「あ。」 街の真ん中、とある店の前で偶然2人は鉢合わせた。 「げ。」 顔を合わせた途端に、夕鈴は思いっきり嫌そうな顔をする。 夕鈴の手には芋と大根。 ちょうど夕飯の買い出し中だった。 「…げ、とは何だ。」 失礼だなと几鍔が言えば、噛みつく勢いで威嚇で返す。 「嫌な奴に会ったから当然じゃないっ」 「幼馴染相手に随分だな。」 「認めてないわよ 私は!」 しかし、慣れている彼はそんなに気にしてなかった。 ぎゃんぎゃん騒ぐ夕鈴に煩いと言いながら適当にあしらう。 「お前1人で何してんだ? あの男は?」 あっさり話題を変えて、几鍔は辺りを見渡した。 しかしそこには夕鈴の姿以外には誰もいない。 「夕飯の材料の買い足しに来ただけだもの。あの人は青慎と留守番中。」 そう答えながら、代金を店のおじさんに渡す。 それ以上は話もないと几鍔を置いて店を後にした。 「…本気で泊まらせる気かよ。」 さっさと帰ろうとする彼女の隣に並んで歩く。 「どうだって良いじゃない。アンタには関係ない話でしょ。」 ふいっとそっぽを向いて足を速めるが、歩幅が違うので引き離せない。 悔しいけれどすぐに追いつかれた。 「物好きだな。」 ブチッ 「だからっ どうだって良いでしょ!?」 「どうでも良くねーだろ!」 往来の真ん中で、2人同時に大声を上げた。 周囲は何事かと2人を見るが、互いにそんなものは構っていられない。 「あんなうさんくせー男を泊まらせるなんて何考えてんだお前は!」 「身元ははっきりしてるわよ!」 「そういう問題か!?」 「アンタより立派な仕事してるわっ」 ギャラリーは増える一方だが、みんな止めようとはしない。 それはそれがいつもの光景だったからだ。 下町の誰もが、夕鈴が王宮でバイトを始める前までは毎日のように見ていた。 「…下町名物を見るのも久しぶりだねぇ。」 「すっかりご無沙汰だったからなー」 近所のお年寄り達は、2人の喧嘩を遠目で眺めながらのんびりお茶をすする。 さっきの野菜売りのおじさんが「夫婦喧嘩か〜?」と茶々を入れ、「「違う!」」と2人 同時に声を揃えて怒鳴るまで、それは続いたとか。 --------------------------------------------------------------------- P陛下(小犬)&几鍔と微妙にリンク? 休暇1日目のつもり。