「ここがよく野菜を買いに来るお店です。」 自分の生まれ育った町を陛下に案内する。 陛下に下町案内なんてすごく不思議な感覚だけど、陛下はとても楽しそうだったから私も はりきって話していた。 「久しぶり、おじさん。」 「おっ、夕鈴。今日は休みか〜?」 声をかけると、顔馴染みの男性はすぐに夕鈴だと気づいて笑顔を向けてくる。 ここは野菜の種類が豊富で新鮮で美味しい。 さらにおじさんも気さくで話しやすいから夕鈴のご贔屓だった。 「数日だけね。また後で買いに来るからよろしく。」 「新鮮なやつ取っといてやるよ。芋と大根で良いか?」 「ええ。ありがとう!」 これで今夜のおかずはだいたい決まった。 陛下が食べたいと言っていた庶民料理を今日は久しぶりに披露するのだ。 「おや?」 おじさんが夕鈴の後ろにいる陛下に気がついて、物珍しそうに眺め見た。 「夕鈴が青慎以外の男を連れてるなんて珍しいな。その兄ちゃんは恋人か?」 「ち、違うわよっ! 変なこと言わないでよ!!」 からかわれていると分かっていても真っ赤になってしまう。 必死で否定したけれど、信じてもらえずにやにや笑われるだけだった。 「ついに夕鈴にも春か。」 「だからっ」 反論しようとして、ハッとした夕鈴は後ろを見る。 「恋人かぁ。」 そこには何故だか嬉しそうにニコニコしている陛下がいた。 「そう見えるんだねっ」 「いえ、あの…」 からかわれてるだけなんですけど… とは何だか言い出しにくくて、夕鈴は続きの言葉を飲み込んだ。 --------------------------------------------------------------------- 下町ネタはだいたいリンクしてます。 オマケ 「几鍔じゃなかったか〜 確実だと思ったんだがな〜」 「新恋人とは意外だ。誰か賭けてた奴いるか−?」 「大穴きたよなー」 夕鈴のお相手を賭けてた下町の人達とか。