狼陛下の協力者




 我が李家は代々珀家にお仕えしている。
 私、李順も幼い頃からそう躾けられて育った。
 いつか珀家のどなたかにお仕えし、公私ともに支え続けると。


 ―――そうして仕えることになった私の主人は 珀黎翔様という。

 珀家末弟でありながら、その才覚は兄弟随一。
 白陽学園を数ヶ月で見事建て直し、現在も維持と発展に力を注いでおられる。
 これは珀家の他の兄上達には成し遂げられなかったことだ。
 私は副会長として影ながら彼をサポートし、また唯一秘密を知る者としてそちらのサポー
 トも行っている。

 今回のこの件であの方は父親からは認められ、珀家での地位も上げられた。
 後継者とも言われる彼に主としての不満はない。


 …しかし、最近気になることがある。
 婚約者候補達からの縁談避けに協力してもらっている少女のことだ。

 主人…黎翔様のすぐ上の兄はこの婚約者候補達に手を焼いて失敗した。
 だから彼は彼女達を一切寄せ付けない方法を選んでいる。
 ところが安定してからはますます彼女達の声は煩くなり、生徒会活動にも支障を来す事態
 にまでになった。 
 その対策に恋人のフリを誰かに頼もうかと考えていたところ、彼女が現れた。

 秘密がばれてしまった時は青くなったが、善良な彼女はそれを黙ってくれた。
 そのついでに(半ば強制的に)頼んだところ、恋人のフリも彼女は引き受けてくれたのだ。

 そこまでは良い。
 この作戦は功を奏し、候補達も大人しくなった。


 しかし問題は、我が主の方にあった。









「…顔が緩んでますよ、"狼陛下"。」
 呆れた顔で李順が書類を机上に置くと、彼は"それ"から目を離して顔を上げる。

「花を見つめてにやけないでください。」
「だってこれ、夕鈴がくれたんだ。」
 一輪のガーベラを手ににこにこと言う彼が狼陛下と同一人物だと誰が思うだろう。

「教室に飾ったものの余りでしょう。」
 渡した時に彼女はそう言っていた。
 その時李順も隣にいたのだから間違いない。
「それでも1番大きく綺麗なのを選んでくれた。恋人同士みたいだろう?」
「…彼女の行動は善意です。間違わないようにしてください。」

 ―――彼女のは善意であって好意ではない。
 最近は毎日一緒に登校しているらしいが、彼女は演技のためだと信じている。


「トゲがあるな。私にだけ恋人ができたのが気にくわないのか?」
 すっと冷えた瞳は"狼陛下"のもの。
 李順の言葉が気に入らなかったらしいが、間違いは正さなくてはならない。
 それが李順の務めだ。
「トゲではなく釘を刺しているんです。恋人ごっこを楽しむのは結構ですが、深く入り込
 めば傷つくのは彼女です。遊ぶのは程々になさってくださいと言ってるんですよ。」


 李順は李順なりに彼女を心配している。
 彼女は良くも悪くも純粋で善良だ。
 誤解を招くことがないようにと李順は忠告した。


「あながち遊びでもないんだが…」
「何か?」
「いや。」
 聞き取れず聞き返すと彼は口を噤む。
 何か都合が悪いことでも言ったのだろうが、まともな返事は期待できないから追求はしな
 かった。


「とにかく、もうすぐ他の役員が来ます。それまでにはその顔直してくださいよ。」
 花を見て再び緩んだ顔を指摘する。
 これで戻らなかったら取り上げるしかない。
 その空気が伝わったのか、彼は表面上だけすぐに切り替えた。

 赤い花は水が入ったコップへと移される。



「花も良いけど、ここに夕鈴がいてくれればもっとやる気が出るのになー…」

 ぼそりと呟かれた言葉は独り言として、聞かないフリをした。





2011.4.3. UP (2012.2.10.修正)



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狼陛下の二面性は李順しか知りません。夕鈴のスタンスは原作と同じ。
李順さんが夕鈴を心配してるのも原作通りです。
会長(ってゆーか陛下)が夕鈴を気に入りすぎているので胃を痛めている今日この頃です。



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