それぞれから受け取る二択の先の贈り物− 後編A −




 夕鈴は書庫の奥の棚で、先程あったことを今一度思い返していた・・・。


 今日は自分の誕生日・・・
 嬉しいごと尽くしの自分だけの特別な一日。


 それなのに・・・・


 一番最初の贈り主である老師からのプレゼントは豆本――…。



 ( ・・・・豆本・・・・・・・。――何故に?? )

 もしや最近の貴族の間で流行っているのかしら――??



 夕鈴はとんでもない誤解に妙に納得してしまい、――ふと世の中の男性陣全員に対し信じ
 られないといった疑念を抱いてしまい、少々居心地の悪さを感じながら二人目の贈り物の
 中身をふと思い出し・・・・・・違う意味でげんなりしていた。


 二人目の贈り主は――…

 なんと午前中にお茶を共にした茶友達の紅珠からだった。

 ・・・何故彼女は私の誕生日を知っていたのかが最初に浮かんだ素朴な疑問だったので恐
 る恐るそれについて問おうとしたが、明らかに紅珠は何かの存在に怯え始め 仕舞いには]
 泣き出してしまったものだからあの場では判明出来なかったのが非常に悔やまれる。

 ――が、聞けなかったものの彼女が見せた震えように寧ろ夕鈴は得心が言った模様で、先
 程の政務室の主の顔を思い出しふつふつと怒りが湧き始め、無性にむかっ腹が立ってきた。



 ( 陛下〜〜っっホントに一体何考えて・・・・・!! )




 *** ****  *** ****  *** ****





 あの後、老師をあちこち見て探したが、一向に見つける事は出来なかった。


 一旦諦め、捜索を打ち切った夕鈴は急ぎ掃除婦の姿から妃の衣装に着替えると気持ちも一
 緒に切り替え、夕鈴は突然の申し出といった形で急遽、紅珠と出迎えると今回は予定を変
 え、池沿いの四阿でのんびり語らいながら和やかな雰囲気で茶を愉しんでいた。



『お妃様っ。今日はお妃様の誕生日だとお聞きし、私も感謝も込めて贈り物を届けたくて
 参ったのですわっ!!』

 『・ ・ ・ ・ ・…っ!?』


 そう言うが早いか、紅珠はいそいそと持ち寄ってきた包みから目的の物を出そうと嬉々と
 した表情で花を飛ばしながら手元を動かしているのが分かり、夕鈴は危うく口に含んでい
 た茶を吹き出しそうになった。

 ( えぇっまた・・・!?ちょ…ちょ待って、これって一体何のイベント!?  )


 『紅珠待って。気持ちは大変嬉しいんだけど・・・あの聞いて良いかしら?』

 『??なんでしょうか――…?』



 『何で・・・・・・・私の誕生日、貴女は知っていたの?』



 別に変な意図も勘繰りさえも見せずにただ素朴な疑問をぶつけただけの夕鈴である訳なの
 だが、その問いを聞いた紅珠はみるみる内に今にもここで泣き出してしまいそうになる位
 震えだし、小さくその場に縮こまっていた。

 そのまま俯いている為、突然それを見留めた侍女達はそれを見てどうすべきであるかお妃
 である自分に対処を求めてくる。その行為に夕鈴の心臓がドクンとひときわ大きく鼓動を
 打ち、顔には出さないが内心ではパニック寸前だ・・・・・。


 (――・・・えぇえぇえぇぇ・・・!!??どっ・・・な、何で!?)
 私、何かいけない事言った!?

 ――もしかして、こういう質問は聞いてはいけないタブーとかだったの!?

 ど・・・どうしよう!!

 と、とりあえずここは彼女の気を落ち着かせて・・・・・・。


 『紅珠っ!!別に変な意味は無いのよ。ただ貴女から誕生日の贈り物を貰えるなんて思っ
 てもなかったものだから嬉しくてつい、そのまま驚いちゃって……
 気分を害してしまったのなら謝るわ。だから…ね?泣かないで』

 『お妃様・・・』

 『紅珠……私は幸せ者ね。――では…貴女の愛らしいお言葉に甘えてこの場で見ても良い
 のかしら?』

 『は――…はいっ!!』



 私の気遣いに感動のあまり打ち震えているのか、今度は顔を真っ赤に染め上げると紅珠は
 俯いていた顔を上げ、私をじっと見つめつつ今度は喜び満面の笑顔でポロポロポロポロ泣
 き始めた。

 その様子に夕鈴は少々身じろぎするが、また紅珠の慰めに入って宥めにかかるよりはこの
 まま話を進めた方が賢明な判断だ。



 ( ・・・・・。ガタガタ震え上がられるよりはマシか・・・・・ )
 そう心で考えつつ確認する為、自分の記憶を遡ってみた。



 ――…うん。

 自分が彼女に誕生日を教えた覚えは今迄にだって無かった気がする。



 『…お妃様?どうかなさいましたか??』
 『ふえっ?あ…ご、ゴメンね紅珠。始めて大丈夫よ』


 ・・・・・いかんいかん。

 今は紅珠とのお茶会――。

 多分、今この場に居ないという浩大とかがこの問題について何か知っていると思うから詮
 索とかは後回しにしよう。
 決心を固めると思考を一旦打ち切り、夕鈴が卓の方に目を向けるとそこには色とりどりの
 四季の花々を彩った黒塗りの箱が二つ真ん中に添えられていた。


 『・・・・・・・・・』

 ( ――…もしかしてこの流れは・・・老師と同じパターン!? )
 いやいや。まさか彼女に限ってそんな事は…無い無い。

 ・・・・・・そう。単なる偶然よ!!きっと・・・・。

 『 ――…お妃様?』
 『この贈り物は二つとも私に・・・?』

 紅珠に自分の感情や疑問等をうっかり表に出さぬ様、必死に押し隠しつつ努めて冷静に話
 し掛け、妃演技で頬を赤らめて感動に打ち震えている様に見せる。
 その問いに彼女が一言  『 はい!! 』

 ――...と、応えてくれれば自分は安堵したであろう。



 ...しかし ――。


 『いいえ。実はこの箱からどちらか一つを選んで頂きたいのです』


 どうやら彼女の応えは夕鈴が考え思う程、現実は甘っちょろくはなかった様だ。


 『そうなんですか。分かりました・・・楽しみだわ』


 ――そう表情を崩さず、笑みを絶えず浮かべながら口にするが本音は違う。

 (ごめんね紅珠っっ!!気持ちは本当に嬉しいんだけど…何故かどうしても素直に喜べな
 い自分がいるのよっ!!)


 無邪気でありながらも楽しそうに顔を綻ばせる彼女に対し、グサグサと明確な場所を突い
 て罪悪感の矢が何本も夕鈴の心に強く突き刺さる。

 一方で、こんな醜い感情を紅珠には決して覚られたくはないと必死にボロが出ないよう気
 を張り詰めながらも切に願う此度の主役の華である本人である。


 ( そういえば・・・ )
 ――…と夕鈴は唐突に何かに気づき
 贈り主の彼女・紅珠がこの日の為に持ってきたであろう包みの膨らみを興味本位で目視し
 ようとさり気無く相手に不快に思われないようにと何度か試みたが、ここからでは判別の
 つきようがなかった。


 卓の下、彼女が座っている席椅子の辺りに置いてあるのだろう・・・・・こちら側からで
 は紐の結び目である先端しか見えない。

 夕鈴は変えようもない事実にガックリと頭を垂れた。

 しかし――…何というか、老師とは明らかに違う嫌な予感が先刻から頭を掠めるのは気の
 せいだろうか・・・・・・??


 ...だが、一番目の老師の贈り物の中身に比べたら紅珠の贈り物など天と地の違い、ま
 さに月とスッポン。

 比べるほうが失礼というものだ。

 高価な物だというのには些か質素倹約といった精神を日々、重んじる夕鈴にとっては少々
 気が引けるが、この日の為に彼女は自分なりに必死に私が喜ぶ者を選んでくれたのだろう
 ……その行為そのものに深く愛情を感じてしまう。


 だから中身がなんであれ…。

 今度は怒らず( 紅珠に対して怒ったことないけど )素直にお礼を述べよう。

 ・・・そう思い、夕鈴は自分の右手にある白梅の花が彩られた箱を手に取り、満面な笑み
 を讃えながら蓋を開けたのだった・・・・・・。



 *** **** *** **** ***



 色々な想いが今も夕鈴の頭上で熱い火花を散らせながら交錯する中、唾を飲み込み神妙な
 面持ちでゆっくりと手に取った箱を躊躇いながらも開けた…――。


 その中身に入っていた贈り物。

 紅珠からの私の誕生日の贈り物は・・・・・・




 ・・・ なし( 空 ) …だった。





 『・・・・・・。。』

 ( ――…あれ?この箱を選んだわよね私。 )

 もしかして・・・・・・・・・・紅珠からの誕生日プレゼントって箱!?まさか…今、貴
 族の間ではこういった贈り物が流行っているのだろうか??


 予想以上の衝撃が夕鈴の中で巻き起こった。

 それと同時に頓珍漢な大量の疑問符が彼女の脳内に駆け巡ろうとした。――…・・・・が

( クスリ…―― )

 ...と向かいに座る紅珠から軽やかな笑い声が届き、急ぎ前を見る。

 『紅珠?』
 『お妃様。中身は空( カラ )でございましたか??』
 『へ?・・・・・・え、えぇそうね…。何処からどう見ても何も入っていないわね』


 慌てふためく私の心中などお構い無しに紅珠はまるで悪戯が成功したような顔をして隠す
 こともせずに口元を手で覆い隠し、なおもクスクス小声で私の目の前で笑みを漏らす。


 『こ・・・紅珠…?』

 『残念。外れです』


 『は――ハズレ…ってえ!?』
 『では――次はこの箱とこの箱…好きな方をお選び下さいませ。お妃様』
 『ま・・・またこの中から選ぶの??まさかとは思うけどこの中にも――……』

 『はい!!また外すかもしれません』

 『つまり。――…これって、あれ?もしかしておみくじ方式のパターンかしら?』




おみくじ方式。

 要は< 当たり >を引き当てるまで何回でも引き続けれるといった単純な遊戯の一つで
 ある。

 ――…しかしこのパターン、裏を返せば< 当たり >が出るまで終わることの出来ない
 正にエンドレス状態のくじ引き地獄である。



 但し、引く相手の運が相当悪かったらのお話だが……。




 その私の答えに納得してくれたのか彼女は大いに喜んだのか思わず手を叩き、真っ赤に染
 めつつ誇らしげにその経緯について話してくれた。


 『正解ですお妃様!私、趣向に精一杯工夫を凝らして折角のお妃様の誕生日ですもの…一
 瞬で終わってしまうのは些か物足りないですし、何よりあっという間に一日が終わってし
 まうのは寂しいですからせめてこの場で楽しんで頂きたくて。
 でも…――あの・・・・もしかして返ってご迷惑でしたか??』

 『紅珠・・・・』


 ――…彼女の言い分は分かる。

 しかしこの行為が迷惑だなんて誰が思うというのだろう・・・??

 紅珠の純粋なる言葉に感動して打ち震え、今度は夕鈴が泣きそうになる。


 ( 何っって良い子なんだろう…!! )
 ――と侍女達が目の前に控えていなければ体で表現したくて、青慎と同じ行為で思いっき
 り抱きしめてあげたくなる衝動に襲われる。

 氾大臣が愛らしいと言うのも確かに頷ける。

 なんて純真な子だろう・・・!!


 夕鈴は侍女が居る手前、不可解な行動に出るのを避けるべく、心の内に込み上げ今も湧き
 水の如く溢れそうになる気持ちを全力で抑え、紅珠の手を包み込むと目尻に涙を溜め始め、
 妃は優美な表情を浮かべたまま言葉を紡ぐ…――。


 『紅珠・・・・・。私、今日と言う日を決して忘れないわ…貴女が私にくれた暖かい言葉。
 どの年の誕生日にかけられた言葉より勝る最高の贈り物よ』

 有難う紅珠――。


 そう慈愛に満ちた顔と今にも零れ落ちそうな涙を強い眼差しで見つめる夕鈴の微笑みにこ
 れ以上の幸福はないと彼女は

『 はい。私も今日という日を生涯永遠に忘れませんわ・・・ 』

 ――と、口にすると

 二人は暫しの間、侍女達に敬愛の念を背中に浴びられ続けながらも厚い抱擁を交わし、
 四阿の周囲には溢れんばかりの華々が辺りを優しく包み込んでいく。

 その抱擁も静かに解かれると、彼女達は互いの顔を見合わせ笑いあいながらまた夕鈴の贈
 り物を選ぶ為に紅珠の楽しい語らいと美味しいお茶と菓子をお供に穏かな時間が緩やかに
 流れていったのであった・・・・・・・・。






 因みに余談であるが・・・。


 夕鈴は紅珠と抱擁を解いたその直後、幸福な空気をぶち壊さん限りの災厄に見舞われる事
 となるのであった――。



 紅珠が考案したおみくじ式贈り物選びを再開したのは良いものの主役である夕鈴はなんと
 連続17回もハズレを引き当て、新たに自分の歳が課されたまさに18回目にやっと
 < 当たり >を漸く引く事が叶った。

 自分の悪運の強さと、< ハズレ >を引き当て続ける情けなさに先程の幸せな感情は一
 体どこへやら・・・。すっかり、老師の時と同じく陰湿でどん底な気分に落とされ更に深
 みに嵌ってしまった彼女である。


 紅珠はそれに気を留めず、満足気な表情で自分の屋敷へ帰っていったのだが紅珠は去り際
 に『 実は・・・ 』と、コッソリ夕鈴に耳打ちで明かされた驚愕の発言と予想もしてい
 なかった人物の名に開いた口が塞がらなかった。




 その人物というのは――…夕鈴が最も知る王宮内にて陛下の下、懸命に仕事を行う官吏で
 ある 二人 の名前であった。


 その二人の訪問をきっかけに更なる悪運が主役の華である当事者に降りかかる事になろう
 とは夕鈴自身やまだ今年の誕生日の贈り物を渡せていない彼等にすらまだ知る由もない話
 である――。








- 後編B - ……へ続く♪





− おまけA −

◆夕鈴が漸く引き当てた< 当たり >の箱の中身

 = 宝石が散りばめられ、華の細工が施された色々な形の
首飾り & 簪


 …因みに☆

 箱に入っていた贈り物は一つきりだけではなく、入りきれない位の量が収められていたの
 であり夕鈴はその多さに恐怖に襲われ…思わずドン引き★


 主役である彼女以上に非常に喜んだのが陛下に喜んで頂きたく、夕鈴をいっつも着飾らせ
 る為に情熱を燃やす侍女達だったというのは言うまでも無い・・・・・・。 



2014.6.2. UP



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まさかのくじ引きwww

実は、Bー1まで頂いてるのですけれど。
Bはまとめてからの方が良いのかなぁとか思ったのでここまで。
 


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