっかり言ってるし。たまには夕鈴からも好きとか言ってもらいた
 いなぁって。」
「無理ですッ」
 すっぱりはっきり、切り捨てるように力強く。思いっきり否定した。
「えー」
「私は陛下みたいに演技上手じゃないんです!」
 不満げに眉を落とす陛下に何度も首を振る。


 いくらなんでもハードルが高すぎる。
 どうして好きな人に、演技で告白をしなければいけないのか。できるわけがない。


「……プロ妃は?」
 ぼそりと呟かれた言葉にハッとする。

 そうだった。陛下の傍にいるために、もっとお仕事を頑張ろうって決めたはず。
 気持ちは隠さなきゃいけないけど、演技は磨くべきなのだ。

「…で、でもまずは練習からでも良いですか!?」
 突然は絶対無理。必ずボロが出る。
 でもやる気を見せた夕鈴に、陛下は嬉しそうに笑った。

「じゃあ、今ここで。僕に言ってみて。」
「はいっ」


 笑顔の陛下に促されて、とりあえず陛下の隣に座ってみる。
 そうしてたった一言を言えば良いのだけれど、その一言を言うのにものすごい緊張してし
 まっていた。

「…夕鈴、眉間に皺。」
 少しだけ目線が下の夕鈴を見て、陛下は苦笑いしながらそこを指でつつく。
「"告白"だよ、夕鈴。笑顔でね。」
「は、ハイッ」
 とにかく心を落ち着けようと、胸に手を当てて深呼吸してみた。


 ―――大丈夫、これは演技。
 言っても陛下は本気になんてしない。
 複雑な気分だけど今はそれで良い。
 少しでも長く彼の傍にいたいから。




「陛下… お慕いしておりますわ。」
 ちょっとだけ恥らいつつ、袖で口元を隠して。視線は少し見上げるかたち。
 ただし頬に感じる熱は演技ではなく本物だ。だって告白なんてしたことないし。

「――――ああ、私もだ…夕鈴。」
 甘い声で応えた陛下が腰に手を回してくる。
 手慣れた動作で引き寄せられて、ぴたりと体がくっ付く体勢になってしまった。
 
(ぎゃーっ 陛下の返事は要りませんから――!!)

 恥ずかしくて仕方がない。
 これじゃあまだ人前での演技はまだ無理そうだ。

(ってゆーか、近いですってば!)

 真っ赤になって固まっていると、吹き出した陛下が「よくできました」と笑って言って、
 ようやく夕鈴を開放してくれた。



 ほんっとーに陛下といるといつもドキドキしっぱなし。
 でも、本当は絶対に言えない言葉を、演技とはいえ言うことになるなんて思わなかった。

 私の気持ちは陛下には知られちゃいけないから。
 貴方の傍にいるために、貴方にだけは隠しておかなきゃいけないから。


 だから、

 "貴方が好きです。"

 ―――本当の気持ちは胸の内に隠して。





2011.10.5. UP



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手段を選ばなくなったな陛下(笑)
でも告白の後の「――――」の間に葛藤があっただろうと推測。



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