D陛下(小犬)v夕鈴 -王宮-




 パチン、パチン、

 石を置く音が静かな室内に響く。
 2人の間の盤上には、白い石と黒い石が交互に並ぶ。

 偽装夫婦の夜は、たいてい碁か双六で過ぎていくのだ。
 最初はおしゃべりもしていたけれど、夕鈴が勝負に本気になると黙り込んでしまうので今
 は静かだ。


「はい、僕の勝ちー」
 最後の1つと陛下が黒い石を置く。
「え!?」
 目を丸くした夕鈴がそれを聞いて手元を見比べると、確かに勝負がついていた。
「また負けた…」
 がっくりと肩を落とす。
 手加減をしてもらっているはずなのに、まだ一度も勝てた試しがない。
「初めの頃よりは強くなってるよー」
「でもぜんっぜん敵いませんし。」
 まぐれでも何でも良いから勝ちたいと思うのすら無謀な願いだろうか。

「だったら何か賭けようか。」
 夕鈴の落ち込みぶりを見て、彼はそう提案してきた。
「今夜夕鈴が一度でも勝ったら、何か1つ言うことを聞くよ。何が良い?」
「そうですね…」

 どうせお遊びだし、勝てる見込みもないし。
 だったら多少無茶を言っても良いかしら?

「じゃあ、また休暇もらえますか?」
 軽い気持ちで言ったつもりだった。
「え…?」
 その途端目に見えて陛下がしょぼくれたので、夕鈴の方がびっくりしてしまう。
「…そんなに後宮が嫌になった?」
「え、別にそんなつもりで言ったわけでは…」
 ゲームの景品でそんなに落ち込まなくても。

「―――まあいいか。」
「ん?」
 一瞬彼の瞳に狼がよぎった気がした。
 けれどすぐに、陛下は小犬の笑顔でにっこりと笑う。
「僕、絶対に負けないからね。」
「え!?」


 そうしてその後、本気になった陛下によって、一度も勝てないままに今夜も終わりの時間
 になった。





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碁のルールとか全然知らないんですが。



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