「いーにおいだー」 美味しい匂いに誘われるがまま、浩大は窓から侵入を果たす。 卓の上にはあたたかそうな湯気を立てたおまんじゅうがいくつも乗っていた。 その一つを手にしていたのはこの部屋の今の主人、臨時花嫁の夕鈴だ。 「浩大… また変なところから入って…」 呆れた顔をされてしまって、それに仕方ないじゃんと返す。 「そんなこと言ったって、オレの場合入り口からは入れないじゃん。」 「それはそうだけど。」 陛下の部屋ならともかく、ここはお妃の部屋だ。 まあたとえ堂々と入れたとしても、絶対窓から入るんだけど。 「ところでこれ、まんじゅう?」 自分が誘われた原因を指差す。 欲しいと思ったらタイミング良くぐーっとお腹が鳴った。 「……良いわ。浩大にあげる。」 「え、良いの??」 聞きながらもすでに手は出している。 さらに彼女は全部持って行って良いと言った。 「――――あげるはずだった人には会えなかったから。」 一応温め直したけれど、自分では食べる気にはならなかったらしい。 そう話す顔が沈んで見えたのは気のせいだっただろうか。 その"あげるはずだった人"に心当たりはある。 というか、他にいない。 (向こうも沈んでるかナ?) たぶん、というか確実に。 (幸せのお裾分け、しに行こっかなー) 機嫌が悪いとみんなも困ると思う。 これは陛下のため、そしてみんなのためだ。 (オレってば良いヤツ!) 自分で自分を褒めながら、持てるだけのおまんじゅうを持って、浩大は窓から次の目的地 に向かった。 --------------------------------------------------------------------- @陛下&浩大とリンク