4.庭園



 政務室に私共は入れませんので、出られる頃にお迎えに行くことになっています。

 ですが今日は、私共がお迎えに行った時には陛下とお妃様は先に庭園に降りられていまし
 た。
 今日は早めに仕事を切り上げられて庭園へ散策に出られるとのことです。


 お2人のお邪魔をしないように、少しだけ離れて付き従うようにします。
 この距離間も大事なポイント。優秀な侍女はそれを肌で知るのです。





「―――どうした?」
 お妃様の視線の先に気がついて、陛下もそちらに目を向けられる。
 足を止めたお妃様の前には可愛らしい花が一輪咲いていた。
「いえ、美しい色だと思いまして。」


 お妃様は、華美な宝石よりも自然の中の花を好まれます。
 その花も、派手なものより清楚なものを。
 可愛らしい花は確かにお妃様にぴったりですけれど。

 慎ましやかなお妃様を、陛下は物足りないと仰いつつも愛しいと思っていらっしゃるよう
 です。
 だって、見つめる瞳はあんなにもお優しいんですもの。


「気に入ったのなら部屋に飾らせようか。」
 花弁に触れて、陛下は芯へと手を滑らせられる。お妃様が頷かれれば、その場で自ら手折
 れるように。
 けれど、お妃様は首を横に振られた。
「いえ、このままで。無理に手折っては花が可哀想ですもの。」
 その答えに、するりと花から陛下の手が離れて、お妃様の白い頬を指で撫でる。

「君は花にまで優しいのだな。」




(…もう少し離れた方が良いかしら。)
 一連のやりとりを眺めながら、自分の位置を考える。


 本当はもっと近くで見ていたいのですけれど。
 お邪魔をするのは優秀な侍女としていただけません。

 さて、私はどうするべきかしら。


 ―――好奇心との葛藤は、なかなか決着が付かないものですわね。





<夕鈴、心の叫び>

(前みたいに、部屋中に飾られるのは困るわ…)
 周りに非常食がある光景だなんて。

(って、だからどうしてみんな離れるのよ!?)




2011.11.11. UP



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特に何の花かというのは限定してないので、お好きに想像してください(笑)

ちなみに私は陛下の手が好きです。(誰も聞いてない)
細くて長くて、あの骨ばった感じが色っぽいんですよ!(語んな)



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