宴の時、夕鈴の席は常に陛下の傍らだ。 寄り添っていちゃいちゃぶりをアピールするのもお妃バイトの大事なお仕事。 …宴は狼陛下の甘い演技だけでお腹いっぱいになるから苦手なんだけれど。 仕事なのだから文句は言っていられない。 「―――この果物は、南の方でしか作られない珍しいもので…」 2人の前ではさっきから献上品の話が続いていた。 戯れに首や頬に触れてくる陛下の指にドキドキしていたせいで、話は半分くらいしか耳に 入らない。 「こちらはそれを乾燥させたもので、実は甘く、お妃様もお気に召すのではないかと思い ます。」 「だそうだ、夕鈴。」 耳元で囁かれて夕鈴はハッと我に返った。 いけない。ドキドキとかしている場合じゃない。 「…美味しそうですわね。」 何とか演技を思い出して、にっこりと笑って応える。 これが何の実だとか全然聞いていなかったけれど。 「確かに美味しそうだな。」 陛下は小さなそれを1つを摘むと、夕鈴の口に押し込むようにして放り込んだ。 「!?」 その拍子に指先が唇に触れてビクリとする。 熱が一気に上がって顔は真っ赤になっているのが自分でも分かった。 夕鈴の反応が気に入るものだったのか、甘く微笑った彼は、今度は見せつけるように夕鈴 の目の前で今触れた指をぺろりと舐める。 「っ!」 (ぎゃー 何してんのよこの人はーっっ) 「美味しいか?」 夕鈴の内心の叫びなど彼は素知らぬフリ。 平然として聞いてくる彼に内心怒りもわくけれど、それを表には出せない。 「…は、はい… とても……」 演技上手の狼陛下相手では、そう答えるのがやっとだ。 本当は味なんかさっぱり分からなかったけれど。 (他に何を言えば良いのよ!?) 演技中だから怒鳴り散らすこともできないし。 逃げることすらできないし。 上がったままの熱と強く脈打つ心臓を沈めることは、まだまだできそうになかった。 だから宴は苦手なのよ…っ 心臓がいくつあっても足りないんだもの。 --------------------------------------------------------------------- セクハラ陛下☆ 果物は干し葡萄のつもりで書いていました。