浩大の日常(9位:ほのぼの)



 隠密の仕事って楽じゃないよね。
 だって、いきなり地方に行けって言われて一年がかりとか。

 ―――まあ、嫌いじゃないから続けてるんだけどサ。



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@刺客を追い払ったり

 お妃ちゃんを守れって、これはオレの今の一番最優先の仕事。
 そのために呼び戻されたってのもある。
 ほら、オレって優秀だからさ。陛下にも信頼されてんだよね。



 日差しが心地良い午後、屋根の上での昼寝中に気配を感じて浩大は身を起こす。

 …今日は何人目だっけ。

「全く、少しは休ませてくれよなー」
 昼間からそんな真っ黒な装束で何してんだか。
 逆に目立つっての。

 お妃ちゃんがここへ来てそれなりに長い期間が経った。
 最初は命を狙うだけだったのが、最近は取り入ろうとしたりこうして探ろうとしたりする
 輩が増えたらしい。
 まあ、陛下の寵愛も変わらずだからね。当然だ。


「でも残念。お妃ちゃんにはオレっていう優秀な番犬が付いてるんだよねー」

 陛下が守れって言うなら守るよ。
 主人の命令には絶対服従だ。

「…あ、捕まえて良いかな? へーかにちゃんと仕事してるって証拠を見せないとね。」
 追っ払うだけにもちょっと飽きた。

「ちょっと遊ばせてもらうよ。」
 どこまでも無邪気に、どこまでも軽く。
 ネズミを上から見つめながら、浩大はにかっと笑った。



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A夫婦演技を眺めたり

 陛下がお妃ちゃんの側にいるときはわりと暇。
 陛下が守ってくれるから、オレは何もしなくて良い。
 そういう時間は何してても良いんだけど、あまりに暇な時は2人を眺めてたりもする。



「おー 真っ赤っか。」
 どうやら2人は侍女や官吏達の前で夫婦演技中らしい。
 お妃ちゃんは必死、陛下はすっごい楽しそうだ。
「おっもしれーなー」

 あんな楽しそうな陛下は見たことがない。
 それだけあの娘が特別で、そして特殊なんだろうと思う。
 大事にしたいと本音を聞いたときも、驚いたものだったけど。

「…どこまでが演技なんだか。」
 絶対本音も混じってるよなぁ。


「―――演技でないと困りますよ。」
「わ、李順さんッ」
 独り言に返事が返ってきてびっくりしたら、下に李順さんが立っていた。
 ちなみに浩大がいるのは屋根の端だ。端近に座り込んで、遠く回廊にいる2人を眺めてい
 た。
「戯れも程々にしていただかないと…」
「…李順さんはお妃ちゃんが心配なんだ?」
 意外に思って見下ろすと、当たり前だという顔で返される。
「当然でしょう。雇ったのは私ですから責任もあります。」


 李順さんはやっぱり帰す気、老師は留めようとしてる。
 お妃ちゃんは…いつかは帰る気なんだろうな。


(…分かんないのは陛下だな。)

 自分は陛下に従う気だ。
 正直どちらでも構わないから。


 オレは―――… 面白ければそれで良い。



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B掃除バイトの邪魔したり

 って、それってなんかオレ悪い奴じゃん。
 ちゃんと護衛って名目があるのにさ。
 ま、張のじーちゃんと一緒にお妃ちゃんで遊んでる自覚はあるけどねー



「頑張るのじゃぞ!」
「はい!」
 老師の助言をメモに取り、お妃ちゃんは元気良く返事を返す。
 そんな光景をオレは横から笑って見てる。余計なことは何も言わない。
 もっと困らせてやっても良いんじゃない、なんて面白いことは言わないよ。


 やる気に溢れたお妃ちゃん。
 家出から帰ってきてから少し変わった。

 プロ妃ってのを目指してるんだって。
 今回の騒動で陛下を寂しがらせたって反省したらしい。

 …寂しいとはちょっと違うんだけど、凹んでたのは確かだよね。
 あれは見てて面白かった。もっと見てみたかったと思うくらい、貴重だったよ。


 お妃ちゃん、頑張ってるよね。
 報われないよって教えてあげた方が良いのかなって思うくらい健気に。

(―――あの人は手強いよ。)

 求めてないから届かない。
 諦めてるから響かない。

 だから、お妃ちゃんの努力がどれだけ陛下に届くか分からないけどさ。


 ……でも、諦めないで欲しいとも思うんだ。

 お妃ちゃんは陛下の"特別"だから。
 その前向きな姿勢が、少しでも陛下の心に響くと良い。


 それはきっと、お妃ちゃんにしかできないことだから。



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C酒を陛下の部屋に持ち込んだり

 仕事の後の酒ほど美味しいものはないよね。
 まあ、どれだけ飲んでもオレは酔わないけどサ。



「おっかえりー」
 今夜も遅くに戻ってきた陛下を浩大は窓に座って出迎える。

 こんな月が綺麗な夜は、風を感じながら飲むのが良い。

「…また飲んでるのか。」
 浩大が手にした酒瓶に目をやって、陛下は呆れた風に溜め息をつく。
 酌だなんてめんどくさいから、瓶から直接飲むのが好きだ。


「あれ、飲まないの?」
 卓の上に置いていた陛下用のそれを素通りして、陛下は書類に手を伸ばす。
 せっかくお土産で持ってきたのに勿体ない。

「あの時のような失態をくり返すわけにはいかない。」
 ああ、じゃあ今日は機嫌が悪いんだ。
 飲んだら悪酔いしちゃうのか。

「あー 酒に飲まれて押しかけちゃって、お妃ちゃんに煽られてがぶってやっちゃったもん
 ねー」
「……人の傷を端的に訳すな。」


 あの出来事は陛下にとっては完全に傷らしい。

 ま、自業自得なんだけどさ。
 我慢なんて慣れないことするからだよ。


「完全にトラウマだねー」
 ケラケラと笑うと睨まれる。
 あ、狼だと危険を感じて即座に笑いを引っ込めた。



「残念。今夜は一人酒か。」
 陛下が飲まないならここにいてもつまらない。
 窓枠に立ち上がって陛下に手を振る。

「じゃ、オヤスミ〜」
 返事がなくても気にせずに、軽く蹴って出て行った。




 もちろん向かうのは寝床じゃない。
 お妃ちゃんの部屋の方。もちろん護衛のためだ。



 ―――オレ達の仕事は、夜が本番だからね。




2012.1.13. UP



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ネタはたくさん出たのですが、全体的に短かったので小ネタ集っぽく。
浩大は1番確信に近い場所にいると思うのでこんな感じです。
何気に冷静というか、客観的に見てるなぁと。
ほのぼのかな?とちょっと疑問に思う箇所もありますが。
本人が軽いのでほのぼので良いのかなーと。

時々思うんですが、浩大ってまさかハタチ過ぎてる?
だってお酒飲むじゃないですか。まあ夕鈴も飲まされてるし関係ないのかな?
あと、浩大っていつ寝てんだろうかと思います。
隠密って夜がメインの活動だろうに、昼も普通にいるんですよね…
そんなわけで、昼寝が好きそうなイメージです。



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