7.その後



 人払いが済むと、部屋には陛下と2人きり。
 それを見計らって、陛下の傍を離れた。


「…何故離れる?」
 不満げな狼陛下が空いた手と夕鈴を交互に見やる。
「夜はこれからだというのに。」


 低い、甘い、狼陛下の声。
 心が震える、紅い瞳に射抜かれて。


 ―――でも、夕鈴は知っている。
 これは本当の彼じゃない。


「っっ 演技はもう必要ないです!」
 うきぃと叫ぶと、途端に陛下は笑いだした。
 どうやら狼から小犬に戻ったらしい。

 ほんと意地が悪い。すぐ人をからかうんだから。




「今日は何だか疲れました…」
 お茶を手にしてぐったりとして項垂れる。
「ほとんど演技してたような気がするんです。しかも、視線がいつもより……」
 熱かった、ような気がする。

 特に陛下が甘い演技をしてるときとか。
 気が抜けなくて非常に疲れた。

「今日は一緒にいた時間が多かったからねー」
 小犬な陛下がふわふわ笑って、その笑顔にちょっと心が癒される。


 陛下はすぐに切り替えられるし余裕があって羨ましい。
 私はいつだっていっぱいいっぱいなのに。

 ああ、私ももっと演技上手になりたいな。


「ゆーりん?」
 陛下が不思議そうな顔をして尋ねてくる。

 いけない、いけない。
 陛下がいるのに、陛下を放っておいちゃダメだわ。

「おかわりは要りますか?」
「うん、ありがとう。」



 誰も知らない夜の2人。

 皆の予想を裏切って、ふんわりほわほわと夜は更ける――――




2011.11.11. UP



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=あとがき=
いつも夕鈴の近くにいる侍女達から見たらどんなものなんだろうという。
そんなコンセプトの元で書きました。
アンケの際に"小ネタ集"と銘打っていたのでどれも短めです。

果たして、皆さんの予想通りのものだったんでしょうか?
自分的には違うような気がしないでもないのですが…
本人は楽しかったんですけどね!

普段にこにこして立ってる侍女さん達も、心の中では何考えてんのかな!?とか。
こんな風に観察してたら面白いんだけどな!とか。
そんな感じで、結構感情移入もしつつ書いてました〜v

2人がいつも以上に甘く見えるのは演技だからです☆
関係は本編のままなので〜
ただ、どの辺りかってのは曖昧にしてます。
1巻後か5巻後かってくらいで。(えらい開きだな)
…あ、でもやっぱり5巻後かも。掃除バイトは2巻からだし。

1つでも楽しんでいただけたのなら幸いです。
ありがとうございました!



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