「…留守番してるんじゃなかったのかよ。」 その男に出会した時、思わずそう声に出していた。 そんなに広くないとはいえ、立て続けに会うのもどうかと思う。 さっき夕鈴とは野菜の前で口論したばかりだった。 声をかける気はなかったが、目が合ってしまったから仕方ない。 「夕鈴は?」 開口一番それかよ お前。 何だか無性に腹が立つ。 「俺がアンタに言う義理ねーだろ。」 「うん、まあそうだよね。」 正直に言うのも癪で適当に突っぱねると、相手もすんなり納得してきた。 やる気どころか気が抜ける。どうにも掴めない奴だ。 「手料理食べさせてもらうんだから、荷物持ちぐらいしなきゃと思ったんだけどな〜」 嬉しそうなのがまたムカつくな。 つーかやっぱり泊まる気なのかよ。 「……もう帰ってんじゃねーのか。」 買い足しだとか言ってたから、あの後どこかに寄ったとも思えない。 何、親切に教えてんだか 俺も。 「あ、そっか。すれ違っちゃったかな。」 脳天気にお礼を言って、マントの男は元来た道を帰っていった。 ―――うさんくせー男だ。 貴族のお坊っちゃんが庶民の暮らしを珍しがって付いてきた。 その程度の話だろうが、夕鈴の方はどうだか。 「あの馬鹿女は単純だからな…」 俺がしっかり見てねーと。 世話の焼けるガキだなと思いながら、人混みに消える外套の男を見送った。 --------------------------------------------------------------------- G夕鈴&几鍔とリンク? てゆーか、下町ネタはだいたいリンクしてますが。