5:もちろん母にも聞いてみました。(妹)



「好きになったきっかけ?」
 隣に座った鈴花の方へと顔を上げた母は、刺繍の手を止めて膝上に置く。
 白布に色鮮やかな赤い花が、糸の微妙な濃淡で表現されていてとても綺麗だ。

 この趣味は妊娠中にあまりに暇だったからと始めたらしい。
 ―――繕いものの方が得意だと呟いていたのも鈴花は知っているが。

「はい。だって誰も知らないと言うので。そしたら李順が本人達に聞けば良いって。」
「…難しいわ。どれなのかしら?」
 困ったように母は首を傾げる。
 その仕草は実年齢に合わず可愛らしく映り、いつまでも若々しい母にはよく似合った。

「…第一印象は"怖い"だったけれど。だって、あの狼陛下よ? 噂だけはたくさん聞いてい
 たもの。―――でも本当は全然違っていて、事情を聞いたら力になりたいと思った。そし
 てあの人を知っていくうちに、強くて孤独なあの人の、味方でいたいと願ったわ。」

 お母様はあまりこういうことを言わない。
 今話してくれているのは、鈴花がそれを聞ける年になったと認めてくれたからだろうか。

「陛下への想いが恋だと自覚したのは随分後だったけれど、その前からきっとずっと好き
 だったの。期限付きの関係だったから、好きになったらダメだって思ってただけで。」


 母の苦労を私は直接は知らない。
 自分が知る母はすでに認められた人だったから。

 でも、一般庶民だった母がここで生きると決めるには相当な覚悟が必要だったと思う。
 考え方も価値観も全く違う世界で、時には命すら懸ける場所で。

 それでもお父様を選んだのは、それだけ好きだったってことなのよね。



「ねえお母様。お母様はお父様のどこが好き?」
「…今日の貴女は難しいことばかり聞くのね。」
 刺繍の道具を全て脇に置いた母から頭を撫でられる。

 撫でられるのは好き。…甘えるのも実は好き。
 いっつもお父様に取られてしまうけど、たまには私だってお母様に甘えたい。

「じゃあどっちのお父様が好き?」
「そうね…恋をしたのは狼陛下が先。でも最初に放っておけないと思ったのは優しい陛下
 によ。」
 つまりどちらも好きなのかしらねと。
 そう言って微笑む母は、とてもとても綺麗で。

 ―――私も愛し愛されるとこうなるのかなと、羨ましいなと思った。


「まあ、狼陛下も演技じゃないと知ったときは詐欺だと思ったけど。」
 そういえばさっき浩大も隠してたって言ってたっけ。

「その時は怒鳴ったの? 殴ったの? 罵倒したの??」
「…それ、どういう意味?」
 嬉々として尋ねる鈴花に母は眉を寄せる。
「え、それがお母様かなーと思って。」
「……」
 はっきりと答えると、何ともいえない顔をされた。




2011.12.28. UP



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息子が父なら娘は母に。意外に真面目な回答でした。
夕鈴も陛下が大好きですよということで。

結局夕鈴は怒鳴ったのか殴ったのか罵倒したのか…(笑)



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