5.夕食



 散策からの流れで、陛下とお妃様はそのまま夕食もご一緒することになられました。
 私には願ったり叶ったり、という状況ですけれども。


 …今日はなんて素敵な日でしょう。
 こんなにお2人が一緒に過ごされているなんて、滅多にないことですわ。





「食べないのか?」
 卓の上に所狭しと並べられた料理を前に、お妃様の箸は先程からほとんど進んでいない。
 ついには箸は手を離れ、卓に置いてしまわれた。
 その様子を陛下も少々心配されたようで、気遣わしげに尋ねられる。
「気分でも悪いのか?」
 陛下のお言葉に対して、お妃様は いえ、と静かに首を振られた。
「陛下とご一緒ですので、胸がいっぱいで…」
 僅かに紅潮した顔でほぅと短く吐息を漏らされる。

 その時一瞬だけ、陛下の動きが止まったような気がしたけれど、見間違いだったらしい。
 今日何度目かになる甘い顔で微笑われた。

「私のせいか… ―――では、私が食べさせようか?」
「っ け、結構です!」
 その言葉に恥ずかしくなられたお妃様が身を引かれてしまう。
 拍子に椅子がガタンと鳴った。

「そんなに遠慮せずとも。」
「いいいいいえいえ! 大丈夫ですから!」
 今度は激しく首を振られる。その表情は必至、というご様子で。
「そうか?」
「はい!」

 どうやら陛下の提案は下げられてしまったようだった。



(…残念ですわ。見たかったですのに。)
 けれど、それを表情に出すことはない。
 私共はただにこにこと微笑んで見守るのみ。

(―――いつか見れたら良いですけれど。)
 それはいつかの楽しみにとっておくことにした。




「そちらの料理が食べやすい。」
「は、はい…」
 あっさり引かれた陛下に促されて、お妃様も渋々箸を取られる。
 真っ赤な顔で、お妃様はその料理をどうにかといった風に飲み込まれていた。



 ―――結局その後、お妃様のお食事は陛下の半分も進まなかったことをお伝えしておきま
 す。





<夕鈴、心の叫び>

(反撃のつもりだったのに…!)
 朝から胸焼けしそうな甘演技の仕返しをしたつもりが、見事に切り返されてしまった。
 しかもさらに甘い演技の上塗りだ。

(だから恥ずかしいんだってばー!)




2011.11.11. UP



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陛下、実は相当楽しんでんじゃないかな…(^_^;)
夕鈴は演技に疲れてきたのか、ちょっぴり素が出てきてますね。
まあ、自分のせいではあるんですけどね〜 陛下に反撃とか無理だって(笑)

侍女もなんかだんだん素が出てきてますよ?
てゆーか見たいのは私だけども!(笑)



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