歩幅





 ※ 几夕恋人設定です。許容できる方だけどうぞ。
   基本設定は2万企画ネタ+秘密部屋です。










「ね、ちょっと出かけない?」
 そんな風に誘ってきたのはあっちの方。
 
 かといって、行きたいところがあるわけでもないと続けて言った。
 ただ二人で出かけたかっただけだと。
 
 天然はそんな殺し文句でこっちを落として、見事にオレを外に連れ出した。
 




 特に目的もなく二人でぶらぶらと町を歩く。
 方々から声をかけられるのももう慣れて、二人で追及を躱したり。
 時折あっちが何か言ってくるのに返したり、露店を除く背中を眺めたり。
 
 何も特別なことなどない。ごく普通の日常風景。
 ただ、アイツが楽しそうだから好きにさせていた。
 アイツが笑っているだけで、満足だった。
 


「―――おい、昼はどうす」
 ふと、空腹に気づいてこちらから声をかけてみれば、何故か横にいたはずの姿が消えてい
 た。
「あ?」
 立ち止まって視線を巡らせると、かなり後方に夕鈴の姿がある。
 何してんだと踵を返すと、いきなり「馬鹿」と言われて睨まれた。
 
「なんでオレが怒られんだよ。」
「私とアンタじゃ歩幅が違うのよッ」
 追いつこうと必死だったのか、息を切らす相手から「置いていくな」と怒られる。
 ああ、そうかと、言われて初めて気がついた。
 

 今まで並んで歩くことなんかなかったから気づかなかった。
 
 簡単に抱き上げられるほど小さな身体。
 そんな相手がこっちのペースに付いてこれるはずがない。
 …コイツと一緒に歩くなら、こっちが気をつけるべきだった。
 

「悪かった。」
 ほらと手を差し出すと、分からなかったのか首を傾げられる。
 コイツの鈍さは相変わらずだ。
 仕方がないから細い手首をこちらから掴んで腕に回させた。
「ちょ、」
「…オレはこういうことに気が利かない。」
 赤くなって慌て出す恥ずかしがり屋の反論を続ける言葉で塞ぐ。
 
「だから、言いたいことは言え。こういう時はすぐに呼べ。」
「きが」
「お前の声はちゃんと聞く。」

 
 それぐらいはやろうと思う。
 
 ―――もう何が原因であっても、絶対に泣かせたりしない。
 泣き続けていたアイツを見たときにそう誓ったんだ。
 



2012.12.15. UP



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 イメージソング:BUMP OF CHICKEN『スノースマイル』

「君と歩くには少しコツがいる 君の歩幅は狭い」から妄想。
冬になると聴きたくなる曲です。ってか、1週間くらいずっと流れてました。
書き終わったら流れなくなったので、これは書けという暗示だったのかもしれません(笑)
しかもこのネタが浮かんだのが修学旅行中のバスの中というww

今回黎夕じゃなかった理由は、
段差でさりげなく手を差し出すようなタラシな陛下はそんなヘマしなさそうだから(笑)

某様に「落ち葉を蹴飛ばすなよ 今にまた転ぶぞ」の部分も兄貴っぽいと言われて納得☆
兄貴はものすっごく優しい人だと思います。
こんな兄がいたら良いのに。ブラコンになるよ 私。



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