雨の日の憂鬱




 しとしとと降る長雨。
 今日も朝から空は鈍く重く、薄暗い世界を作り出す。


 几鍔は今日もいつものように窓際に腰掛け、立てた膝に頬杖をついて景色を眺めていた。
 そこから町の様子を見守っているのだということは、子分達は誰もが知っている。

「アニ―――」
「止めとけって。」
 面白いニュースがあると伝えに行こうとした男の首根っこを掴んでもう一人が止めた。
 何だよと不満そうに頭だけ振り返るが、相手は首を横に振る。

「今日の兄貴、機嫌悪いんだからさ。」
「…ああそっか。今日は雨か。」


 雨の日になると兄貴は不機嫌になる。
 理由は誰もが知っているから誰も聞かない。
 そしてこういう日は、余程のことがない限り誰も話しかけてはいけない。

 それは彼らの中の不文律。


「だったら仕方ないな。」
 男は報告を諦めると、もう一人と連れ立ってその場を離れた。









「……聞こえてんだよ。」
 室内は静かで廊下の声はよく響く。几鍔に聞こえていないはずがない。
 遠ざかる足音にバカがと小さく吐き捨てる。


 朝から降り続く静かな雨。
 今のところ話しかけてくる奴はいない。

 いつもそばにいるアイツも、今日ばかりは姿を見せていなかった。
 まあ、近くにはいるんだろうが。


「…俺は猛獣か。」
 気遣われてるのが分かるから余計に苛立つ。
 話しかけられてもまともに返さないだろうから、奴らの選択は間違ってはいないが。
 いつになく静かな周りに背を向けて、几鍔はまた視線を眼下に戻した。




「―――――…」
 ふと、雨の中を濡れて走っていく女が目に入る。
 背で揺れる髪の長さがちょうど同じくらいだったせいで、一瞬あの女がダブって見えて舌
 打った。



 少し前――― 久しぶりに帰ってきた幼馴染は面倒事を抱えていた。

 ガサツで乱暴なあの女を気に入る男など、宮中にはいないだろうと思っていたんだが。
 …よりにもよって、あんな一癖も二癖もありそうな男に引っかかりやがって。

 明らかに身分が高い、上級の貴族としか思えない男。
 本当にアイツの上司なのかも疑わしい怪しい男だった。

 …アイツはいずれ捨てられる。
 本人も遊ばれている自覚はあるのだと言っていた。

 ―――それでも、あの男の手を取った。


 あの男に抱き上げられたまま去っていく姿を思い出す。

『ちゃんとやるって自分で決めたのよ』

 ああ、そういう奴だよ お前は。
 絶対誰にも頼らない。


『変な心配して邪魔しないでよね ばかっ』
 元気いっぱい叫んでいった。


「……バカはお前だ。」
 あの時と同じ気持ちで呟く。



 ―――ただでさえ雨の日は傷が疼いて気分が悪いってのに。


 あの男と夕鈴を思いだしてさらに苛立ちが増した。




2012.11.22. UP



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ツッコミ日記には「雨の日に」と同時期に書いたもの。
時間軸は4巻後くらいかな?と。
某A様の絵板の兄貴を見て胸キュンvしてその勢いで書いたネタでした。
この話はわりと思った通りに書けたのでお気に入りです。

兄貴が大好きです☆
兄貴の背中に抱きつき隊を結成しかけるほどにはvv



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