「ちょっと、方淵ッ」 他に誰もいない書庫の奥で、できるだけ声を潜めて話す。 いきなりこんなところに連れ込まれて、驚いたりもするけれど。 「誰か来たらどうするのよ!?」 ここは官吏であれば誰でも立ち入ることができるのだ。 夕鈴が焦るのも当然だ。 「他に2人になれる場所がない。」 「それはそうだけど…」 狭い場所に隠れるようにしているから2人の距離は近い。 このドキドキもこの男には通じないのかしら。 「謝りたかったんだ。さっきは心にもないことを言った…」 珍しくしおらしい態度で謝られてしまうと妙な気分になった。 前はもっとひどいことを言っていたくせに。 「演技だもの。気づかれないためには仕方ないわ。」 クスクスと笑って言えば、相手も安心したのかホッと肩の力を抜く。 それくらいで私が怒ると思ってるのかしら。失礼な人ね。 「…ところで、ちょっと睨み過ぎじゃないか? 本気で嫌われてるんじゃないかと思ってし まった。」 ちょっと、それを貴方が言う!? 「それはそっちが睨むからで―――…っ」 思わず叫んでしまって、慌てて口を塞がれた。 2人きりでここにいるのが…2人の関係がバレたら大変なことになる。 彼は陛下の臨時補佐官、将来を約束された人なのだし。 いずれの時のためにも今はまだ隠しておかなければならない。 「…面白くないから仕方ないだろう。」 不機嫌そうに眉を寄せて、彼がぼそりと言う。 「バイトとはいえ、陛下とベタベタするし赤くなるし…」 方淵とこんな関係になってもお妃バイトは継続中。 陛下にはバレているけど、その前にあの人には振られているし。 「だってあの人、演技過剰なんだもの…」 からかっているだけだと分かってはいるんだけど。 この人の前でしかあんな演技しないから、2人同時にからかってるのよね。たぶん。 陛下を尊敬(むしろ崇拝?)しているこの人は、それにいつ気づくだろうか。 --------------------------------------------------------------------- 恋人前提で方淵v夕鈴。 陛下はちょっかいかけてからかってる感じで。