2:老師の講義は度々横道に逸れます。(妹)



 ここで一番の物知りはと聞いたら張老師だと言われた。
 だったら老師にいろいろ話を聞きたいと言ったら、それから時々講義の時間が設けられ、
 歴史や作法などを教わるようになった。
 …その大半は途中で雑談になってしまうのだけど。
 でも他のどの講義より面白いから、鈴花はこの時間が好きだったりする。


 そして今日は、鈴花の質問から話が逸れていった。


「陛下と后の馴れ初め… そう言われてもの。」
 鈴花の唐突な疑問に、張老師は長い髭を撫でつけながら考える。
「本当のというなら、知っとるのはメガネくらいじゃろうな。」
 何でも知ってるはずの老師からの意外な答えに、鈴花は目をぱちくりさせた。
 特にこういうの好きそうなのに。
「わしが后と出会った頃には、あの娘はすでに陛下にとって特別な存在じゃったからの。」
「え、そうなの?」
 それも意外だ。
 だって、母が正妃になったのは後宮に上がってかなり経った後だったし、老師は母が臨時
 妃をしていた頃からの知人であるはず。
「後宮は王の癒しでなくてはならん。あの娘は臨時妃の頃からそれを成しておった。」


「―――だから、あの手この手でくっつけようとしてたんだよね。」
 老師の言葉を次いだ声は、全く違う方向から聞こえた。


「浩大。」
 いつの間に入ってきたのか、彼は窓に腰かけて笑っている。

 この隠密に潜り込めない場所はないのかというくらい、本当に神出鬼没な男。
 ついでに言うと、見た目から年齢が判断できない謎の人物だ。

「お互い頑なでなかなか上手くいかんかったがの。」
「最終的には陛下がキレたんだけどねー」
 そう言うと、今度はケラケラと声を上げて笑った。
 そんな単純な話だったかしら?とも思ったけれど、端的に言うとそうなのかもしれない。


「ね、浩大が最初に会ったときの2人ってどんなだったの?」
 浩大の視点は独特で新鮮だ。
 それでよくお母様を怒らせてるけれど、他人事として聞いてる分には面白いから聞いてみ
 た。

「特別扱いしてんだなーって思ったよ。」
 答えながら、中に入ってきた浩大は卓に置かれていた煎餅をつまむ。
「だってさー 狼陛下が怖がらせたくない嫌われたくないって本性隠して、過保護なくらい
 に大切に守っててさ。ビックリしたね。」
 さらにはぷぷっと笑う。
「まあそこで大人しく守られているような娘じゃなかったけどね。」
「まあ… それは、お母様だもの。」

 だから狼陛下の正妃としてここにいられるのだ。
 氾家と柳家をはじめとする曲者達を押さえつけ、官吏達から多大な支持を受ける存在とし
 て。


「そっくりだよね、公主ちゃん。」
 その言葉に含まれる微妙なニュアンスを感じ取って彼を睨む。
「それ褒めてないわよね?」
「よく言われる。」

 …他人事としては面白いんだけど。
 自分のこととなるとやっぱり腹が立つわよね。

「…後でお父様と兄様に言ってやる。」
「ウワ、それ止めて。」
 人を馬鹿にしたような笑顔が一転、思いきり顔がひきつる。

「浩大。お主の負けじゃの。」
 老師の笑い声が室内に響いた。




2011.12.28. UP



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老師と浩大はだいたいセットのような気がします。

鈴花は世間ではおっとりしてると思われてるんですが、実際は結構勝ち気のようです。
夕鈴のお妃演技と一緒で外への影響を考えて作ってる感じ。



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