scene2:宴



 宴の場に響く楽の音
 それは時には速く、時には緩やかに。
 様々な音が一つに重なり、美しい調べを作り出す。

 それに合わせて色鮮やかな衣装を纏った女性達が舞う。
 羽のように衣を翻し、時に軽やかに風のように、時に艶やかな花のように。
 声なき物語が聞こえてきそうだ。




 正面の一番高いところに国王陛下とその寵妃は座っていた。
 常に彼女を傍らに置いておきたいとの陛下の意向で、宴ではいつも長椅子が用意され、2
 人並んでそこに座る。

 その前にはたくさんの料理が並べられていたが、舞に魅入る妃はほとんど手をつけていな
 かった。
 減るのは陛下の手元の酒だけだ。


「美しい舞ですね。」
 ほぅと夕鈴は前を見つめたまま息をつく。
「そうだな。」
 おざなりに応えて黎翔が杯を空けると、すぐに給仕に次の酒を注がれた。

「綺麗な人ばかり。」
「ああ。」
 彼女が前を向いているのを良いことに適当に相槌を打つ。
「…陛下もああいう人がお好みですか?」
 すると、くるりとこちらを向いた彼女が見上げてきた。
 その彼女の表情を見て内心で笑う。

(可愛すぎるよ、夕鈴…)

「―――君に勝る者はいない。」
 杯を置いて彼女の細い腰を引き寄せる。
「君なら酒などなくてもどこまでも酔える。」
 彼女が逃げられないのを良いことに、頭の頂に軽く口づけた。
 それに固まったのは腕の中の夕鈴か後ろに控える李順か。

「疑うならば証明してみせるが?」
 腰を撫でるとびくりと反応する。
「け…っ 結構です!」
 行為の意味するところを理解したらしい夕鈴は、慌てて腕を突っ張ると黎翔から離れた。
「それは残念だ。」
 耳まで真っ赤な夕鈴が可愛くて、こみ上げる笑いをかみ殺す。
 そんな黎翔を軽く睨んで、夕鈴は「意地悪い」と恨めしげに呟いた。


 何度身体を重ねても慣れない彼女が愛おしい。
 恥ずかしがって顔を真っ赤にして、彼女は彼女らしいままで。

 狼陛下でも変えられない。
 意志の強い瞳の輝きは誰にも奪えない。

 ―――だから。
 そんな彼女だから、惹かれて止まないんだ。





 舞が終わって黎翔は珍しく舞姫を呼んだ。
 そうして進み出た彼女が跪くと顔を上げるように言う。

「素晴らしい舞だった。あまりの美しさに我が妃が可愛いヤキモチを妬いたほどだ。」
「陛下…ッ」
 夕鈴は隣で演技を忘れて赤くなる。

 ああ、なんて可愛らしいのだろう。
 手に入れる前も手に入れてからも、彼女は本当に自分を飽きさせない。


 ますます彼女に溺れる自分を自覚して、黎翔は内心で1人嗤った。




2011.7.31. UP



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てゆーか、絶対舞とか見てないだろ 陛下。
というツッコミ。



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