3.回廊



 午後からお妃様は陛下のお呼びで政務室に向かわれます。
 それに付き従うのも私共の大切な仕事ですわ。


 お妃様は、向かわれる前に朝とはお召し物も髪飾りも変えられています。
 お召し物は少し明るめの色に、そして花は大きめのものに。今日は睡蓮を象ったものです
 わ。

 衣装に関してはお妃様はすぐに遠慮なさってしまわれるのですけれど。
 陛下のためだとお伝えすると渋々ながら了承なさいました。
 「陛下のため」という言葉はお妃様には有効のようですわ。覚えておきましょう。





「夕鈴?」
「―――陛下。」
 微かに目を瞠られた陛下に、お妃様も足を止めて驚いた声を上げられる。


 それは本当に予期せぬ偶然。
 真っ直ぐ進もうとされていたお妃様と、角から出てこられた陛下がばったり出会われたの
 です。


(まあ、運命ですわね。)
 素敵な偶然に、私共は控えて礼を取りながら小さく笑う。



「こんなところで出会えるとは… 私達はやはり惹かれ合う運命なのだろうな。」
 陛下がお妃様の腰を浚い、抱き寄せられる。
「まあ、陛下。」
 少しだけ恥じらいつつ、お妃様も微笑まれて身を預けられた。


 その際、お妃様がちらりとこちらを伺われましたが…

 ―――大丈夫です。きちんと心得ていますわ。


 私達は背景ですからお気になさらず。
 陛下の後ろにいる侍官と目配せして少し離れることに致します。



「政務室まで共に行こう。」
「…はい。」
 流れるような所作で陛下が促され、お2人は連れ立って政務室へと足を向けられた。



 ああ、なんて素敵な光景なのでしょう。
 回廊の向こうからもお2人の姿を見つけられた方々が視線を送られます。

 それが私は、私事のように誇らしいのです。


 ―――陛下のご寵愛はお妃様だけのもの。
 どなたにも邪魔はできないのですわ。





<夕鈴、心の叫び>

(どうしてそこで離れちゃうの!?)
 夕鈴は止めて欲しかったのに。
 だって回廊のど真ん中だ。気まずい顔とかして欲しいんだけど。

(なのに… 何でみんな笑顔なの!?)




2011.11.11. UP



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どこでもかんでも、2人が出会うと甘演技が始まります。
そして誰も止めない、素敵な(?)環境。



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