1:夫婦仲は相変わらずです。(兄)



 朝食を食べる室に入ると、いつものように周りから拝礼される。
 そこに両親と妹の姿はない。今日は自分が一番のようだ。

「父上と母上はまだなのか?」
「…あの、はい。申し訳ありません…」
 しばしお待ちくださいませと言われて、別に構わないと返して自分の席に着く。

 つまり、昨夜はどちらかがどちらかの部屋に泊まられたということだろう。
 いつものことだ。相変わらずの仲の良さに呆れこそすれ怒る気にはなれない。



「兄様、おはよう。」
 次いで妹の鈴花が室に入ってくる。
「おはよう、鈴花。」
「……お父様とお母様はまた"ご一緒"なの?」
 彼女も見回して察したらしいが、だからといって特に何も思うことはないらしい。
「そのようだ。」
「相変わらず仲良しね。」
 それだけ言って、彼女も何でもないことのように座る。

「私、3人目が産まれても驚かないわ。」
 冗談半分で鈴花がそんなことを言うから、
「それは父上が認めないだろうな。」
 それに即答で返してやった。

 愛する妻を独り占めしたいという態度を崩さない父は、子ども達にすら嫉妬を隠さない。
 自分達が小さい頃は我慢していたようだが、2人がある程度分別の付く年になった頃から
 は全く遠慮しなくなっていた。
 そんな父が、また母を取られるようなことを許すのかというと、有り得ない気がする。

「……心狭すぎ。」
「今更だ。」
 呆れる妹に淡々と返し、少しざわめきだした室の外に目をやった。

 どうやら両親がようやく来たようだ。




 女官達が拝礼し、兄妹も席を立って出迎える。

「「おはようございます。」」
「ああ。」
「おはよう凛翔、鈴花。」
 外では狼陛下と恐れられる父の表情も、家族だけの後宮では幾分柔らかい。
 そして傍らの母はいつものように満面の笑顔で返してくれた。

 夕食は父の政務の都合上無理なことがあるから、せめて朝は家族全員で。
 それは母の意見だ。

 母が産まれ育った下町ではそれが普通とのこと。
 王宮では普通ではないと教えてくれたのは、後宮管理人の張老師だ。


「遅くなってごめんね。」
 反省の欠片もない父とは対照的に、母は本当に申し訳なさそうな顔をする。
 しかし兄妹からすれば気にするようなことでもない。

「どうせまた父上が離さなかったのでしょう。」
「大丈夫よ、お母様。みんな慣れてるから。」
 自分達だけではなく、この宮の全員がいつものことと思っている。

「さすが私達の子だな。物分かりが良い。」
 さらには元凶がしれっとそんなことを言うものだから、

「ッ そういう問題じゃないでしょう!!」

 今日の朝は、母の怒声から始まった。




2011.12.28. UP



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なんてゆーか、陛下…
子ども達は見慣れすぎてクールですね。

全話だいたいこんなノリです。



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