それぞれから受け取る二択の先の贈り物− 前編 −




「ハイ!!誕生日おめでとう夕鈴。・・・・・・で、早速の所悪いんだけどね。
 この小さい青い箱と緑の箱。どっちが良いか選んでくれない??」
 

 但し、彼女に【 どちらも 】という選択肢も拒否権も無い。
 因みに今回の主役である汀 夕鈴は…口元を引き攣らせ困った顔で、選ぶ前に自分の目の
 前で満面笑顔の微笑みで花束も一緒に差し出してくる彼を見て、…あえて
 素朴な質問を投げかけてみる。
 

「・・・陛下。あの……貰うのは大変嬉しいのですが何故、今日に限って
 皆さん揃いも揃って二択で私に贈り物を選ばせるんですか・・・??」
 
 今日は夕鈴の誕生日。彼女が開口一番で「 有難う 」でも「 嬉しいです 」
 ……とも言わぬには実は【 ある理由 】がある。
 その経緯を伝えるには二日前の恒例の彼女との会話から話は遡る――…
 





 夕鈴が王宮にて働き始めてから初めての誕生日。
 


 白陽国の国王陛下・珀黎翔は彼女に率直でどんな物が欲しいかダメ元で
 聞いてみようと試みる。  が――・・・
 

『夕鈴は今年のプレゼントで何が欲しい?僕、大好きな夕鈴の為にいっぱい簪とか
 衣装とか贈り物をあげたいんだけどな♪♪』
 
『…っっ結構です!絶対に要りません。陛下、何度も言っている様に私はバイトですよ!?
 そんな高価な物喜んで受け取れる訳がないでしょう!!』
 

 ・・・臨時妃を務める真面目なバイトの夕鈴お決まりの絶対拒否・・・・・・。
 
 声を荒げ必死に息を切らし、愛する僕からのささやかな心遣いを跳ね除け、
 突っぱねる夕鈴に陛下はむーと不満顔を向ける。
 ならば――…これならどうだ?陛下は彼女が唯一弱点とする子犬の表情に
 切り替わりしょんぼり顔で・・・攻めてみた。
 

『――だったらどういう風に贈れば君は素直に受け取ってくれる??』
『ですから…要〜りませ〜〜ん〜!!』
 
『何で?日頃から夕鈴が色々な物与えてくれて僕は非常に感謝しているからそのお返しと
 してプレゼントを贈りたいと思っているのに……ゆーりんって案外冷たいんだなぁ・・・』
『それとこれとでは話が全然違います。良いですか!?仮にも陛下はこの国の王様ですよ!?
 その王様から高価な物受け取るなんて無理ですっっ!!
 只でさえ< 傾国の狐 >とか< 悪女 >とか……根も葉もない噂流されて腹が立つの
 にそんな贈り物貰ったら・・・ホントにその通りに言われているもんじゃないですか〜〜!!』
 

( ・・・・・別にそれでも僕は構わないんだけどね )
 ボソリと聞こえない程度に小声で口にした筈だったが、彼女の長い兎の耳はいち早く内容を
 聞き取ったようで直後、速攻でまた怒られてしまった・・・。
 頑固者の夕鈴に僕は重い溜息を吐く…。
 

( あ〜あ…仕方ない・・奥の手を使うか・・・・。 )
 
『じゃあ――…高価な物以外という条件付なら夕鈴…貰ってくれる?』
『うぐ・・・。そ・・それでしたら・・・・受け取らない事も…無いですが』
『ホントっ!?』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・』
 
 至近距離でしかも子犬の泣き顔で詰め寄られる陛下に対し、真っ赤になって少しでも胸の
 高まりを抑えようと目を逸らそうとする夕鈴。
 しかし、承諾してくれるまで諦めないといった感じで目を逸らせばその瞬間、陛下がその
 視線の向き側に回ろうと何度も何度もしつこく迫ってくるのでとうとう子犬眼力の攻防戦
 に耐え切れず、渋々不本意ながらも【 是 】――と許可を取り夕鈴は文字通り根負けし
 てしまった。
 
 明後日は自分の誕生日……何やら嫌な予感がヒシヒシし、今更ながら
 自分のアッサリ出した判断に気が重い夕鈴であった。
 


「――……という訳だからお前達も夕鈴に何かプレゼントを渡すんだ」
 
 あの会話が成された翌日…。
 陛下は顔を上げず、淡々と山積みされている決済書類にハンコを押しつつ、
 目の前の部下三人にそう言い放った。
 
 ―― 要は有無を言わせない狼陛下の命令である。反対出来る筈も無い。
 後宮管理人の張老師と彼女の護衛役である浩大は若干ニヤニヤしつつも
 従ったのだった。一人を除いては・・・・・・・・
 
「あの・・・陛下」
「何だ?命令が聞こえなかったのか。明日の彼女の誕生日に――…」
「あのですね、夕鈴殿はバイトなんですよ?…そもそも何故、私達も彼女に
 贈らなければならないんですか!?」
 
 そう言うのは彼女の雇用主で上司の狼陛下の側近・李順である。
「不服か・・・?」
「彼女にはちゃんと通常の妃バイト分の給料も特別手当もきっちり払っているんですよ!?
 なのに贈る必要性がどこにあるんです!!夕鈴殿がよく許しましたね。信じられません」
 
 そう冷ややかに眼鏡を押し当てながら黙々と仕事を続ける陛下に側近は全うな意見を述べ
 た。
『ただでさえ財政難なのに……あの小娘』 ――という国王を前に堂々と本音と言っても
 過言でないお決まり文句が眼鏡男の口から聞こえた気がするが、あえて口には出さずひた
 すら無視を決め込む陛下。
 
「まぁまぁ〜李順さん。陛下は『高価な物以外で夕鈴が受け取ってくれる物』
 ――…って言っているんだし。もうちょっと柔軟に考えようよ〜」
「そうじゃぞ。クソ眼鏡…もちっと頭の中の考え回さんかい。そうでないと、有能なお主
 の頭がワシよりも早くにハゲてしまうぞい」
「ハゲは余計ですっ!なりませんから放っといて下さい!!」
 
 張老師のあまりにも酷い物言いに一気にブチ切れた側近は真っ向から仮にも
 喰えない年寄りを怒鳴りつける。
( ・・・クソ眼鏡…って呼び方は良いんだ。 )
 黙々とやり取りを聞いていた陛下と口喧嘩をし始めた二人を宥める隠密は
 心の中で同じ事を呟くが、やはり無言を通した・・・・・・。
 

 やっと落ち着きを取り戻し、半分嫌々で命令に承諾した李順が徐に口を開く。
 
「ところで・・・。陛下が言った条件ですと彼女が素直に喜びを表し、
 高価でない物を贈るという事になればかなりハードルが高く、また贈り物と
 して選ぶ物も難易度が上がりますが……その辺はどうすれば良いのか陛下、
 勿論ちゃんと対策は考えておられるんですか??」
「あーそれ。俺も聞こうと思ってた」
 
 李順の質問に自分も同意見だと言わんばかりに窓辺で酒をちびちび
 飲みながら浩大がハーイと手を挙げ、陛下の返答を待っている。
 
「それなんだが……老師。昨日頼んでいた物を今持ってきてくれないか?」
 「ホッ !! 暫し待って下され・・・・えー…あったあったこれですな」
 
 いきなり名を呼ばれ、老師は何故か異様に頬を赤らめ懐を探り、そしてトコトコ
 と歩み寄ると陛下の執務机の上にちょこんと小さい箱を二つ乗せた。
 
「…あの、これは?」
「うへー…じーちゃんヤケに用意が良いな〜。――もしかして、俺より先に
 じーちゃん策を講じて陛下と早速一緒に何かやってたの?」
「ふっふっふ…浩大。聞いて驚くなよ?ワシと陛下で昨夜良い案を必死に
 絞った結果、出た答えがコレじゃ!!」
 
 コレと聞いて李順と浩大は二つの箱を交互に見比べ…首を捻った。
 
 ――別に変わった所は無い。見たところ只の変哲も無い、黒塗りの
 縦長・横長の木箱がただ置いてあるだけである。
 
「老師・・・・貴方もしかしてボケました?いっその事引退したらどうです??」
「誰がボケとるかこのメガネ!!」
「まぁまぁ…。ボケと突っ込みは後でじっくりやんなよ」
「このボケ老人と漫才なんて冗談じゃありません。一緒にしないで下さい」
 
 話が進まない上に先程から怒気を発して二人を黙らせない陛下に浩大は
 違和感を覚え、ふと視線を寄越してみると丁度次の書類を手に取ろうとした
 ところで目が合った。
 
「ハァ……で悪いんだけど陛下。説明してくんない??
 俺はなんとなくピーンと来たけど李順さんには解釈必要みたいだしさ」
「………。分かった――・・・おい、李順」
 
 冷めた茶を飲み、漸く一段落着いたのか黎翔は筆を置き顔を上げた。
 呼ばれて振り向いた李順は最初は心底不機嫌そうに眉を寄せ、怪訝な
 顔を陛下に向けていたがいつの間にか書類の山が減っている事に気付いた。
 
 正直、本来ならドンドン追加の仕事を机に乗せ続け、喜びたい所だが
 同時に何故、今日に限ってこんなにも仕事を進めるのが早いのか
 率直な疑問を感じ、微妙な顔で真剣な眼差しの陛下を見つめる李順・・・。
 

「陛下。あの・・・不躾ですが何故こんなに仕事の進み具合が好調なのか
 説明して頂けませんか?」
「――李順。説明はしなくて良いのか・・・?」
「陛下を見ていたら疑問などどうでも良くなりました。要は夕鈴殿に二択で
 選ばせるのでしょ?どちらを受け取っても相手側も贈る側も損が無い様に」
 
「ありゃ。という訳で陛下ゴメーン!!説明必要なかったみたい」
「浩大…。お前、絶対ワザと話をふっただろ」
「何の話です?陛下・・・もしかして、何か企んでいるんじゃないでしょうね?」
「気のせいだ。李順、どうせ廊下にもビッシリ書類の山を隠しているんだろ?」
 

「・・・・李順。夕鈴が喜びそうな物を――だからな。お前の場合、彼女に
 ロクな物しか選ばせない気がするし」
「は??」
「あー・・・うん。それについては俺も同感」
「お主自分では気づいておらんと思うが案外鬼でケチじゃしな」
 

「ですから!!陛下まで私を一体何だと思っていらっしゃるんですか!?」
 

キッパリ己の無実を主張する李順だったが、無言で三人の白い目で見つめ
られる視線にぷっつんと切れ、陛下の室からはまだ昼前だというのに妃ではなく
側近の怒号が王宮中に響き渡ったのだった・・・・・。
 



−後編− …に続く★

2014.6.2. UP



---------------------------------------------------------------------


誰が一番夕鈴を喜ばせるんでしょうかねーv


えっと、前後編だと思ってたんですよ。
だから完結したらUPしよー♪とか軽く考えてたんですよ。
まさか、こんなに長編だったとは・・・
幻想民族様、恐れ入りました・・・・・・
 


BACK