君の隣、僕の隣




『雨の後だから、転ばないように。』
 
 そんな言い訳で君と手を繋いだ散歩道。
 小さな手のひらを包み込んで、離れないように少しだけ力を込めて。
 
 君の隣は僕のもの、僕の隣は君のもの。
 ずっとそうだったらいいと願う。
 
 ずっと独りだった。それで平気だった。
 でも、君を知ってしまったから。
 
 繋いだこの手を離したくないと思う。
 ずっとここにいてくれたらと、小さくて遠い夢を抱く。
 


「夕鈴」
「はい?」
 律儀な君は、僕の声に応えてくれて。
 照れてちょっとだけ赤くなった顔をこちらに向けてくれる。
 
「夕鈴、」
「はい、何ですか?」
「うん。呼んでみただけ。」
 ふふっと笑うと「何ですか それ」と呆れた顔をされた。
 
「夕鈴」
「はいはい。」
 
「夕鈴、」
「聞こえてますよ。」
 
 君が応えてくれることが嬉しくて、つい何度も試してしまう。
 だって君がここにいる。
 
 君が隣にいてくれること、それはとても嬉しいこと。
 この手の中にあるぬくもりが、ずっとここにあれば良い。
 
 君がいなくなるなんて考えられない。考えたくもない。
 僕が初めて欲しいと思ったものだよ。
 
 ―――そうして僕は、もっと君に貪欲になる。
 



「ね、夕鈴。」
「…何ですか?」
 顔を上げた君と視線が合って、僕はにっこり笑う。
 
「君も、名前で呼んで。」
 
 そしたらもっと僕は嬉しい気持ちになれると思うんだ。
 



2012.11.19. UP



---------------------------------------------------------------------


イメージ曲:IKU『木の芽風』

コミュ用の小話なのです。もっと書きたいなぁvv
最近は黎夕ソングを探しまくる日々ですよー



BACK