金銀玉の簪で飾られた飴色の髪。 透き通るような白い肌に映えるうす紅色の唇。 衣の色は春色の重ね、風に揺れる天女の羽衣。 ―――その日彼は、月夜に舞い降りた天女を見た。 「ッあの美しい姫君はどこのどなただ!?」 「…は?」 経倬に詰め寄られた取り巻きの一人が目を丸くしていると、彼は興奮気味に池の対面を指 し示す。 「あそこにいらっしゃる姫君だ! あの、月の精もかくやと言わんばかりの!!」 いや、天女だ!と叫ぶ彼の言う通りの方を見てみた。 その時にはすでにかの姫君は背を向けていたが、顔を見ずともそれが誰だかすぐに分かっ た。 おそらく彼でなくともすぐに分かる。…むしろ、目の前のこの御方が気づかない方が不思 議だ。 「しかし、経倬様。あの御方は…」 「ああ、いや、皆まで言うな。」 聞いたのは自分のくせに、相手の言葉を押し止めて彼は頭を振る。 「きっとやんごとなき身分の御方なのだろう。だが、私は柳家長男。不可能などないのだ!」 いや、不可能だと思います。 心優しい彼はその言葉を飲み込んだ。 「…誰か、あれがお妃様だと教えてやれよ。」 その様子を遠巻きに眺める政務室の面々は同情も含めた視線で彼を見やる。 「しかし、あれだけ盛り上がってるのに水を差すのも可哀想じゃないか?」 「夢は夢のままが幸せだろう。そっとしておこうか。」 奇しくも意見は一致したので彼らはそのまま傍観を決め込んだ。 「相変わらず君の兄君は面白いね。」 「くだらん。」 水月がのんびり言って笑う隣で方淵は一言で切り捨てる。 「手厳しいね。」 「馬鹿はいつまで経っても馬鹿だ。付き合いきれん。」 ―――結局、彼に真実を教える者はいなかった。 2013.7.15. UP --------------------------------------------------------------------- 誰か教えてあげて下さい。 方淵だったらばっさりはっきり言ってくれるでしょうが。それも可哀想だ… 実は、「華やかなる宴の舞台裏」のボツ案だったりします☆