…口説かれてんなよ。(4位:甘々系)
     ※ 几夕恋人設定です。



 ―――ちょっと目を離したら、夕鈴が知らない男と話していた。

 どう見たって道を聞かれている風ではない。
 男の締まりのない表情に苛立ち、几鍔は大股でそっちに向かった。


「何してんだ。」
 後ろから引き寄せ、彼女を片腕で囲う。
 それは男から夕鈴を守るためと、誰のものかを知らしめるためにだ。
「几鍔っ」
 声で気づいたらしい夕鈴はぱっと顔を上げた。
 ちょっとだけ嬉しそうに見えるのは、気のせいではないと思いたい。

 ―――腕の中の彼女は今はもう逃げない。
 それは変わらない2人の、少しだけ変わったところ。


「…!」
 一方男は几鍔の名前を聞いてぎょっとする。
 下町で広く知れ渡っている自分の名前はこういう時便利だ。

「で、そいつは?」
 夕鈴に尋ねながら視線だけ前を向いて軽く睨むと相手は思いきり怯んだ。
 気の小せー男だなと呆れる。このくらいでビビるような男には手を出す気にもならない。

「あのね、新しい甘味処ができたって勧誘されてたの。」
「…おい」
 至って無邪気な夕鈴の答えに、几鍔は思いっきり脱力した。

 …絶対勧誘じゃないだろ。
 そーいうのはナンパっつーんだ バカ。


「―――それくらい、俺が連れて行ってやる。」
「わっ」
 言うが早いかひょいと片腕で抱き上げて、そのまま男の前から連れ去った。












「…ったく、口説かれてんなよ。」
 面白くないと内心で毒づく。
 王宮から戻って少しだけ変わった彼女には、最近言い寄る男が増えた。
「何?」
 …タチが悪いことに本人は全く自覚がないが。
「何でもねーよ。つーか、軽いなお前。」


(…こいつ、こんなに細かったか?)
 いつの間にか開いていた体格差に驚く。

 それだけではない。
 丸みを帯びた身体も、さらりと流れる柔らかな長い髪も。
 昔とは違う。大人の女だ。
 きっと多くの男が放っておかない。


「ってゆーか、いい加減下ろしなさいよバカッ!」
 ―――前言撤回してやろうか。
 見た目は女らしくなった割に中身はそのまんま。口の悪さも変わらない。

 だいたいバカって何だ。
 ナンパ野郎から助け出してやったのにそれか。

「捕まえてないとどこ行くか分かんねーからな。」
 けれどそれを言うのはいろいろ複雑で癪だったから別の言葉にすり替えた。


「〜〜〜恥ずかしいのよっ」
 几鍔は最初から気づいて無視していたが、夕鈴も周囲の視線に気づいたらしい。
 確かに今の状況は目立つ。

「…だったらこれで良いか?」
 仕方なく下ろして、代わりに手を繋いだ。

 その時夕鈴の肩が震えた気がするのはたぶん見間違いじゃない。
 …それでも離す気はないが。
 それに、夕鈴のそれは拒絶じゃないのも分かっていた。顔が赤い。

「…、子どもの頃みたいだわ。」
 視線を落として不満げに呟かれる。
 けれど振り解かれることはなくぎゅっと握り返された。

 口まで素直になるにはまだ少しかかるらしい。
 今までがそうだったから、別に気にはならない。

「そうか。」
 だから、それだけ言って小さく笑った。











「良かったッスね 兄貴!」
 2人を影から見守る子分達は涙を流して喜んでいたとか。




2012.1.13. UP



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几夕は2万企画のあれが基本設定です。
甘々指定だったのでちょこっと書いていた陛下の部分は削除しましたー
え、甘くないですか? いや、この2人ならこんな感じでも十分甘いですよ!(笑)
恋人繋ぎはしなかったようです。どんだけゆっくりペース。気が長いな 兄貴!

意識的には手を繋ぐまでの進展ですが、その前に腕の中に囲ったり抱き上げたりしてますよ!?的なノリ(笑)
几夕ネタ箱には今、「素朴な疑問」と「結婚式」と「その後」というネタがあります。
いつか書けると良いなぁ。しかし、どの話にも陛下の影が(笑)


・オマケ・
「あれ、アンタお茶だけ?」
「…お前、俺が甘い物食うように見えるか?」
「そういえば昔から甘い物苦手だったっけ。…ごめん、つまらなくない?」
「別に。美味そうに食ってるお前を見てるのは退屈じゃない。」
「〜〜〜ッ!?」

無意識に甘々な台詞を吐いて夕鈴を赤面させれば良いv



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