ドラマ『狼陛下の花嫁』




A撮影が終わって


 大人気ドラマ『狼陛下の花嫁』は、「王道かつ斬新なもの」を求め続ける可歌まとが脚本
 を手掛ける王宮ラブファンタジーである。

 今回の新たな試みとして、役者名をそのまま役名にあてる方法を採用。
 その結果、平均視聴率30%越えの大成功をおさめ、下町が舞台の劇場版を挟んだ後、現在
 は春の宴編を放映中―――…






「方淵センパーイ 見ましたよー♪」
「―――浩大か。何をだ?」
 ニヤニヤと笑って飛びついてくる後輩を、方淵は怪訝な顔で見返す。
 周りで見ていた女性スタッフがきゃあと黄色い声をあげるが、そこは二人とも気にしてい
 ない。

 二人はユニットこそ違うものの、共に某大手アイドル事務所に所属する先輩後輩の間柄だ。
 面倒見の良い方淵と人当たりの良い浩大なので、二人の相性は悪くなかった。
 実はこういう戯れ合いもよくある光景だったりする。

「しらばっくれないでくださいよー」
「? 意味が分からない。」
 そこで浩大がぐっと体重をかけてきても、方淵は然程気に留めない。
 何も言われないのをいいことに、浩大はもう完全におんぶ状態で楽しげに笑った。
「メイク係の娘が転びそうになったのを咄嗟に抱き寄せて助け、さらには「大丈夫か?」
 と至近距離からの笑顔でノーサツ!」
 背中の上でオーバーリアクションをしてもブレないのは互いの運動神経故のこと。
 分かっているので浩大も遠慮がない。
「さっすがアイドル!! あの娘、絶対オチましたね☆」
 目なんかハートマークでしたよーなんて面白がる浩大に対し、それでも方淵は不思議そう
 な顔のままだ。
「何を言ってる。お前もアイドルだろう?」
「いや、オレはあんな風にナチュラルにできないっスから。爽やかイケメンアイドルを地
 でいくセンパイには敵いませんって。」

 役柄とは全く異なり、方淵は正統派爽やか路線のアイドルだ。
 ファン曰く、「笑顔にキュンとくる!」だそうである。
 ちなみに浩大は甘え上手の末っ子タイプで、年上のお姉様方にファンが多い。

「転びそうになったら普通助けるだろう? 助けたら大丈夫かと聞くのも普通だと思うが。」
「あそこまで限りなく自然かつスマートにできる人はごく少数っスよ!」
 当然だろうと言わんばかりの方淵に浩大が即ツッコミを入れる。
「もうっ! ほんと根っからアイドルなんですからー」
「はいはい。もう好きに言ってくれ。」
 背中の上で暴れる浩大を呆れつつ宥め、そこで降りろと言わない辺りが彼らしいところだ。

「ところでお前もこれで上がりだろ。この後どこか食べに行かないか?」
「だったら焼肉が良いっす!」
 現役高校生らしい育ち盛りな発言に、方淵は苦笑いする。
 そういえば撮影前も食べたいと叫んでいたのを思い出したのだ。
「でも二人で行くのか? 焼肉なのに?」
「えー じゃあ他にも誘いますよ〜 あ、夕鈴ちゃんと黎翔さん!」
 ぴょんっとようやく方淵の背中から降り、たまたま近くにいた主役二人に声をかける。
 二人の方も撮影は終わっていたらしく、浩大が手招きするとすぐにこちらへやって来た。


「なーに? 大ちゃん?」
 夕鈴と浩大は同じ年だということもあり仲が良い。
 "大ちゃん"の愛称は浩大から言い出したことで、今やすっかり定着していた。

「二人ともこの後暇? 方淵センパイと焼き肉行きたいって話してたんだけど。」
「行きたいのはお前だろうが。」
 勝手に言うなと方淵が浩大の頭を小突き、それを見て夕鈴がクスクス笑う。
「私は良いよ。黎翔さんは?」
「焼肉かぁ。僕も久しぶりに行きたいかも。」

「よし、決まり!」
 じゃあ着替えたらロビー集合と浩大が纏めて、4人はまた後でと一旦別れた。




2014.1.19. UP



---------------------------------------------------------------------


浩大と方淵メインです。
方淵は王子キャラになってますが、浩大はあんまし変わりませんね。
ちなみに夕鈴は気持ちクールで、黎翔は小犬寄りです。



BACK