消毒(5位:微エロ)
     ※ お題「爪先」の後日談ぽい感じです。



 夏の暑さにバテ気味だった夕鈴のために、陛下はまた奥の泉に連れてきてくれた。
 後宮の庭園の最奥にあるそこは 常に水が湧き出ていて、水は冷たく空気も幾分涼しい。

 そしてまた人払いをしてくれたから、今回は遠慮なく裾をめくって水の中に足を浸した。


「気持ちいい?」
「はいっ ありがとうございます!」
 元気よく応えるとにこりと笑って返される。
「そんな風に喜ばれると、連れてきた甲斐があったなって思うよ。」

 狼陛下は妃に甘い。
 そして陛下は私に優しい。

 それに甘えちゃいけないって思うけれど、こういう気遣いは単純に嬉しい。
 それだけじゃなくて、あんな風に嬉しそうにされると、無碍にしてしまうのもいけないと
 思うから。

(…小犬みたいなあれにすっごい弱いのよね、私。)








「! った…」
「どうしたの?」
 夕鈴が上げた小さな声にも気が付いて、彼はぱしゃぱしゃと音を立てて水の中を歩いてく
 る。
 大したことじゃなかったから、夕鈴は何でもないと首を振った。
「大丈夫です、ただ水底の石で軽く切っただけですから。」
 気にする程度でもないかすり傷だ。
 だから大丈夫だと言ったのだけれど。

「見せて。」
 急に厳しい顔になった陛下に問答無用で抱き上げられて、近くの岩場へ下ろされた。
「え、あの、」
 陛下をかなり下に見てしまうその位置に夕鈴は慌てたが、彼はそれを気にすることなく傷
 の位置を確かめる。
 そこにきらきらと輝く澄んだ水を数度かけられ、それでも赤く浮き出る一筋の傷に陛下は
 一層顔を顰めた。

 左足の踝の上の、本当に小さな傷。
 すぐに跡形もなく消えてしまいそうな、気に留める必要もないくらいの。

「これくらい、放っておいても…」
「ダメ。」
 強くはっきりと言われて面食らう。
 そんな深窓の姫君でもないのだから、これくらいの傷は気にしないのに。

「わ…ッ」
 足を引こうとした方向と違う方に力が働いて、少しだけバランスが崩れる。
 咄嗟に両手をついて転ぶことはなかったけれど。
「へ、」
 何をするんですかと抗議の声を上げようとして、そこで夕鈴は言葉を失った。


 踵を軽く掴まれ持ち上げられて――― 傷口に、音を立てて口付けられたのだ。

「!!?」
 慌てて身を引こうとするけれど、陛下は逃がしてくれなかった。

 戯れに爪先に口付けられたときとは違う。
 捕らえる指先には力が込められ、彼の唇はそこから離れない。

「…ッ」
 冷えた足にそれは焼けるように熱く感じられた。
 傷口の上を赤い舌が這うと傷がぴりっと痛んで震えてしまう。

 …本当は震えた理由は違うのかもしれないけれど。そんなの夕鈴には分からない。


 丁寧に、執拗に。同じ場所を何度も舌が行き交う。

「ちょ…ッ」
 直感的にダメだと感じて足を引こうとする。
 何が"ダメ"なのかは自分でも分からないけれど、とにかくこのままじゃダメだと思った。

「夕鈴」
 低い音が肌を伝う。漏れ触れる吐息は熱い。
「動くな。」
 逃げることは許さないとふくらはぎにもう一方の手が添えられ、長い指がゆったりと撫で
 上げる。
「…っっ」
 途端に背筋を何かが這い上がるような感覚がして、今度は全身がぞくりと震えた。


(なに、……ッ?)

 変な感覚、 知らない疼き。

 自分が分からなくなりそうで戸惑う。
 腰が抜けそうになって、目尻には意味が分からず涙が浮かんだ。


「おね、が… ダ メ…ッ」

 よく分からないものに流されて、頭がおかしくなりそうで。
 息が乱れて苦しかった。

(怖い……っ)

 身は震えるのに身体の奥が熱い。
 視界は滲んでもう眩しいだけしか分からない。


「へ、いか…ッ も…、ゃ……っ」

 ずるりと落ちそうになるのを何とか留める。
 けれど身体を支える手は震えていて、思うように力が入らなくて。









「――――これくらいか。」
「……ぇ…?」
 意識が朦朧としかけたところで熱が離れた。
 そうして落ちかけていた身体を支えて起きあがらせてくれて。

「大丈夫?」
 大きな手のひらが頬を撫で、親指で目尻に溜まっていた涙を拭われる。
 その途端にぱちっと意識がはっきり戻ってきた。



「なな なんなんですか今の…ッ!!?」
 上擦った声ながら何とか夕鈴は疑問を言葉にする。

 完全におかしな状態だった。
 わけが分からなくて意識がぶっ飛びかけたとか、普通有り得ない。

「何って、消毒。」
 それにきょとんとした顔で返される。
 他に何があるのとでも言わんばかりだ。

(消毒!? 今のが!!?)
 だけど夕鈴には信じられない。
(嘘、絶対嘘よ! あんなの、普通じゃないでしょう!?)


「でも、ちゃんと手当てはしてもらおうね。」
 すっかりいつもの小犬に戻った陛下は無邪気な笑顔でそう告げる。
 それこそ、さっきの出来事なんか嘘みたいに。
「夕鈴?」


 ―――つまり、いつもの冗談?
 こっちは、わけが分からなくて怖かったのに。

 …そう思ったら、ふつふつと心の底から怒りが沸き上がってくる。
 そしてそれはあっさりと爆発した。


「陛下の馬鹿――ッ!!」
「ええっ?」




 戸惑う陛下が理不尽だと思おうと構うものか。

 私は、本気で、自分が自分でなくなりそうで怖かったんだから―――…!




2012.1.17. UP



---------------------------------------------------------------------


これもリクがなかったので好き勝手に(以下略)
いつものごとくベタネタです。
キスも何にも無しにえろくしたくて。目論見通りになったかはともかく。
妄想はできても書けないジレンマ…難しい……

いえ、何も疚しいことはありませんよ。陛下は消毒をしただけです!(キパッ)









・オマケの陛下視点・

 ―――乱れた吐息、赤く上気した頬、潤んだ瞳
 まるで情事の最中のような… 艶と色を多分に含んだ貌

 そんな君に煽られて、行為は止まらなくなっていく。
 日差しは明るく白いのに、ここだけ夜のようだ。

 甘い君を心行くまで味わいたい。
 何も知らない君には少し酷かもしれないが。

 
「おね、が… ダ メ…ッ」
 微かに震えるか細い声は余計な熱を煽るだけ。

 何がダメなんだ?
 柔らかで眩しい白い肌はとても美味しそうなのに。


「へ、いか…ッ も…、ゃ……っ」
 ずるりと彼女の身体から力が抜ける。
 潤んだ瞳の奥に透けて見えるのは、未知なるものへの恐怖か―――


 ―――残念だが今回はここまでか。
 彼女にはまだ早かったようだ。


「――――これくらいか。」
 最後に軽く口付けて、名残惜しげに熱を引いた。




って、私のフォロー意味なしだよ陛下!Σ( ̄△ ̄;)



BACK