M几鍔v夕鈴




 夕鈴が王宮のバイトから帰ってきたらしい。
 今回はあの男はいない。
 バイトは辞めたらしいと聞いて、理由は察した。

 帰ってきてからずっと泣いているのだと、そう言ったのは青慎だ。
 予想はしていたが、実際そうなるとやっぱりムカつく。

 だから言ったんだ、あの馬鹿女。

「…何泣いてんだよ。」
 俺の顔を見た途端に、夕鈴はすぐに背を向けた。
 泣いている自分を見られるのがそんなに嫌か。
「アンタには関係ないでしょ!?」
 元気じゃねーか。
 叫ぶ元気があれば十分だ。
「あの男と何かあったのか。」
 他に理由はないだろうとはっきり言えば、びくりと肩が震えた。
 そうして振り返った夕鈴の目は真っ赤になっていて、泣かせたあの男への怒りは募る。
「どーせ振られたわよっ」
 分かっていて好きだった。遊ばれていると分かっていてあの男を選んだ。
 忠告しても聞こうとしなかったコイツが悪い。
「後悔はしてないわ。この涙はケジメのためよ。」
 毎日泣いておいてそれを言うか。
 それだけ本気で好きだったんだろう。

 ああもう馬鹿だろ コイツ。
 …けれど、その馬鹿なところが愛しい、と。

「――――俺じゃダメか?」
「は?」
 俺の言葉に夕鈴がピタリと泣き止んだ。
 意味が伝わらなかったらしく、思いきり怪訝な顔をされる。
「だから… 俺じゃダメなのかって言ってんだよ!」
 彼女の頭を引き寄せて、そのまま強く抱きしめた。
 これで分からないとは言わせない。
「ちょ、」
「今更気づくのもどうかと思うんだが…」
 ガラにもないことしてんなと思う。
 弱みにつけ込むわけでもないが、これで涙が止まるなら良い。
「俺にしとけ。」

 まだ好きでも良い。
 今はまだ待っててやるから。

 今この腕の中で、涙だけは止めろ。





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幼馴染CPが好きなんですよ。
こういうラストもありなんじゃないかと思ったり。
陛下に振られる前提ですが。



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