「ねえ桃香。」 「何ですか? お嬢様。」 棚を整理していたら、お嬢様がいつの間にかそこにいて話しかけられた。 並べてある中から一つの小瓶を手にとって、彼女はそれを光にかざす。 「惚れ薬って何のために使うの?」 お嬢様が手にしているそれは、先日お妃様を巻き込んでの騒動になった例の薬だ。 あれ以来しばらく自粛していたが、やっぱり小遣いが欲しくて今も作っている。 「お嬢様がお望みなら、陛下に使ってみますか?」 冗談のつもりで言ってみた。 "惚れ薬"の本当の意味も知らないお嬢様だし。 「嫌。」 するときっぱりと即答されてしまった。 旦那様が聞いたら泣くかもしれない。 「どうしてですか? お嬢様が使えば正妃になれますよ。」 お嬢様は由緒ある氾家のご息女。 素性不明のお妃様と違って、後宮に入れば即立后できる。 「私は陛下の傍にいる自信がないもの。」 今度もお嬢様ははっきりと否定の意志を伝えた。 やっぱり泣くかもしれない… お嬢様は狼陛下の花嫁になることを止めたようだ。 「陛下のお相手はお妃様以外には無理だと思うの。」 今はお嬢様は陛下よりもお妃様に憧れを抱いている。 旦那様の野望のためには、お妃様と仲良くしているのは良いことなんだろうけれど。 でもお嬢様にその気がないから、旦那様の野望が成就する日は遠そうだ。 (どうするのかしら?) 完全に他人事で、桃香はお嬢様の手にある小瓶を見つめた。 --------------------------------------------------------------------- 桃香って氾家ではけっこう特別扱いなのかなぁ?