夢を見た朝は




「ん……」
 眩しくて寝返りを打つ。
 寝室に朝の光が射し込む中、ゆっくりと開いた瞼から覗く榛色の瞳はまだ少しぼんやりと
 していた。
 はっきりと目が覚めればくるくると色を変えるだろうその顔には、今はまだ何の感情も浮
 かんでこない。

「――――…?」
 ようやく目の焦点が合った頃、彼女の視界――― 白く波打つ敷き布の向こうに濃紺色が
 目に入る。
 それは彼女もよく見知った色彩だ。けれど今見る色ではない。
 普段なら有り得ないものを目の前にして、小さく唸った彼女はとりあえず一度目を閉じた。
「…………」
 そうして再び目を開けてみたものの、状況は全く分かっていない。
 目の前の存在は夢ではなかったらしい。

 ぱちぱちと目を数回ほど瞬かせていると、目の前にあった端整な顔立ちがにっこりと微笑
 んだ。
「おはよう、夕鈴。」
「……おはよう、ございます。」
 それは朝に交わされるべき ごく普通の挨拶。
 故に彼女は習慣で返してしまうが、その表情は相手と対照的だ。

「…陛下?」
「うんっ」
 呼べば即座に返事が返ってきた。
 嬉しそうに頷く彼の後ろには、元気良く振られる尻尾…の幻が見える。


「ここは、私の部屋ですよね?」
「うん、そうだよ。」

 夕鈴の問いには当然とばかりの返答。
 しかし、彼女の疑問は一つも解決していない。

 ここは夕鈴の部屋。さらに言えば一番奥の寝室だ。
 今は朝。なのに枕元に人がいる。

 この状況が普通であるはずがない。


「…何をなさってるんですか?」
 続いての問いには、彼はちょっとだけ首を傾げた後で、きょとんとした顔をまた笑顔に戻
 した。
「ん? 夕鈴の寝顔を見てた。」
 その言葉に夕鈴の眉間の皺が深くなる。
「……何のために?」
「何も? ただ可愛いなって。」
 表情も声音もその内容も、朝っぱらから新婚さながらの甘すぎる解答だ。

 …一応夫婦なのだから新婚という言葉に間違いはないのだが。
 しかし、仮の夫婦に加え 演技不要の寝室で、この会話は必要ないはず。


「………そもそも、何故陛下がここにいらっしゃるんですか?」

 ここで珍しく夕鈴が叫んだり暴れたりしないのは、単にまだ混乱しているだけだ。
 寝起きで働かない頭は黎翔が紡ぐ言葉の半分も理解できていなかった。



「ああ。夢に君が出てきて―――」
 蕩けるような微笑みで、熱を含んだような声を注ぐ。

「けれど朝起きたら君がそばにいなかったから、そうしたら会いたくなった。」
 大きな手のひらが夕鈴の髪に触れ、繊細な細工にでもそうするように優しく撫でる。


「…君は、ちゃんとここにいる。」
 髪から目尻に頬に、横になったままの夕鈴に黎翔の温かい手が触れていく。
「陛下…?」
 小さな呟きが聞き取れなくて聞き返そうとしたが、首筋まで辿った熱が離れたと思った次
 の瞬間に視界がぐるりと回った。

「……え?」
 ころんと上向きにされて、絡んだ指が夕鈴の身体を寝台に縫い止める。
 上から見下ろしてくるのは昏く笑う紅い瞳。


「―――ねえ、夕鈴…」
 少しだけ寝乱れた夜着から 普段は見えない白い肌と鎖骨が覗く。
 組み敷いた身体はいともあっさり拘束された。

「君の存在を、今ここで確かめたいといったらどうする?」

 明るい朝には不似合いな、夜の闇のような彩(イロ)。
 近づく紅い色が深みを増す。


「……陛下、」

 夜ならば艶を帯びた闇に飲まれていたかもしれない。
 昼ならば真っ赤になりながら演技で返したかもしれない。

 でも、今は朝だ。


「…ここは叫んで良いところですよね?」
 冷めた目で、むしろ睨むように。
 今までの甘い雰囲気をぶち壊して、低い声が最後の質問を紡ぐ。


「……ごめんなさい。」
 調子に乗りすぎました……

 また大嫌いと言われるのは勘弁だと、黎翔は素直に謝った。




2013.1.6. アルバム完成



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めいさんの企画、ゲーム作成に参加しました☆
ノベル形式のゲームです。
陛下と夕鈴の表情が変わる!音楽が鳴る!
そしてスチルがある!(アンジェリーカーとしてこのオマケは嬉しかったv)
まず、目次の陛下からして可愛いんですけどもvv
私の他に、さくらぱんさんと林々さんがSSを提供しておられます♪

どんなものかな?と思われた方は、、、

  ↓のめいさんのpixivページをご覧ください♪  
            (動作環境:WindowsPCのみ対応)

 【狼陛下の花嫁】ゲーム化企画



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