2.朝食



 陛下は昨夜お会いできなかったからと、朝を一緒に食べたいと仰られたそうです。
 お妃様は少しお困りだったようですけれど、それも陛下の愛故のことですので嫌とは申さ
 れませんでした。


 ―――陛下のお妃様への愛は日々深くなられているように見えます。
 今や片時も離れたくないという様子でしょうか。

 そこまで想われるお妃様は、なんてお羨ましいことでしょう。





 カラン

 その音に、部屋がしんと静まり返った。
 給仕の者がお椀の蓋を床に落としてしまったのだ。

「も、申し訳ありません!!」
 彼女は青褪めた顔でその場に平伏す。
 どんな厳罰を受けることになるのかと、その肩は震えていた。

 ああ、なんてことを…と思っていると、お妃様はにこりと微笑まれる。
 そして顔を上げるように優しく仰られた。

「大丈夫ですわ。割れ物ではなくて良かった。貴女が怪我をしては大変ですもの。」
 陛下がいらっしゃるから緊張していたのね、と。
 さらには徐に席を立たれて彼女の手を取って立たせられる。
 呆然とする彼女の手を包むように握られたお妃様は、ふんわりともう一度微笑まれた。
「次は気をつけてくださいね。」

「〜〜〜はい…っ」
 その者は感激の余りに泣いてしまう。
 さすがにそれにはお妃様も慌てられ、女官の1人が落ち着かせるために外に連れ出した。


(また、信者が増えますわね…)
 去り際に何度も礼を言うお妃様を見る彼女の眼差しは、覚えがあるものに変わっている。


 このような光景ももう何度目でしょう。
 本当にお妃様は不思議な方ですわ。






「私の妃は本当に優しい。」
 一連のことを見守っていた陛下が甘い微笑みをお妃様に向けられる。
 席に戻られたお妃様は、先程と同じ優しげな顔を返された。
「陛下、誰しも失敗はするものですわ。問題は次にどうするかなのです。」

「では、先日の私の失態も許してくれるのか?」
 どのことかと少し考えられた後に気づかれたのか、お妃様がほんのり頬を赤められる。
「ですから、あれは怒っていたのではありませんと…」
 忘れて下さいませと、お妃様は小さな声で仰られた。

 俯き加減のお妃様に、その時の陛下のお顔は見えられたでしょうか。

「君に拒まれた私の心は千切れんばかりだった。」
「もうあのような軽率な行動は致しませんわ。」

 たとえ朝からでも昼間でも、お2人の仲睦まじさは変わらない。
 見ている者は皆、それに笑みを零すばかりだ。

「ああ良かった…」
「……っ」
 今度は真正面から"それ"を見られてしまって、お妃様が息を飲んだのが私共にも分かって
 しまった。


 耳まで真っ赤になられて… 本当にお可愛らしい。

 お妃様が戻られて、陛下は前にも増して甘くなられました。
 陛下を変えられるのはお妃様だけですのね。





<夕鈴、心の叫び>
(しまった、また泣かせた――!)
 今まで辞めた人はいないけど、いつもドキドキしてしまう。
 私のせいで職を失うなんて、そんな馬鹿なことはしないでほしかった。


(そして陛下の演技は朝から恥ずかしすぎるのよ!)
 なんであそこで甘演技が必要なのかさっぱりだ。
 おかげで朝から食欲がわかない。
(午前中は掃除婦バイトなのに、途中でお腹が空いたらどうしてくれるのよ。もうっ)




2011.11.11. UP



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ひょっとして5巻直後くらいなのかしら?(自分で書いといて)



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