「あら紅珠、髪飾りが…」 彼女の髪からするりと滑り落ちたそれを夕鈴が拾う。 小さな花がたくさんついた可愛い髪飾りだ。 「あっ すみませんっ」 「私が付けてあげましょうか。」 顔を真っ赤にして謝る紅珠にそれを渡さずに、そう提案すると彼女はもっと慌てた。 「そんな…っ お妃様の手を煩わせるわけには…!」 「良いのよ。やらせて頂戴。」 艶やかで美しい黒髪に触れてみたかったのだと。 お願いすると紅珠は少しだけ躊躇って、どうぞと小さな声で言った。 椅子に彼女を座らせて髪に触れる。 よく手入れされた髪は指通りも気持ちが良い。 こんな機会は滅多にないし、髪飾りを付けるだけじゃ物足りない気がした。 「ねぇ、少しいじっても良いかしら?」 今の髪型ももちろん可愛いのだけど、紅珠ならどんな形にしても似合いそうだと思う。 「いつもはされる側なんだもの。たまには私もやってみたいわ。」 楽しそうな夕鈴に戸惑いを見せつつも、今度も紅珠はこくりと頷いた。 櫛を侍女に持ってきてもらい、彼女の髪をほどいて丁寧に梳く。 「お妃様はよくこういうことを?」 手際の良さを感心されながら、紅珠からそんな風に尋ねられた。 それにはいいえと首を振る。 「家には弟しかいなかったから、実はあんまりないの。」 ただ、家では自分で結っていたし、友達同士で遊んでいたから得意な方なのだ。 さすがに紅珠にそれは言えないけれど。 (おだんごよりも高いところで括った方が可愛いかも。) そんなことを考えながら、横に少し髪を垂らして残りは一つにまとめた。 まとめた髪にまた何回も櫛を通す。 (三つ編みをたくさん作るのも楽しそう。でもそれだと、せっかくのストレートが勿体な いかしら…?) 世話を焼かれるより焼くのが好きな性分なので、久しぶりの髪結い遊びは楽しくて仕方が ない。 「私… 初めてなのですわ。」 ぽつりと紅珠が言った。 「私には兄しかいないので……」 「まあ、そうなの。」 表面ではにこりと微笑むに留める。 けれど内心では、頬を赤らめる姿にずきゅんと胸を打ち抜かれていた。 こんな可愛い子が本当の妹なら良いのに。 もちろん青慎も可愛くて良い子だけど。 2人に囲まれて過ごせたら、毎日がきっと平和で楽しいだろうな。 陛下が聞いたら「僕は!?」と泣きそうな顔で聞いてきそうなことを、紅珠の髪に飾りを 挿しながら夕鈴はぼんやりと考えていた。 --------------------------------------------------------------------- 夕鈴と紅珠の組み合わせは姉妹みたいで好きです。 てゆーか、陛下可哀想(笑)